* 題名のない舞踏会 * <2> 「そろそろ、抜け出そうか」 「抜け出す?」 「そう。今夜はアリスを捕まえれば、僕の目的は達成されたわけだからね」 ブラッドが嫌いな舞踏会に顔を出したのは、アリスを自分のモノにするため。 その目的が達成された今、もうここにいる必要などなかった。 「まだ、国王に挨拶も済んでいないのに?」 アリスだって本当は来たくなかったけれど、国王主催だからと言われて仕方なく。 なのに挨拶もしないで抜け出したら、キャンベル家の娘は礼儀がないと言われてしまうだろう。 いくらなんでも、両親に恥をかかせるわけにはいかなかった。 「アリスはまだ、国王に会ってなかったの?」 「はい。今夜、初めてお会いするんです」 「わかった。じゃあ、僕からお祖父さんに言っておくから、後でゆっくり挨拶に行くって」 「お祖父さん?」 「あぁ、アリスは知らなかった?国王は、僕の母の父親。つまり、僕のお祖父さんなんだ」 ───えっ…国王が、お祖父様?! うそ…ブラッドのお母さまは、王家出身だったの…。 全然知らなかったわ。 ブラッドの母親は国王の3番目の娘でハミルトン家に嫁いでいたのだが、舞踏会デビューしたてのアリスにはまだまだわからないことだらけ…。 「そうなんですか?だったら尚更、挨拶を」 「僕もずっと舞踏会をサボってたから、今行くと色々言われると思うんだ。だから、後でゆっくり小言を聞くことにするよ。それより、今はアリスと一緒にいたいからね」 ブラッドはアリスをしっかりと自分の方へ抱き寄せると、静かに宮殿を後にした。 ◇ 「ブラッド?」 「大丈夫、そんな顔しないで。僕は、アリスを取って食べたりしないから」 ───取って食べるって…。 男性と二人っきりでこんなふうに密着していること自体初めてのアリスなのに、彼の言動全てに驚かされてしまう。 まぁ、ブラッドにとっては、とても楽しいことではあったけれど。 「もうすぐ、着くから」 「着くって、どこへ?」 アリスはブラッドと一緒に車に乗ったのはいいが、どこへ向かっているのかさっぱりわからなかった。 「僕の家だよ」 「ブラッドの家?」 「そう。僕は家を出て、一人で暮らしているんだ」 二十歳を超えた男性は家を出て自立するのが一般的で、ブラッドも最近一人暮らしを始めたばかり。 もちろん、自分の家に女性を連れて来るのはアリスが初めてである。 「一人…」 彼の年齢を知らなかったアリス。 ─── 一人暮らししてる男の人の家に行くなんて…。 大丈夫だと言われても、アリスの不安は募るばかり…。 「アリス。アリスは、僕と二人っきりになるのが怖い?」 「え…あっ、いえ…」 さっきは『約束のキスを───』なんて、あんなに大胆なことを言っておきながら、本音はやっぱり怖い…かも…。 「僕を信じて。アリスを怖がらせるようなことは、絶対にしないから」 すぐ近くに彼の顔があって、アリスの心臓の鼓動はどんどん早まっていくが、そんな彼女の表情を見てブラッドは優しく微笑む。 「はい。でも、何も言わずに出てきてしまって、お父様とお母様が心配してますね」 ───どうしよう…お父様とお母様に何も言わずに出てきてしまって…。 今頃、きっと心配してる。 「それも大丈夫だよ。ちゃんと伝えてあるから」 「えっ、いつの間に」 「そういうところは、抜け目ないからね」 そう言って、茶目っ気たっぷりにウィンクするブラッド。 この日をどれだけ待ち望んでいたことか…。 いくらブラッドが王家の血を継ぐハミルトン家の長男であっても、大事な娘に何かあっては大変と思うのは親なら当然のこと。 だから、その辺は抜け目なくちゃんと手は回してあった。 暫くして、ブラッドの住む屋敷の敷地内に車が入る。 一人暮らしと言っても、ここはハミルトン家所有の別宅で、とても広い。 「さぁ、着いたよ」 運転手がドアを開けると、先に車から降りたブラッドに手を引かれてアリスも車を降りる。 主人の帰りを待っていたたくさんの使用人達が、ずらっと並んで出迎える姿に圧倒されてしまう。 ───うわぁっ、さすがハミルトン家は違うわね。 キャンベルの家では、ここまでしないもの。 父親が出掛ける時と帰って来た時はみんなで出迎えるものの、こんなにたくさんの人はいない。 「お帰りなさいませ。ブラッド様、アリス様」と挨拶されて、アリスは小さな声で答え俯きながら屋敷の中に入る。 多分、この家の人達は今夜アリスがここへ来ることを知っていたのだろうけれど、それがなんだか恥ずかしい。 「すごいんですね」 「そうかな?普通だと思うけど」 『全然普通じゃないですって』なんて、言葉はブラッドには届かないらしい。 長~い廊下を歩いて通されたのは、リビングルーム。 王家の宮殿にも似たその作りにこれまた驚かされる。 「やっと、二人っきりになれたね」 アリスはブラッドに耳元で囁かれるように言われ、お互い向かい合わせになって抱きしめられる。 一度治まった心臓の鼓動が、再び早く動き始めた。 「ブラッド」 「アリス、好きだよ」 アリスの瞳が微かに揺れる。 彼女を怯えさせないよう、ブラッドは額に頬に鼻頭に瞼に…羽が触れるようないくつものキスを落とす。 「私…」 「何も言わないで。アリスは僕のモノ、絶対離さない」 ブラッドは、アリスの言葉を遮るように唇を塞ぐ。 息も吸えないほどの大人のくちづけにアリスは戸惑いながらも、それに応えるように彼の背中に回していた手に力を込めた。 ※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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