恋の分岐点
「買い替えたばかりなのに」
新しい家に越して買い替えた、カーテンにベッドカバー。
もう必要ないなんて、もったいないなと夏樹は思う。
「夏樹が、勝手に部屋を借りたりするからだ」
「だって…」
「だってじゃない」と、創は夏樹の額を軽く人差し指で小突く。
突然、自分の前から消えた彼女。
本当は好きで好きでたまらないのにその言葉さえ言えなくて、フラれたんだと思った。
彼女の想いに気付かなかった、当然の報いだったはずだけど…。
今、目の前でアヒル座りになってダンボール箱に荷物を詰める夏樹は、この部屋をどんな思いで借りたんだろう?
全てを新しいものに買い替えた時の気持ちは…。
「ちょっ、やっん。創ったらぁ、急にどうしたの?」
いきなり背後から創に抱きしめられて思わず甘い声を発してしまったが、彼は夏樹の肩に顔を埋めたまま動かない。
「創?」
―――どうしたのかしら?
「ごめん」
抱きしめたと思ったら、『ごめん』と謝る創。
―――ほんとにほんとにどうしちゃったの?
「ごめんって?」
「俺がしっかりしないから、夏樹に辛い思いをさせた。だから、ごめん」
その声は、心なしか震えているような気がした。
「ううん、そんなことない。あたしが創の気持ちを試すようなこと、したから」
思っていることをはっきり言えばよかったのに彼の気持ちを試すようなこと。
本当なら責められるのは夏樹の方なのに、彼は優し過ぎる…。
「俺がそうさせたんだ。だから…」
「ぁっ…」
夏樹はその場に押し倒されて、キスできそうなくらい至近距離に彼の顔がある。
その表情はすごく切なそうで、自分のしたことの重さに夏樹の胸はキュッと締め付けられる思いだった。
「あたし、創が好き。嫌って言っても、絶対に離れないんだから」
「あぁ、そうしてもらわないと俺の身が持たない」
重なる唇、お互いの存在を確かめるように何度も何度も角度を変えて。
「…ぁっん…早く荷物…片付けないと…」
「わかってる」
そう言いながらも、くちづけはどんどん深くなっていく。
―――やぁっん、もうっ創ったら。
こんな時に…。
夏樹の言ったひと言で彼の家で一緒に暮らすことになって、その引越しの準備をしていたというのにこれじゃあ、ちっとも進みやしない。
「…やっん…っ…創ったら…ちっともわかって…ない…じゃない…」
「ん?そんなことないけど」
―――うそ…。
そんな気、全然ないくせにぃ。
Tシャツの裾から彼の手が入って来て、ウエストのラインを上下した後、ブラ越しに膨らみを揉んでくる。
『毎日ヤッテもいいんだ』なんて喜んでたけど、ほんとならこれじゃあ、あたしの体が持たないわよぉ…。
「…ぁ…っん…やぁ…っ…」
「嫌って言うわりに感じてるみたいだけど」
あっという間にブラも外されて、膨らみの輪郭を何度も手でなぞった後に固くなった蕾を指で刺激する。
―――創が、そんなことするからでしょ?
「…もうっ、どうして…そういうこというわけ?」
「夏樹をイジメルと可愛いから」
しれっと言う創だったけど、こんなことを言う人じゃなかった?はずなのに…。
「…やっ…ぁ…そんな…こと言う…創は…嫌い…なんだからぁ…」
「さっき、好きって言ったのは、嘘だったわけ?」
ジーパンと一緒にショーツごと足から引き抜かれ、真昼間からこの姿はものすごく恥ずかしい。
創が実はえっちなんだってわかったけど、こんなぁ…。
そこへ彼のモノが何の前触れもなく入って来ると、腰にしっかり腕を回して抱き上げられた。
向かい合わせの格好になって、彼を最奥まで彼を感じる。
「…んっ…あぁぁっ…っ…」
「夏樹、もっともっと俺を感じて」
「…そ…う…っ…あぁ…っん…っ…」
下から突き上げられて、今までに感じたことのない感覚に夏樹の思考回路はフリーズ寸前。
「…あっ…ん…ダメぇ…イっ…ちゃ…う…っ…」
「…俺も…愛してる…夏樹…っ…」
◇
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないっ!」
夏樹は創と繋がったまま、膨れっ面で睨み返す。
「しっかし、いい眺めだな」
「え…」
よく見ると彼はジーパンと下着を少し下げただけで、Tシャツも着たまま。
「やぁ…っ…もうっ…創ったら、えっちなんだからぁ…」
「あれ、知らなかったの?」
「知ってたけど…」
「なら、いいじゃん」
―――良くないわよ。
お茶らけたように言う創に、ガックリ肩を落とした夏樹だったが…。
「夏樹の29回目の誕生日に籍を入れよう。30前には、式も挙げないとな」
「え?」
一瞬、放心状態の夏樹。
―――ヤダ、どうしよう…嬉し過ぎて、言葉が出ないじゃない。
「嫌?」
「ううん、嬉しい。なんて言っていいかわからないくらい、すっごく嬉しい」
「佐藤に負けないように幸せな家庭を作ろう」
目には薄っすらと涙を浮べて「うん」と頷く夏樹を、創はニッコリ微笑んで優しく包み込むように抱きしめた。</div>
END
2007.9.2
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