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変わらぬ想い


週末のある日、美花は雅巳の部屋に遊びに来ていたが、彼は週明けに提出しなければならないレポートを書いているところだった。

「雅くん」
「うん?」
「あのね、今度の土曜日なんだけど…」
「うん」
「洋服を買いたいの。一緒に選んでくれる?」
「いいよ」
「ねぇ、雅くん」
「うん?」
「あたしと別れてくれる?」
「いいよ………えっ…」

―――美花…今、なんて言った?

「そう…。雅くんは、あたしと別れてもいいのね」
「美花っ、ちょっと待てっ!今の質問は、ズルイだろ」
「ズルイって?雅くん。あたしの話、聞いてなかったんでしょ?」

レポートを書くのに集中していたから、美花の話は上の空でしか聞いていなかった。
―――それは認める、認めるけど…。
別れるなんて…そんなこと…。

「ごめん。俺、美花の話聞いてなかった謝るよ。でも、別れるなんて冗談だろう?」
「冗談じゃなかったら?」
「え?冗談じゃないって…それ…」
「あたしね、雅くんの邪魔ばかりしてると思う。雅くんは、将来お医者様になる人だから勉強もすっごく大変で。でも、あたしはなりたいものなんてないし、大学の勉強もそんなに大変じゃない。だから…」

雅くんは、ブスだったあたしのことをいつも守ってくれて、ずっとずっと好きでいてくれた。
こうやって恋人として付き合うようになっても、それは変わらない。
いつだって優しくて、カッコよくて…。
でも、実家の医院を継ぐ雅くんは勉強もすっごく大変で、あたしの相手なんてしている場合じゃないはず。
なのに嫌な顔ひとつしないで、あたしの相手をしてくれて…。

「美花は、そんなことを思っていたの?俺は、美花がこうして来てくれるのは全然邪魔なんかじゃないよ。むしろ、俺の方こそ申し訳ないって思ってる。つまらないだろうなって」
「え?そんなこと…」
「俺さ、美花が側にいてくれるだけで勉強もやる気が出る。ひとりだと全然ダメなんだよ」
「雅くん」
「美花がいてくれるから、頑張れるんだ。その美花が俺の前からいなくなってしまうくらいなら、医者になんてならなくてもいい」
「ダメ、そんなこと」
「だったら、別れるなんて冗談でも言わないって約束して」

やっと想いが通じた雅巳にとって美花は何よりも大切で、その美花を失うくらいなら…。

「ごめんね。あたし、軽率なことを言って」
「いいんだ。じゃあ、約束してくれる?」
「うん。雅くんが好きだから、絶対別れるなんて言わない」
「俺も、美花が好き」

雅巳は美花をぎゅっと抱きしめて、その存在を確かめるようにくちづける。
そのくちづけが、段々深いものに変わっていって…。

「…やぁ…っん…ま…さ…くん…まだ、明るいのに…」
「美花が悪いんだよ。別れるなんて、言うから」
「だっ…てぇ…ぁ…っん…」

美花の体にたくさんの印を刻み込んだ雅巳はレポート作成が大幅に遅れて、その夜は徹夜する羽目になったことは言うまでもない。


END


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