Vestigial snow


もう3月も終わり、例年よりずっと早い桜の開花宣言が出たというのに今朝はヤケに寒いと思ったら、ちらちらと季節はずれの雪が舞っている。
これがクリスマスならロマンティックなどと思うだろうが、まるで今起こっている現実を見透かされたようで、とてもじゃないがそんな気分になれそうにない。
そんなことを思いながら時間ばかり気にして腕時計に目がいってしまうのは、出逢った頃よりずっと綺麗になった彼女の横顔を見ているのが辛かったから。

「もう、東京で雪は見られないと思った」

「これが最後ね、きっと」寂しそうに呟く彼女に向かって、『必ず、また見られるさ』と心の中で叫ぶ。
その声が届くことは悲しいかな、もう二度とないはずなのに…。

盛岡行き、東北新幹線が静かにホームに入線してくる。
この列車に乗ったら銀河鉄道のように遥か遠くに旅に出てしまうわけじゃない、実際には仙台まで2時間と掛からないのだ。
なのにどうして、永遠の別れのように二人に未来がないみたいな。

それもこれも、俺がまだ学生だから。
彼女を引き止める力がないから。

「じゃあ、行くね」と行ってしまう彼女の腕を掴んでしまいたい。
実際、そんな勇気もないクセして。

時が止まってしまえばいい。

そう強く願いながら、無常にも発車のベルが鳴り響く。
窓越しに俺のことを真っ直ぐに見つめる彼女。
開きかけた唇に“さよなら”なんて言葉は聞きたくないと俯く俺を臆病だと思っただろう。
通り抜ける風を見送りながら、積もることのない雪を見ていた。

「クっそ!!何やってんだ」

―――何で、行くなって言えなかったんだ。
バカヤロー!!

「戻って来いよ…俺の雫(しずく)」

誰もいないホームに一人佇みながら、彼女へと続く線路をいつまでも、いつまでも見つめていた。

「祥(しょう)」
「えっ?」

―――とうとう、幻聴まで聞こえてくるとは…。
よっぽど、重症だぞ?
こんなことで…これから、一人で大丈夫なんだろうか…。

「祥ったら、変。ぶつぶつ、ひとり言なんか言って」
「は?雫(しずく)何で…」

声に驚いて振り返るとそこに居たのは夢でも幻でもない、紛れもなく雫だ。
何度も何度も、目を擦ってみたが、間違いない。
―――何で、ここにいるんだ?
たった今、新幹線に乗ったんじゃなかったのかよ。

「お前、新幹線で行っちまったんじゃなかったのか?」
「うん。やっぱり、祥の側から離れたくないなって」

「私のことなんか、きれいさっぱり吹っ切ってさっさと帰っちゃったら、次の新幹線で今度こそ帰ろうって思ったんだけど」と話す雫。
大人のフリをして涙も流さずに別れたけれど、そんな簡単に割り切れるわけない。
ただ、祥の本心が知りたかっただけ。

「『戻って来いよ…俺の雫』って、もう一度言ってよ」
「あ?あぁ、何度でも言ってやるさ。俺の側にいろよ、戻って来い。雫」

せっかくの綺麗な顔が、一瞬にして涙でくしゃくしゃになる。
彼女には、いつでも隣で笑っていて欲しいと思っていたのに男として失格だ。
だから…。

折れてしまいそうな細い体を力いっぱい抱きしめる。
―――あぁ、俺の雫だ。

「だけど、どうする?住むところもないのに」
「決まってるでしょ」
「俺んとこ、来る覚悟はできてるんだろうな」
「もちろんっ」

泣き笑い顔の彼女は、やっぱりまだあどけなさが残っているが、去年よりずっと綺麗になった。
いつしか雪も止み、本当の春がやって来る。

二人の春が。


To be continued...


お名前提供:祥(Syou)&雫(Shizuku)… 葵 さま

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