―――遅くなるとは言ってたけど、山口君ったら、一体何時の新幹線に乗るつもりなのかしら?
場所は、東京駅新幹線のりば。
時刻は午後7時を過ぎようとしているところだったが、日菜子は同期で今朝彼氏になったばかりの智弘を既にここで小一時間ほど待っていた。
柱に貼ってある時刻表を見ては、電車が入って来る時間になると改札口をじっと見つめていたのだが、一向に彼が出てくる気配は全くない。
―――もしかして、別の出口から出ちゃったとか?
必ずしもここから出てくるとは限らないのだから、既に改札を抜けて在来線に乗り継いでしまっているかもしれない。
智弘に逢いたい一身でここへ来てしまったが、すれ違いになっていたとすればせっかくここで待っていた意味がなかったかも…。
―――電話、してみようかな?
日菜子は諦めにも似た思いでバックから携帯電話を取り出すと、アドレス帳から智弘の番号を呼び出して通話ボタンを押す。
プップップッ―――トゥルルル―――トゥルルル―――
『もしもし、石川?』
「あっ、山口君?ごめんね。今どこ?まだ、新幹線に乗ってるの?」
『ううん。たった今、東京駅に着いたところで、駅のホームを歩いてる』
「えっ、そうなの?あたしも東京駅にいるんだけど」
―――なんて、グッドタイミングなのかしら。
ちょうど、山口君の乗った新幹線が到着したばかりなんて。
『どこにいるんだ?』
「えっと、中央乗換口」
『わかった。すぐ行くから、待ってて』
電話を切ると見逃さないようにと日菜子は自動改札機の側に近寄って、智弘のことを探す。
たくさんの人達が自動改札機を抜けて吐き出されて来るが、なぜか彼の姿が見当たらない。
「石川っ」
―――えっ、山口君。どこ?
確かに今、智弘の声が聞こえたが、日菜子は辺りをキョロキョロと見回しても彼の姿を確認することができない。
「石川、ここだって」
「あっ、山口君」
彼はどこから出て来たのか、日菜子の後ろからやって来て、ふんわりと包み込むように抱きしめた。
―――前からはまだ、たくさんの人が出てくるというのに…。
恥ずかしいったら、ありゃしない。
「どこ、見てんだよ」
「だってぇ。こんなにたくさん人がいたら、わからないわよ」
智弘は日菜子を周りの邪魔にならないように隅に移動させると、体をクルっと回転させてお互い向き合うような格好になる。
「待っててくれたんだ」
「お帰りなさい。お疲れ様」
「ただいま。はい、これ」
またまた、彼はお土産を買って来てくれたようで、今度は何かしら?
「なぁに?これ」
「たこむす」
「たこむす?!」
日菜子の頭の上には、???マークが飛び交っていた。
「俺も食べたことないんだけど、美味いって言うから買ってみた。なんか、たこ焼きがおにぎりの上に乗っかってるらしい」
「えーそれって、美味しいのぉ?」
―――おにぎりの上にたこ焼きが乗ってるって…う〜ん、想像できないんだけど。
それって、天むすみたいなものかしら?
「あのさ、石川…」
急に真顔になってしまった智弘。
どうかしたのかしら…。
「どうかした?」
「あのさ…今度こそ、俺の家に誘ってもいい?」
前回のことがあるから、念のためにきちんと断っておかないとまた日菜子が誤解するかもしれないので…。
そんな不安げな智弘に、言葉ではなく日菜子はニッコリと微笑んで頷いた。
「じゃあ、お腹も空いたし、早く帰ろう」
頬に軽くくちづけると、智弘は彼女の手をしっかり握りしめた。
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