![]() * お見合い結婚 * <7> 文章の親友と名乗る男性と共に麻衣は、近くにあったセルフサービスのコーヒーショップに足を運ぶ。 「ごめんね、急に会いに来たりして」 俊輔は、カウンターでホットを2つ買う。 麻衣が自分の分の代金を渡して来たが、それを受け取らずに空いていた窓際の席に並んで腰を下ろした。 「あの…文章さんのことって、何ですか?」 「第三者の俺が口を挟むことじゃないってわかってるんだけど、君が文章のことを誤解しているようなんでね」 「誤解?」 「あぁ。この写真の女性に見覚えはないかな?」 俊輔が差し出した写真に写っていたのは、この前の日曜日に文章と腕を組んで歩いていたのを麻衣が見た女性だった。 「この人…」 「やっぱり、知ってるんだね」 「は…い」 「そっか。この女性の名は、芝原 マリと言って、今年大学の3年生。君より2つばかり年上なのかな、芝原弁護士事務所って知ってる?父親は結構有名な弁護士で、たまにテレビにも出てるんだけどね。そして、母親は旧姓多田井さんと言うんだ」 「え?」 「もうわかったよね。マリは文章の従妹なんだよ」 麻衣が文章の彼女と誤解したのは、実は彼の従妹だった…。 それにしても、あの仲の良さはどうなのだろう? 「この前の日曜日にマリに無理矢理買い物に付き合わされたって、文章は言ってたよ。なんでも彼氏の誕生日プレゼントを選ぶのに付き合えって言われたってさ。彼女、俺に対してもそうなんだけど、アメリカ育ちのせいかすぐに腕を組んだりするんだよ。おかげで、俺は彼女の彼氏に二股かけてたのかって、家に怒鳴り込まれたことがあるんだ。まぁ、君はそこまではしなかったようだけどね」 その時のことを思い出しているのか、俊輔は顔を強張らせていた。 なにせ、マリの彼氏と言うのはものすごく大柄な男で、空手だか柔道だかの師範だそうだ。 そのわりに父親と同じ弁護士だと言うのだから、まったくもって信じられない。 「ということは、文章さんとその女性、マリさんは単なる従妹で、たまたま一緒に買い物をしていただけだと言うんですね」 「そういうこと。君が思ったようなことは二人の間にはなかったということなんだけど、信じてもらえたかな?」 「はい。何も知らないで、私、文章さんにひどいことを言ってしまいました」 事実を確かめようともせず、一方的にあんなことを言ってしまって…。 彼がそんな人じゃないことくらい、わかっていたはずなのに…。 「誤解が解ければそれでいいんだ。あいつは何とも思ってないよ。ただ、君に嫌われてしまったっていう事実が、あいつにとって一番辛いことだから」 「すぐに謝ります。許してもらえないかもしれませんが」 「ひとつ、聞いてもいいかな?」 「何ですか?」 「えっとその前に、麻衣ちゃんって呼んでもいいかな。君とか言うのなんか堅苦しいし、俺のことは俊輔って呼んでくれていいから」 「えっ、はっはい…」 いきなり、麻衣ちゃんもどうかと思うが…。 それに一応、見合い相手の文章のことでさえも名前で呼ばないのにたった今会ったばかりの人を俊輔とは呼べない。 「麻衣ちゃんは、文章のことは好き?」 あまりに唐突な質問で、麻衣もどう答えていいものかわからない。 見合いの席で文章にも聞かれたが、嫌いでないことは明白だが、好きかという質問にははっきりと答えられないのが現状だ。 マリと二人で楽しそうに歩いている姿を見ても、自分と付き合いながらも別の相手とも付き合える文章に対しては腹も立ったことは事実だが、それが好きということなのかどうなのか…。 「嫌いではありませんが、好きかと言われるとそれが恋愛感情なのかどうか、今ははっきりとは答えられません」 麻衣のしっかりとした言葉の中に俊輔は、清楚なお嬢様というイメージの中に秘められた強さを感じていた。 こういうところに文章は惹かれたのだろう。 なんとか上手くいってくれることを祈るしかない俊輔だったが、この感じたとなかなか大変かも。 「できることなら、今まで通りお付き合いしていきたいですし。多分、少しずつですが彼に惹かれているんだと思います」 はにかむように話す麻衣に、この言葉を文章に聞かせてあげられればどんなにいいかと俊介は思った。 この年齢で見合いとなれば、なかなか受け入れられないことを俊輔もわからないでもない。 時間を掛けて付き合っていけば、必ず文章の良さをわかってくれるはずだから。 「その言葉、文章にも聞かせたいけど、それは君の口からあいつに言ってあげて。あいつ嬉しさのあまり、卒倒するなきっと」 和やかに笑う麻衣の中から、俊輔に対する怪しい人物という情報は全てクリアになったようだ。 「石田さん、ありがとうございます。わざわざ教えて頂いて」 「石田さんかぁ…まぁいっか。それじゃあ、文章を頼むよ。あいつすっげぇいい奴だから」 「はい、こちらこそ」 「うわぁ、もうこんな時間かよっ。マジ社長に怒られる。じゃあな」って、俊輔は風のように去って行ってしまった。 文章が麻衣以外の女性と付き合ってはいないという事実は判明したが、あんなにひどいことを言ってしまった今、前みたいに付き合うことは麻衣にはできそうになかった。 きっと、文章は優しいから許してくれるだろうけれど。 その前にとにかくきちんと謝るのが先だから、麻衣は携帯の文章の番号を着信拒否から解除し、夜電話を掛けることに決めた。 ※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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