エレベーター・ランデブー
1


―――急に会議室に呼び出しって…何だろう。
もしかして、部長に内緒でこっそり匿名で送った不始末を社長に告ったのがバレたとかっ。
あぁ、あの人のことだし、ありうるかも…。
だって、あれは部長が―――。

ガタ

   ガタッ

ガツン

「おぉっ。なっ、何が起こったのっ!!故障?!停電?! 嘘、どうすんのよ。こんなところでっ」

―――嘘でしょ、こんなエレベーターの中に閉じ込められるなんて。
一旦、暗くはなったもののすぐに非常用照明が点いた狭い箱の中で、あたしは大きく溜め息を吐いた。

カチカチっ。

「あの聞こえますか?エレベーターが止まって、中に閉じ込められてるんですが」
『はい、聞こえます。こちらは管理会社の者ですが、只今、地震が発生しました関係でエレベーターが自動停止しました。大きなものではなく揺れはおさまりましたが、すぐに復旧に向けて対応いたしますので、そのまま暫くお待ちいただけますか』
「だ、そうだ」
「え???」

「待つしかないな」とその人はボソッと言うと、床にどっかと胡坐を掻いた。
さっき、管理会社の人は地震が発生したと言っていたが、そう言えばテレビのニュースでも地震でエレベーターが止まって閉じ込められたという話は聞いたことがある。
エレベーターに乗っていたせいか地震があったことすら全く感じなかったが揺れはおさまったと言っていたし、たいしたことはなさそうだから、この人の言う通り待つしかないのだろう。
こんな場面に遭遇することは今までなかったのでひどく動揺して気付かなかったが、回りを見回してみればエレベーター内には自分とこの男性しかいないようだ。
一人だったら、気が動転して何をどうすればいいか冷静には考えられなかったかもしれない。
この人がいてくれて良かった。

「君は、この会社の人?」

不意に話し掛けられてびっくりしたが、いくら非常灯しか点いていないエレベーター内とはいっても、この会社の社員なら専用のIDカードを首から下げているのを見ればわかるはず。
と思ったら、男性は真っ直ぐ前を向いたままであたしの顔なんぞ見てもいない。

「はい、一応」
「そうか。俺は初めてここに来て、これだからな。幸先いいっていうか、何というか」

―――初めて?
ってことは、他所の会社の営業さんかしら?
ビシッと決めたスーツ姿で、年齢はそうねぇ、30歳くらい。
でも、初めて来てこんな目に遭うなんてねぇ。
ツイてないわ。

「エレベーターが古いんですよ。今は地震が起きても初期微動を感知すると、最寄り階までエレベーターを自動的に移動運転させて扉が開く構造になってるっていうのに。社長が豪遊ばっかりして設備投資をケチるから、社員がこんな目に遭うんです」

「社員だけじゃなくって、あなたのようなお客さんもです」と、この人に文句を言ってもしょうがないけど、本当のことだから。
あぁ、だけど、社長に告ったは早まったかしらね。
命に関わるこっちの方が先だったわ。

「社長は、そんなに遊んでばかりいるのか?」
「毎週末、高級料亭で接待とか何とか、その後は銀座の高級クラブで何十万もするピンドンを飲んでるとか」

「噂ですけどね」と話すあたしのことを彼は真面目な顔で聞いている。
これは噂であって、真意のほどは不明である。
まぁ、火のないところに煙は立たないと言うし、あながち嘘でもないだろう。

「そりゃ、社長として失格だな」
「でしょ?今度、息子が副社長になるらしいんですけど、どーせ甘やかされたボンボンに決まってます」
「ほぉ、息子が副社長に。で?どんなヤツなんだ」
「えっと」

どーせ、そう簡単にはエレベーターも動き出しそうにないし、あたしは彼と同じように床に腰を下ろすと壁に寄り掛かる。
息子はずっと海外にあるどこぞの支社だかで修行していたらしく、ここ本社勤務は初めてだとしか聞いていない。
大体、御曹司ってやつはブサイクかイケメンのどっちかと相場が決まってるが、それでも、お金さえあれば何だって手に入るはず。
きっと、女性関係だって相当派手に違いないのだ。
―――あたしは、どんなにお金を積まれたって、そんな男とはお付き合いしたくないわ。

「海外の支店で修行していたとしか聞いてないんです。そんな人が、いきなり本社に来て副社長なんてできるはずありませんよ」
「君は歓迎していないようだね」
「他の女子社員は、若くて独身だっていう副社長が来るのを楽しみに待ってますけどね」

しかし、よく見れば目の前の彼は、かなりのいい男なんじゃない?
うちの会社はダサい人が多いけど、有名どころの商社マンなんかはやっぱり身なりだけでなく顔も違うしね。

「今後、会社はどうなればいいと思う?」
「そうですね。昔ながらのやり方を否定するわけじゃないんですけど、いいところは残して新しいことも取り入れる。もっと若い人達の声も聞いて欲しいなと思います。時代は流れてるんですから」

オジサン達の言いなりになっているのは、もうウンザリ。
若い人達だって、十分に力を持ってるのに発揮できる場がないなんて。

「本当は副社長に期待してるんです」
「期待?」
「私達のような若い人達と交流を持ってくれたらって」
「きっと、そう思ってるんじゃないかな。だからこそ、社長も息子を副社長に迎えたのかもしれないし」
「だといいんですけど」

「もしもーし、聞こえますか?お待たせして申し訳ありません。点検作業が終了しましたので、エレベーターを最寄の階に移動させます。体調が悪い場合はすぐに連絡して下さい」

「やっと、ここから脱出できそうだ」

ゆっくりと動き出したエレベーター内に明かりが点り、扉が開く。
「いい話を聞かせてもらったよ」と彼は立ち上がるとあたしの前に手を差し伸べたが、何だか一気に力が抜けたような。

そのまま、意識を手放していた。


To be continued...


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