拍手お礼
君だけに


コンコン―――
     コンコン―――

「は〜い、開いてますよ」

―――開いてるのに…。
美春が部屋でくつろいでいると、ドアをノックする音。
お父さんもお母さんも年頃の娘だからとノックはするけど、一呼吸置いてドアを開けて入ってくるのに…。

そっとドアを開けてみると、そこには誰もいない。
―――アレ?誰もいない。
うそ…ちょっと怖いかも…。

確かに何度かノックする音は聞こえたはずなのに、ドアを開けて辺りを見回しても誰もいない。
気のせいだったのか…そう思いドアを閉めようとした瞬間、反対側に勢いよく引っ張られた。
とその時、目の前に現れたのは…。

「ウキャーッー!!!!」

あまりに大きな美春の声に、そこにいた人物の方が驚いた。
慌ててドアを閉めようと引っ張る美春をかろうじてその人物は止めたが、いざという時の力はすごいものがある。
正に馬鹿力?と感心している場合ではない。

「ちょっと待てっ、美春。俺だよ」
「??俺??」

聞き覚えのある声というか、それは美春にとって愛しい愛しい相手の声なのだから…でも…。

「恭…ちゃん?」
「そうだよ、俺」

「まったく、そんなに驚かなくても」と言いながら部屋に入って来た恭は、黒い先が尖った帽子をかぶり、黒いマントを羽織っていた。
そして、顔にはカボチャのお面のようなものが…。

「だってぇ、ドアを開けても誰もいないんだもん。すっごくびっくりした。でも、どうしたの?そんな格好して」
「え?美春、知らないのか?ハロウィン」
「ハロウィン?」

そう言えば、恭が付けているカボチャのお面と同じようなグッズが街中に溢れていたっけ…。

「なんだよ、忘れてたのか?」
「忘れてたっていうか、そんなに気にしてなかったかも」
「そっか。まぁ、ちょっと予定が狂ったけど、仕切りなおしでTrick or Treat!」
「え?トリ―――」
「Trick or Treat!お菓子をくれないとイタズラするぞ?って、意味」
「お菓子?」

―――お菓子なんてない。
2階の自分の部屋にお菓子を持ち込むといっぱい食べちゃうからと、置かないことにしていた。
だから、お菓子をくれって言われても…キッチンにならあるんだけどなぁ。

「えっと、ここにはないの。キッチンに行けばあるから、探してくるね」
「ダメ」
「え?」
「今、出してくれないと」
「だって、ないもん」
「だったら、イタズラする」

―――イタズラって…。
子供じゃないんだから…。

「ひぇっ…っ…恭…ちゃ…んっ…」

恭は美春に覆い被さると、指を器用に動かして体中をくすぐりはじめた。
特にわきの下が弱い美春はあまりのくすぐったさに半分泣きながら転げ回っているが、それでも手を緩めない。

「…やぁっ…きょ…ちゃ…ん…ひっ…く…すぐっ…た…いっ…っ…」
「美春が、お菓子をくれないから」
「…だっ…てぇ…ひゃっ…」

あまりの可愛さに、恭は別に意味で抑えられなくなりそう…。

「じゃあ、キスしてくれたら許してあげる」
「…ひぇ…?」
「美春からキスしてくれたら、許してあげるよ」
「そ…んなぁ…」
「だったら、もっとこうしちゃうけど」
「…ひゃっ…っ…きょ…ちゃ…ん…やめ…てぇ…」
「キスしてくれる?」
「…わ…か…った…から…や…めてぇ…」

恭が手を止めても、まだ美春はひっくひっく言っている。

「美春、早く」

わざと急かすように言う恭に美春は仕方なく起き上がると、彼が着けていたカボチャのお面を取る。
いっそのこと、お面の上からの方がよかったかも…。

「恭ちゃん、目を瞑って?」
「わかった。けど、掠めるようなのはダメだから。最低10秒はすること」
「え…」

10秒って…。
結構長いかも…。

目を瞑って唇を前に突き出すようにしている恭を目の前にして、美春は覚悟を決める。
恭の頬に手を添えてゆっくりと唇を近づけると一瞬だけ触れてまた離れたが、10秒という言葉を思い出して再び唇が重なった。
美春からのキスは予想していなかったが、こんなにいいものとは…。
ただし、来年はこの手は使えないか…。
既に次のことを考えている恭のことなんて気付くはずもない美春は、一生懸命心の中で10数えていた。


END


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Copyright(c)2006-2013 Jun Asahina,All rights reserved.

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