![]() * お見合い結婚 * <11> お昼のカフェテリアはたくさんの学生達で埋め尽くされていたが、空いている席を見つけて麻衣とあえかは向かい合って座る。 「お腹空いたぁ」と言ったそばからパスタに手を付けたあえかとは正反対に、麻衣はフォークを持ったまま手が止まってしまう。 「麻衣、どうしたのよぉ浮かない顔しちゃって。文章さんと、今度こそ上手くいったんじゃなかったわけ?」 講義中もボーっとしているし、それは決して彼のことで頭がいっぱいというようなラブラブモードとも違う。 昨日の様子では、今度こそ上手くいったものとばかり思っていたあえかだったが、まだ何かあったのだろうか? 「まぁ、上手くいったっていうのは間違いじゃないのよ。ただ、うちの両親が…」 「麻衣のご両親が、どうしたの?」 二人が上手くいったことにホッとするあえかだったが、麻衣の両親が加わってまたもや一波乱でもあったのか…。 「うん、それが…」 あまりに麻衣の気持ちが揺らぐものだから、母が言ったひと言で父も文章との結納に賛同してしまい…。 麻衣にとってみれば、やっと彼と付き合うことを決めたばかり。 その先に結婚というゴールがあったとしても、気持ちは変わらないと断言できる。 でも…もう少しそっとしておいて欲しい、というのが麻衣の本音。 恐らく父のことだから、盛大に婚約披露パーティーなるものを開くに決まっているし、周りに騒がれるのだけは勘弁して欲しい。 「なぁんだ、そういうこと。しょうがないんじゃない?」 「あえかまで、そんな。他人事みたいに」 「私が麻衣のご両親だったとしても、そうすると思うわよ?娘の気持ちが変わらないうちにって。いいじゃない結納くらい。でも、そうなると麻衣も、いよいよ結婚しちゃうんだぁ」 そうしみじみと話す、あえかの器用にパスタをフォークにクルクルと巻きつける姿をジッと見つめる麻衣。 大学に入ったばかりで、これからだというのにもう結婚話。 ずっと、先の話だと思っていたのに…。 「まだまだ、結婚なんて。大学を卒業してからよ」 「そうは言っても、あと4年あるかなしかでしょ?」 「そうだけど…今は結婚なんて考えられないもの。彼との時間を大切にしたい、そんな感じかな」 お見合いをした時は、大学での勉強と友人、家族との時間を大切にしたいそう思ったはずなのに今では彼との時間を大切にしたいと思ってる。 恋をするということは、そういうことなのか…。 「彼も大事だと思うけど、私のことも忘れないでよ?」 「わかってる」 麻衣はニッコリ微笑むと急にお腹が空いてきたのか、まだ手をつけていなかったパスタを食べ始めた。 ◇ ようやく彼女の本心を聞くことができた文章は、どこにいてもその嬉しさを隠し切れなくて…。 「お前、顔が緩んでるぞ?」 「えっ」 同期の平田に頬を突かれた。 「彼女のことで浮かれてるのもわからなくもないけど、お前は将来うちのトップに立つやつなんだからな。しっかりしてもらわないと、俺達が困るんだよ」 「生活が、かかってるんだから」と、同期の平田は空いていた文章の隣に腰を下ろす。 既に残業時間に入っていたから、残っている人は疎ら。 一から仕事を覚えたいという文章の意志でここに籍を置いているが、中には社長の息子と聞いてあからさまな態度で接してくる者もいる。 そんな中でも、平田だけは別だった。 彼は俊輔と共に文章の良き相談相手でもあり、将来仕事の上でも良きパートナーになることは間違いない。 「そんなに緩んでるか?」 「あぁ、もう。見ていられないくらい」 大げさに自分の顔を両手で、ぐにゅぐにゅと摘まんで見せる平田。 自分でも気付かなかったが、彼が言うのだからそうなのだろう。 ということは、周りの人達にもそう思われていたということか…。 「でもさ、親達が騒ぎ出して困ってるんだよ」 「騒いでるって?」 「結納だ、婚約披露パーティーだってさ」 早速、麻衣の父から文章の父に電話が入り、あっという間に話が大きくなってしまったこと。 きっと、彼女はそういうことを嫌がるに決まってる。 短い間にも、文章には彼女の気持ちが手に取るようにわかるから。 「もう、そんな話になってるのか。おめでとう。結婚とは、同期で一番だな」 「早いって。彼女はまだ18だから、結婚は大学を卒業してからになると思う」 「あ?18?」 18って…。 「こらっ、犯罪だとか思っただろ」 「思ったね」 平田の正直過ぎる反応に文章もそれ以上何も言えなくなる。 高校生じゃなかっただけでも良かった…。 「親の決めた見合いだったからさ」 「見合い?そっか。俺なんかと違って、お前は立場的に誰でもってわけにはいかないよな」 社長夫人になるような女性は、誰でもってわけにもいかないのだろう。 平田にも想像できないような色々なしがらみなんかも…。 しかし、親の決めた相手と結婚してしまってもいいのだろうか? 「見合いって言ってもさ、僕の中では後にも先にも彼女以上の女性はいないと思ってる」 文章の目を見れば、いやその前にあんなに緩みっぱなしで嬉しそうな顔を見てしまえば、彼女にゾッコンなのは間違いない。 (カァーしかし、俺もそんな子と見合いしてみてぇ…) めちゃめちゃ羨ましい、平田だった。 +++ 週末は決まって、彼とのデート。 そのことはいいんだけど、両親がそれを知っていて、あれやこれや口を出すのがちょっと不満。 ───いっそ、一人暮らししちゃおうかしら? どうせ、大学を卒業したら結婚するんだし…。 ヤケになっているわけではなく、彼との結婚を素直に受け入れている麻衣だったが、一人暮らししたい気持ちは徐々に心の中で大きくなってきていた。 「麻衣、どうしたんだい?さっきから、呼んでるのに」 しっかり二人は手を繋いで歩いていたが、文章が何度も彼女の名を呼んでいるのに聞こえていない様子。 「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたから」 「考え事?」 何だろう…。 またまた、自分のことではないだろうか…。 そんな不安が文章の中を駆け巡る。 「文章さんは、一人暮らしをしたことはありますか?」 「僕?ううん、残念ながら」 「なら、したいと思ったことは?」 「えっ、急にどうしたんだい?もしかして、麻衣は一人暮らしをしたいって思ってる?」 「はい」と頷く麻衣に文章は複雑な心境だ。 家族と暮らしているからこそ安心なのに一人暮らしなど…。 きっと彼女の両親も反対するに決まっているが、その前に文章もそれだけは絶対に反対だった。 「ダメ、絶対にダメ」 「どうしてですか?」 「ダメだ、そんなの。一暮らしなんて、ご両親がうんとは言わないだろう?」 「うちの親、いちいちうるさいんです。文章さんとデートなのか?どこへ行くのかって。これじゃあ、自由に逢えないから。それに結婚したら、そういう経験もできないし」 …だから、一人暮らしをしたいっていうのか? そりゃぁ、彼女が一人暮らししてくれれば、その…僕は、何を考えてるんだっ。 それより、今、結婚って言ったよな? 彼女はそこまで…。 「気持ちはわかるけど…心配だな、一人は」 「セキュリティが万全のところを探します。だから」 「うん…」 彼女の希望を叶えてあげたいのは、山山だけど…。 こればかりは文章も、明確に返答できなかった。 ※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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