「どうしたの?美花、最近元気ないみたいだけど」
ずっと講義中に美花が溜め息を吐いているのを彩那は気付いていたが、自分から言ってくれるまではと敢えて聞くことはしなかった。
しかし、あまりにも元気がないので心配になったのだ。
「まさか、雅くんと何か…ってことはないわよね。だって、いっつもメールのやり取りしているし」
雅巳と喧嘩でもしたのかと思ったが、彼は美花が休み時間になると決まってメールを送ってきているし、あんなに仲良しの二人が喧嘩をしたという話は今まで聞いたことがない。
となると、他に何かあるのだろうか?
「うん、それが…」
「え?雅くんと何かあったの?」
「何もないけど…」
「何もないって…じゃあ、どうしたの?」
美花の元気のない原因は雅巳のようだが、何もないっていうのはいまいちよくわからない。
「雅くん、勉強が大変でなかなか会えないの。電話でも話すし、メールもいっぱいくれるけど、やっぱり顔を見たいなって」
講義も夜遅くまであるのに加えて、レポート提出が半端な量じゃない。
部屋に遊びに行っても邪魔になるだけと、最近は行かないようにしていたのだ。
もちろん雅巳は気にすることなんてないから、いつでも来ていいよと言ってくれるけど…。
「そっかぁ。雅くん医学部だもんね、勉強大変なんだ。でも、顔を見るくらいいいじゃない。ほら、ご飯を作ってあげたりとかすれば」
「雅くんもそう言うんだけど、なんとなく邪魔したら悪いから」
この前、雅巳の部屋でつい『別れる』なんて言ってしまって…。
「美花が会いたいって思うのと一緒で、雅くんも会いたいんじゃないのかな?」
「え?」
「だって、勉強大変なのに電話もメールも欠かさずくれるんでしょ?それだけ、美花のことを想ってるってことじゃない」
忙しい合間をぬって、彼は決まった時間に電話もメールもくれる。
きっと、頭の中は愛しい彼女のことでいっぱいに違いない。
そんな彼が会いたくないわけがないと、彩那は思う。
「そうなんだけど…」
「我慢すること、ないんじゃない?」
「え?」
「美花は優しいからすぐ相手に迷惑なんじゃないかとか考えちゃうけど、そんなことないと思う。雅くんは、嫌なら嫌っていうタイプでしょ?」
彼は優しいが、嫌なことは嫌とハッキリ言うタイプ。
それに誰よりも美花のことを想っている彼が、迷惑だなんてあり得ないこと。
「会いたいんでしょ?だったら、会いに行っちゃいなさい。この彩那さんが、許可するから」
腰に手を当てて言う彩那が、なんだかお母さんみたい。
―――そうよね、会いたいんだもの。
ちょっと、顔を見るくらいならいいわよね。
「うん。ちょっとだけ、会いに行って来る」
「ちょっとだけ?久し振りなんでしょ?絶対、雅くんが離さないと思うけど」
そう確信したように言う彩那だったが、そうなるのはほぼ間違いないだろう。
「あたしも、龍に会いたくなっちゃった」と早速、デートの誘いだろうか?彼氏に携帯でメールを打ち始めた。
それを微笑ましく見ていた美花も、慌てて携帯で雅巳にメールを打つ。
『今夜、雅くんの家に行ってもいい?』
彼は、なんと返事を返して来るだろうか…。
美花の心配を他所にメールを受信した雅巳は、廊下で叫びながらガッツポーズをしたのでした。
◇
『今日は早く帰れるから部屋で待ってて。掃除していないから、ごめん汚いかも』
というメールの返事をもらった美花は、夕食の材料を持って雅巳の部屋の前にやって来た。
いつ来てもいいようにと、彼から渡されていた合鍵を初めて使う。
―――なんだか、緊張するな。
中にはもちろん彼はいないわけで、いくら鍵を渡されていても緊張してしまう。
「失礼しま〜す」と声を出しながら入る彼の部屋はかなり久し振りだったけど、汚いかもと言っていたわりにはそれ程でもないと思う。
部屋に散らばっていた本を片付けて机やテーブルの上を軽く雑巾掛けすると、夕食の準備に取り掛かる。
いつも外食かコンビニのお弁当ばかり食べていると言っていたから、今夜は野菜をたっぷり使ったクリームシチュー。
―――雅くん、美味しいって言ってくれるかな?
彼のことだから、美花の作ったものなら何でもそう言ってくれるに違いないけど。
部屋の中にいい匂いが漂い始めた頃、玄関のブザーが鳴った。
―――あっ、雅くん。
「は〜い」と声を出しながら美花は急いで玄関のドアを開けると、会いたかった彼が目の前に立っていた。
「お帰りな―――」
「さい」と言い終わる前に、美花は雅巳に強く抱きしめられた。
「ただいま、美花」
『この感触、久し振りだな』と思いながら、雅巳は暫し美花を抱きしめた後、軽くくちづける。
「なんかいい匂いがするけど、何を作ってるんだ?」
「シチューを作ってるの。あっ、お鍋かけっぱなしっ」
火をかけたままだったことをすっかり忘れていた美花は、急いでキッチンへと走る。
ゆっくり抱きしめてもいられないと雅巳は思ったが、それは後に取っておくことにする。
「雅くん、お腹空いたでしょ。すぐできるから、ちょっと待っててね」
「あぁ」
なんだか新婚さんみたいだなと雅巳は思ったが、近い将来こんな日が毎日続くのかもしれない。
そうなればいいと、机の引き出しをそっと見つめていた。
◇
「どうかな?上手くできたと思うんだけど」
見た目はとても美味しそう、味見もバッチリだったけど、やっぱり雅巳が美味しいと言ってくれないと意味がない。
「美味そう。いただきます」
顔がくっつくくらい見つめてくる美花に、雅巳はシチューを食べている場合ではなかった。
―――そんなに近くに寄ったら、ヤバイって…。
ただでさえ、可愛い美花が来てくれるっていうので、メールをもらった後など勉強に身が入らなかったというのに…。
「どう?」
「すっげぇ、美味いよ」
「ほんと?良かったぁ」
ホッとしたのか、美花はやっといつもの笑顔に戻ったよう。
買ってきた物を温めて、1人きりの食事はなんて味気ないのだろう。
隣で愛しい人が笑っている。
幸せって、こういうことを言うんだな。
「雅くん、つまらなかった?」
「え?そんなことないよ。それで、彩那ちゃんがどうしたって?」
「うん、彩那がね―――」
話したいことが山ほどあったのか、美花は延々と大学でのことや彩那のことなどを話し続けていた。
◇
「急に来たりしてごめんね」
「そんなことないよ。いつでも来ていいように合鍵を渡していたのに、美花ったら来てくれないから」
鍵を渡せば気兼ねなく来てくれると思ったのだが、どうも雅巳の当ては外れたよう。
「勉強の邪魔をしたら、いけないかなって思ったの」
「言ったろ、俺は美花が側にいてくれるから頑張れるって」
雅巳は、美花の背後から包み込むように抱きしめる。
「雅くん」
「今日は、泊ってくだろ?」
「え?」
―――泊ってって…。
そんなつもりなかったのに…。
「俺が離せると思う?」
「だって…ゃっ…ん…っ…」
美花を腕の中に封じ込めると、すかさず唇を奪う。
さっきはなんとか理性を保っていたけれど、今はもう無理だった。
一度味わってしまうと離れられなくなってしまう。
「…ぁっ…ん…雅…くん…っ…」
「…美花」
雅巳は美花をその場に押し倒すと唇を塞いだまま、カットソーの下から手を入れてブラのホックを外してしまう。
「…っあぁぁぁ…っ…ん…っ…」
直に膨らみを揉まれて、知らぬ間に甘い声が洩れる。
「美花、もっと声を聞かせて」
「…やっ…んっ…雅くんっ…た…ら…えっち…っ…」
「男はみんなそうだって」
「…いっ…つも…」
―――雅くん、いっつもそう言うんだもん。
うまく誤魔化されているように思うのは、気のせい?!
それに、ミニスカ禁止令を出されてからというもの、あまり短いものは選んでいなかったが、雅巳はスカート大好きだからパンツも禁止。
これってどうなの?
全部脱がされ、抱きかかえられてベットまで運ばれる。
そういう雅巳は、まだ服を着たままで…。
「雅くんも脱いで、あたしばっかり」
膨れっ面の美花に『可愛い』と思いつつ、雅巳は全てを脱ぎ去って、再び彼女の元へ戻って来る。
「これでいい?」
「…うん」
少しはにかむように言う美花を、雅巳はぎゅっと抱きしめる。
素肌と素肌が触れ合って、ドキドキしている心臓の音まで伝わってしまいそう。
「…はっ…ぁ…っ…っん…」
「…美花っ…俺、余裕ない」
彼のモノは、既に大きく硬くなっていて…。
「入れるよ」という言葉と同時に、美花の中に入ってきた。
「…っ…あぁぁぁぁ…っ…っ…んっ…」
「…美花っ…っ…」
「…ゃっ…ん…そん…なに…イっ…ちゃ…う…っ…」
「…俺…も…」
雅巳の腰の動きが早くなって、あっけないくらいにイってしまったが…。
しかし、彼が1回で済むはずがないわけで…。
シャワーを浴びてから3ラウンド目に入った時には、美花も半分意識が飛んでいて最後はよく覚えていなかった。
―――また、無理させた…。
美花を抱いてしまうと歯止めが利かなくなってしまう自分に呆れるが、こればっかりはどうしようもない。
それくらい心地いいというか、離せなくなってしまう。
―――あっ、忘れてた。
思い出したようにそっとベットから抜け出すと、雅巳は机の引き出しから小さな箱を取り出した。
美花、喜んでくれるかな?
箱の中には、小さなダイヤが一粒埋め込んであるホワイトゴールドの細いリング。
そして、同じ並びには石が付いていないリングがもう1つ。
大事な美花に変な虫が付かないようにと、考えて選んだものだった。
朝、起きたらなんと言うだろう?きっと驚くだろうな。
そんなことを想像しながら、彼女の指にリングをはめるとゆっくりと眠りについた。
+++
「雅くんっ、これっ」
「おはよう、どうしたんだ?朝から」
「だって、このリング…」
予想通りの反応に、ついつい顔が緩んでしまう。
顔の前に手をかざしている美花の手に、雅巳は自分の手を重ねた。
「俺とお揃いなんだけど、嫌?」
一瞬、止まってしまった美花に不安が過ったが…。
「ううん、嫌なんかじゃ。嬉しいっ、雅くんっ大好き」
朝から抱きつかれて、雅巳は本気でヤバかった。
ずっと渡そうと思っていてなかなか渡せなかったけれど、こんなに喜んでくれるならもっと早くにするんだった。
嬉しそうに、何度も何度もお揃いのリングを眺める美花を見つめながら。
「俺も、美花が大好きだよ」
雅巳は、ぎゅっと抱きしめた。
To be continued...
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