ドラマみたいな恋がしたい ドラマチック・ナイト |
「お前なぁ。少しは、自分が少女だって自覚しろよ」 「うるさいわね。あたしがどうしようと、武幸(たけゆき)には関係ないじゃない」 ―――そんなこと武幸(たけゆき)に言われなくても、自分が一番よくわかってるわよ。 わかっていても面と向かって言われると、ひどく傷付いている自分がいて…それも、すごく嫌だった。 「おい、待てよ」 「離してよ」 武幸(たけゆき)に腕を掴まれ、あやめはそれを振りほどこうと身体を離すが、逆に強い力で引き寄せられて武幸(たけゆき)の腕の中にすっぽりと納まっていた。 「ちょ、ちょっと何?」 「お前、うるさいよ。少し静かにしろ」 「何よ、なんであたしが武幸(たけゆき)にそんなこと言われなきゃなんないのよ」 「俺が、どんなに心配してたと思ってるんだよ」 「え?」 さっきとは違う優しい声でそう耳元で囁かれ、あやめがそっと顔を上げると切なそうな武幸(たけゆき)の顔が視界に入る。 ―――どうして、そんな顔するのよ。 「お前、ちょっとは自覚しろよ。そんな可愛い顔してんのに…変な男が連れ去っても、おかしくないんだぞ」 ―――可愛い顔?誰が、可愛い顔なのよ。 「誰も、そんなことしないわよ」 ―――するわけ、ないじゃない。 「あやめ…」 「何」 武幸(たけゆき)はそっとあやめの頬に手を添えると、自分の額をコツンと彼女のそれにくっ付けた。 「頼むから、無茶しないでくれよ。俺お前にもしものことがあったら、どうしていいかわからない…」 「武幸(たけゆき)?」 武幸(たけゆき)の目から、一筋の涙が流れたのが見えた。 ―――え?武幸(たけゆき)が泣いてる?嘘…。 まさか、武幸(たけゆき)が泣くとは思いもしなかったあやめは罪悪感で一杯になった。 「ごめんね…あたし…もう、こんなことしないから…」 あやめは、武幸(たけゆき)の頬に流れる涙を指で拭う。 「絶対だぞ」 「うん」 自分でも不思議なぐらい、あやめは素直に武幸(たけゆき)の言うことを聞いていた。 が、しかし…。 「じゃあ、俺に心配を掛けた罰」 「罰?」 「あやめから、俺にキスして」 「はぁ?何、言ってるのよ」 ―――どうして、あたしが武幸(たけゆき)にキスしなきゃなんないわけ? そりゃあ、あたしは武幸(たけゆき)を泣かせちゃうくらい心配掛けたわよ。 でも、それで何でキスなのよ。 だいたい、キスっていうのは好きな人とするものでしょ? 「あたしのことなんて、好きじゃないくせに…」 「あやめ、それ本気で言ってるのか?俺が好きでもない相手にキスして欲しいなんて、言うわけないだろう?」 武幸(たけゆき)の目は、真剣だった。 嘘をついているようには見えない。 と言うことは…武幸(たけゆき)は、あたしを嫌いじゃない? 「あたしのこと、好きなの?」 自分で言って、ハっとした。 ―――あたしったら、何を言ってるの? 「好きだよ」 「え?」 ―――嘘でしょ?今、武幸(たけゆき)があたしのことを好きって言った? 「あやめは?俺のこと好き?」 ―――好きか嫌いかと言われれば、好きだけど…。 「嫌いじゃないわよ」 素直じゃないあやめは、そんな言い方しかできない。 「嫌いじゃないってことは、好きってこと?」 「どうしてそうなるの?」 ―――確かに嫌いじゃないってことは、好きってことだけど…。 「あやめは素直じゃないから、本当は俺のこと好きなのに好きって言えないのかなぁって」 武幸(たけゆき)はニヤニヤしながら、あやめの返事を待っている。 いつだってそうだ、知っていてわざとそういう言い方をしてくる。 確信犯。 「違うもん」 「何が、どう違うんだ?」 「武幸(たけゆき)のことなんて、好きじゃないもん」 言った瞬間、武幸(たけゆき)の顔が曇ったのがわかった。 どうしても思っていることと反対のことを勝手に口がしゃべってしまうのだ。 ―――そんな悲しい顔しないでよ。武幸(たけゆき)はどうしてこんな素直じゃない、あたしなんかが好きなの? 「う…そ…」 「えっ?」 「嘘って言ったの」 ―――あぁ、もうこうなったら開き直るしかない。 「あたしも…あたしも、武幸(たけゆき)が好き」 恥ずかしさのあまり、あやめは思わず俯いたが、きっと顔は真っ赤だと思う。 こんなふうに言うつもりじゃなかったが、今言わなければ二度と言う機会がないような気がしたから。 「あやめ、今のほんと?ほんとに俺のこと好き?」 「好きって言ったでしょ!何度も言わせないでっ」 ―――逆ギレしてどうするのよ。 とは思っても自分でもほんと素直じゃないってわかっているのだが、どうしようもないのだ。 「すっげぇ嬉しいよ。なぁ、あやめこっち向いて。俺にちゃんと、顔見せて」 あやめがどんなにきつい言葉で返しても、武幸(たけゆき)には嬉しくて堪らないようだ。 そっと顔を上げると満面の笑みであやめを見つめる武幸(たけゆき)の顔があった。 いつだって武幸(たけゆき)はあやめに優しかった。 なのに…。 あやめは武幸(たけゆき)の首に両腕を回すと爪先立ちで、そっと自分の唇を武幸(たけゆき)のそれに重ねた。 それは羽根が触れる程度のものだったけれど、武幸(たけゆき)にとってはそれで十分だった。 「武幸(たけゆき)が、好き―――」 「俺もあやめが、好き―――」 武幸(たけゆき)はあやめをぎゅっと抱きしめるともう一度、唇と唇を合わせた。 END |