「帆波。お願いがあるんだけど」
「なぁに?お願いって」
帆波の部屋で湊が買って来てくれたお土産のスィーツを堪能していると、彼は神妙な面持ちでそう切り出した。
―――お願い?
湊のお願いって、何かしら…。
「あのさ、これなんだけど」
そう言って差し出されたのは、綺麗にラッピングされた薄い箱。
プレゼント?なのか、なんなのか…。
でも、今日は誕生日でも、何かの記念日でもないはず。
だったら、何だろう?
「これは?」
「うん。取り敢えず、開けてみて」
なんだか良くわからなかったけれど、帆波は渡された箱のリボンを解き、丁寧に包みを開ける。
箱の蓋を開けてみると、中に入っていたのは白いレースのようなものが付いた…これは、なんだろうか。
中身を取り出して広げてみると、『エプロン!?』
それは、紛れもなくエプロンで、胸元なんてハートの形をしてる…。
―――だけど、何でまたエプロンなんて…。
「どうしたの?このエプロン」
「あぁ、帆波に似合いそうかなって思って」
「あたしにエプロンが?」
まぁ、男の人は女の人のエプロン姿に憧れたりするのかもしれないけど。
―――だけど、あたしにエプロンって、どうなのかしら?
似合うと言われて、帆波はその場に立ち上がると、部屋着にしていたスウェットの上からそのエプロンをあててみる。
「どう?似合う?」
「そうじゃなくって」
「え?」
そうじゃなくってって、じゃあ何なの?
―――ん?!さっき、お願いがあるとかなんとか、言ってたけど…。
ま…さ…か…。
まさか、これを○○○で、とか言うんじゃないでしょうねぇ…。
「ダメ?」
「ダメに決まってるでしょっ!」
―――ダメに決まってるじゃない!
裸でエプロンなんて、エロビデオじゃあるまいしっ。
「どうしても?」
「どうしてもっ!!」
「なんだ…ガッカリだなぁ」
「見たかったのにぃ…」と、大げさに落ち込んでみせる湊。
―――いくら、湊のお願いだって、聞いてあげられるものとあげられないものがあるのよっ!
よりによって、裸エプロンなんて…。
男のロマンだかなんだか知らないけど、そんなこと絶対やらないんだからねっ!!
「当たり前でしょっ、裸エプロンなんてっ。そんなこと、はいわかりましたってやる子がどこにいるの?」
「えっ、裸エプロン?」
湊が目をまんまるにして、驚いている。
―――なによっ、自分が買ってきたくせにぃ。
そんなに驚くことじゃないでしょ?
「帆波、そんなえっちなことを考えてたんだぁ。俺としては、その方が嬉しいけどさ」
「どういう意味よぉ―――え…湊のお願いって、裸エプロンじゃなかったの?」
「違うよ。通勤服のまま、そのエプロンをして、『お帰りなさい』って出迎えて欲しかったんだよ」
湊としては、いつも家にいる時はラフな格好に着替えている帆波に、会社から帰ったそのままの服装にこの白いレースのエプロンをして自分を迎えて欲しかった。
「だっ、だったら、早くそう言ってよ。勘違いするじゃないっ」
「そうかな?普通は、言わなくてもわかると思うけど」
「うぅっ…」
―――確かにあたしの早とちりかも…。
だってぇ、湊ったら、そうじゃないとか言うしっ。
だいたい、元がえっちだから、絶対そうだって思ったんだもんっ。
「ちょっ…」
座っていた湊は帆波の腰に腕を回して素早く自分の方へ引き寄せると、膝の上に座らせる。
「…あっ…っ…んっ…」
「帆波は、えっちだね。そういうところも、大好きだけど」
「ちがっ…やぁっ…んっ…」
耳たぶを甘噛みされて、恥ずかしいけどこんな声が無意識に出てしまう。
「今度は、是非見てみたいな。帆波のハ・ダ・カ・エプロンっ」
耳元で囁くように言う湊だったが、その言い方が意地悪だぁ。
「イジワルっ…あっ…」
てっきり湊のことだから、そんなふうに思ったけれど…。
―――じゃあ、明日からはこのエプロンをして、「お帰りなさい」って出迎えてあげよっかな。
あたしって、湊のお願いには弱いのよね。
あっ、でも、裸エプロンはなしだからっ。
おしまい
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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