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ふたりの夏物語T


「今度のTUNEに載せる対談なんだが、写真家の藤堂 マサト氏にお願いしようと思う」
「藤堂 マサトって…えっ、マサトにですか?」

望は社長に呼ばれて何事かと思ったが、まさか対談にマサトを起用しようと言い出すとは…。
―――うちの社長は、突然言い出すから困るのよ。
まぁ、あの夏の日にいきなり一週間の休みを取るように言われたおかげで、彼と出会うことができたのだから強くも言えないけど…。
でも、彼は自分が写真に写ることを了解するのかしら?

「奥さんから、頼んでもらえないかな。彼、いい男だし絶対表に出ないから、TUNEに載ったとなると部数が倍になるのは必至だろう」

社長のいわんとしていることは、望にもわからなくはない。
TUNEの発行部数は右肩上がりではあるが、ここ数ヶ月は伸び方に勢いがなくなっていたのは事実。
人気のコーナーでもある対談枠にマサトを起用すれば、売り上げが伸びるのは確実だろう。

「社長の気持ちはわかりますが、いくら私でも、それに関してここでいい返事をするのは難しいですね」
「そこをなんとか、君だからこそ頼んでるんじゃないか」
「そうは言われましても。彼は写真家ですから、他の人に撮られるのはどうでしょう」
「とにかく、ダメもとで聞いてみてくれないか?もちろん、いい返事を期待しているけど」

―――ダメもとでとか言っておきながら、いい返事を期待しているって、どういうことよ…。
あの言い方では、それこそいい返事を持って来なければ大変なことになる。
是が非でも、彼に協力してもらわないと。



「嫌だね」
「そんなこと言わないで、お願い」
「嫌だったら、嫌だ。俺は、風景専門の写真家なんだ。人前に出たり、対談なんてことをする必要性はないね」

案の定、マサトは対談を受けることを頑なに拒否している。
結果はわかっていたが、仮にも愛しい奥さんに対してもう少し優しい言い方はできないのかしら?

「わかってるけど…ちょっとくらい、協力してくれてもいいじゃない」
「そのちょっとが、後で面倒なことになるんだ。いくら奥さんの頼みでも、ダメなものはダメ」

―――何よ!ダメダメって…。
確かにマサトは写真家であって、人前に出る必要は全くないかもしれないわよ。
あれ?だけど、私のこと勝手に写真に撮って雑誌に載せたの誰よ。

「ねぇ、マサトは私に断りなく雑誌に写真を掲載したわよね?あれは、どういうことかしら?名前を載せなければ、何をしてもいいとか言わないでしょうねぇ」
「えっ、あれは…」

形勢が逆転してしまったマサトは、さすがに何も言えないよう。
―――そうよね、このくらい言ってもいいはずだわ。

「どうなの?」
「あれは、望を探すために仕方なく…」
「仕方なくなら、いいの?」
「あぁ、わかったよ。対談を受ければいいんだろう」

―――ヤッタ!
こんな簡単にOKするとは、思わなかったわね。

「ありがとう」
「俺こそ、ごめん。今更だけど、勝手に写真を載せたりして」
「ううん。マサトの言うようにあの写真がなかったら、こうしてまた逢うことなんてなかったと思う」

自分はモデルでも芸能人でもないから、あんなふうに載ってしまうのは恥ずかしかったけれど、あれはあれで個人的には気にいっている写真だし。

「また、撮らせてもらえない?」
「え?だって、風景しか撮らないんでしょ?」
「望は別。と言っても、みんなに見せるわけじゃないから。俺だけの望を撮った写真集」
「マサトだけの?」
「そう、俺だけの」
「変なのは撮らないでね」
「変なのって、ヌードとか?いいねぇ、望のヌード写真集。俺、喜んで撮るけど」
「マサトったらっ!」

それだけは、やめて!!
拳を振り上げた望に大げさに身を縮めてみせるマサト。

「嘘だよ。望のヌードは、俺の心の中にだけあればいいから」
「なんか、えっちな言い方ね」
「そんなえっちな俺も、好きなんだろ?」

惚れた弱みだから、仕方ないかぁ。

「そうね。えっちなマサトも好き、かな?」
「言ったね。じゃあ、早速」
「え―――やぁっ…っん…っ…」

前言撤回!って叫んでも既に遅く…朝まで離してもらえなくて、社長に朗報を報告するも、どうもすっきりしない望だった。


END


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