キラっ
キラっ
キラ、キラっ
どいつも、こいつも、キラっ、キラっさせてからに!!
だいたい、男が指輪なんて気持ち悪いっつうのっ。
これみよがしに見せつけてっ。
あなたみたいなダサ男、そう!!そこのあなたっ。
嫁に来てくれる奇特な女性がいただけでも、ありがたく思いなさいよっ。
と、心の中で毒づいてみても、羨ましいものは羨ましい…。
どうして、それほど素敵ってワケでもないし、性格だって少々難アリな人でも、ちゃあんとパートナーがいるんだろうか。
そこが、神様の寛大なところでもあり、不公平なところでもある。
だったら、あたしにも誰かいい男性(ひと)見繕ってくれてもいいじゃないっ!!
この際、欲は言わないから…。
「ねぇ、ねぇっ、聞いてっ。ビッグニュース!!」
「あの村瀬女史が、結婚するんですってっ」と鼻息荒くあたしのところへすっ飛んできたのは同僚で一期上の石川 海(いしかわ うみ)。
学生時代から付き合っていたという彼と、入社3年目でゴールイン。
部内一、いや社内一と言われるほどの情報通の彼女、どこで聞きつけたのやら。
しかし、あの38歳主任。真面目で仕事一筋、ひっつめ髪でお局様の村瀬 恵(むらせ めぐみ)女史が結婚とは…。
「うっそーっ。あの村瀬女子が、けっこーん?!このまま、一生独身だと思ってたのに」
「それが、本当なんだって。部長に披露宴の挨拶頼んでるとこ見ちゃったもん。まぁ、見合いか結婚相談所か、そんなところだと思うけど。お茶にお華、料理はプロ級の腕前らしいし、案外家庭的なのかもよ?」
「へぇ?そうだったんだ」
「ほら、脱いだらスゴイのかもしれないし」と言いたい放題の海(うみ)。
羽目を外すこともなく、流行とは程遠い服装に髪型だけど、きっと見えないところに彼女の魅力が隠されていたのかもしれない。
そういうところをちゃんと受け止めてくれる男性に出会えただけでも、村瀬女史は幸せ者だ。
「昌(あきら)も贅沢言わなきゃ、今すぐにでも結婚できるのに」
「でも、あたしは嫌っ!!ぜーったい嫌っ。まだ諦めたくないもん」
いくら、村瀬女史が結婚することになったとしても、安斎 昌(あんざい あきら)29歳、崖っぷちだと言われようが、妥協はしたくない。
「そうは言っても、うちの部で独身って、もう昌(あきら)だけじゃん。そりゃ、超可愛いからって選り好みしてたら、ほんとに行き遅れちゃうわよ。もう、30なんだし」
「まだ、29ですぅ」
「一緒にしないでっ」新人の男子までも入社してすぐに結婚とやたらに既婚率が高いうちの部に於いて、唯一売れ残り確定だと思っていた村瀬女史が晴れて売約済みとなった今、とうとう名実共に最後の一人になってしまったわけで…。
「彼氏も、いないんでしょ?」
「そうだけどっ」
く、悔しいけど、言い返せないのよねぇ…。
晩婚の時代だっていうのに何で、こんなに焦らなきゃならないのっ。
あぁ〜あ、どこかにお嫁にもらってくれる素敵な男性はいないかしらねぇ。
+++
「昌(あきら)。今、そこのミーティングルームにお客さんが来てるんだけど、結構イケメンっぽかったわよ」
「えっ、イケメン」
どれどれ。
ちょっと偵察に行ってみましょうか。
海(うみ)と一緒にこっそりミーティングルームを覗いてみると初めて見る顔だったが、彼女の言う通り、年齢は30くらいの短髪が爽やかでネクタイの趣味もいい、なかなかのイケメンだ。
が、しかし…。
「あぁ…ざんねーん。指輪、光ってたわ」
「あのねぇ、そこんとこ肝心なんだから、ちゃんと見てから言ってよ」
───ったく、もう。人騒がせなんだから。
たとえ、彼が独身だったとしても、この状況から付き合うようになって、その後、結婚までいく確率は果たしてどれだけあるのか。
縁と浮世は末を待てということわざもあるし、良縁とチャンスは、時節が来るのを待つべきもので、自分から焦って求めてもうまくいかないということ。
反対にえり好みをしすぎて、かえって悪いもの、つまらないものを掴んでしまう、選んでかすを掴む場合もあるし…。
◇
「ほら、元気出して。この海(うみ)姉さんが奢ったげるから、飲み行こうって」
「出会いが待ってるかもしれないんだから」と連れて行かれた居酒屋チェーン店ではとても出会いなんぞあるとは思えないが、仮にあったとしてもロマンチックでもなんでもない気が…。
ガラガラッと戸を開けると威勢のいい若者の掛け声、そして、その奥には見知った顔。
「おぉっ。こりゃ綺麗どころが、お二人さん」
「何で、一ノ瀬」
「ん?男は大変なわけよ」
───何が、『男は大変なわけよ』よ。
見れば、彼の部の男性ばかりの飲み会のようだが、左手薬指に指輪が光っていないのは残念ながら、この男だけのよう。
「あっそ、そりゃお気の毒様」
「おいおい、それだかけか。っつうか、女同士でこそこそやってないで、こっち来いや」
「は?誰がっ───」
「はいはい、今行きます」
───ちょっとっ、海(うみ)ったら、なんてことをっ。
あたしの不快な顔を横目に「いたじゃない、最後の独身男が。出世頭でモデル張りのイケメンよ?このチャンスは掴まなきゃ」と背中を押して彼らのいる座敷に割り込んだ。
チャンスって…。
あのチャラ男、一ノ瀬 誠(いちのせ まこと)は女っタラシで有名なあたしの同期。
いくら独身でも、モデル張りのイケメンでも、あの男とだけはお近付きになりたくないし、ましてや切羽詰って結婚相手を探してるなんぞ、知られたくもない。
「安斎は、生大でいいのか?」
「うん」
───どうして、よりによって一ノ瀬の隣なわけ?
変なとこばっか気を使って、男同士で飲むんじゃなかったの?
「何でも好きなもの頼んでいいぞ?ほっけの塩焼きでも、タコのやわらか揚げでも。そうだ!!お前は軟骨のから揚げも好きだったよな」
「じゃあ、それでいい」
「なんだよ」
「他のもあるから、ほら」とメニューをあたしの前に開いて見せる一ノ瀬。
だって、さっき言った、ほっけの塩焼きとタコのやわらか揚げと軟骨のから揚げが好きなんだもん。
それより、どうしてあたしの好きなものを覚えてるわけ?
「綺麗どころも加わったことなので、改めて乾杯」
一際、大きいジョッキが恥ずかしいなんて思わない、ガツンと合わせて一気に喉に流し込む。
ぶはぁ…仕事の後の一杯は格別だ。
「相変わらず、いい飲みっぷりだな」
「どうせ、可愛くないですから」
いつものことだから慣れてるはずなのに、なぜか今夜はこんな憎まれ口しか出てこない。
「そういうところが、ソソラレルとこなんだけどさ」
「は?」
───今、ソソラレルとかなんとか言ってたような…。
もしかして、既に酔っ払ってる?
「もう、酔っ払ったの?一ノ瀬も歳よね」
「何、言ってるかな。安斎だって、三十路だろ?」
「失礼ねっ!!まだ、29歳ですぅ」
女性に向かって歳のことを言うのは禁句でしょうがっ。
「まっ、俺もそろそろ結婚とか考えてるわけよ」
「へぇ、女っタラシの一ノ瀬が一人の女性に落ち着けるわけ?」
───そういう女性(ひと)がいるんだ…。
少ししたら、この男の左薬指にも指輪がキラリと光る日が来る。
そんなの、あたしには関係ないけど…。
「女っタラシとか、ひどくねぇ?確かに若気の至りはあったかもしれないけど。これでもさ、一途に想ってる女性(ひと)がいるわけよ。なのに俺にはめっちゃ冷たいんだ」
「うっ、一ノ瀬が一途って…」
───ありえな〜い。
この男になびかない女性って、よっぽど綺麗な人に違いないわね。
だけど、どんな人なんだろう?一ノ瀬が一途に想う女性。
「あのなぁ、俺だって真剣なんだぞ?その女性(ひと)と一緒になれたら、絶対幸せにするって誓うし」
「それ、あたしに言わないで、本人に言った方がいいと思うけど」
ここまで言われれば、どんな女性だってコロっといっちゃうでしょうに。
それをあたしに向かって言わないで欲しいわよ。
ただでさえ、焦ってるのに彼氏すらいないんだから…。
「いや、既に言ってるつもりなんだけど」
「へ…誰?」
───言ってるつもりって、誰に?
まさか…海(うみ)じゃないでしょうねぇ、彼女は既婚者なんだから。
「一ノ瀬さん、ここはきちんとみんなのいる前で言った方がいいと思うわ。約一名、肝心な人が鈍感だから」
業を煮やした海(うみ)が突然、場を仕切る。
何事かとみんなが一斉に彼の方へ視線を向けた。
えっ、何?
「では。えっと、わたくし一ノ瀬 誠は本日を持ちまして独身とはおさらばし、隣におります安斎 昌嬢と結婚したいと思って───」
ベチっ
「痛ってぇ、なによんだよ。未来の夫に」と額を大げさに押さえる一ノ瀬。
───なにが、未来の夫よっ。
勝手なことをみんなの前で言ってからにっ!!
「昌(あきら)、彼は本気なんだから、ちゃんと最後まで聞いてあげないと」
「本気って、あたしがいつこの男と結婚なんてっ」
興奮気味のあたしを海(うみ)が宥めるが、さっき言っていた一途に思っている女性がいるとか、一緒になれたら絶対幸せにするっていうのは全部あたしのことだって言うの?
「安斎のこと、絶対に幸せにするって誓うから。一ノ瀬 昌になって下さい」
「おぉっ、いいぞ!!一ノ瀬。最後の独身男が射止めたのは、ダントツ社内で一番人気の安斎さんだったとは」と、拍手喝采と共にそんな声が聞こえてきたが…。
えぇぇぇぇっ!!
あたしは、マジで一ノ瀬 昌になっちゃうワケ?!
みんなの前で告白されるとは…。
断るわけにもいかないじゃない。
「あたしにお嫁さんになって欲しいなら、出世して将来社長になること。それと、家事は完璧にできないので、宜しく。以上」
───これで、どうよ。
「任せなさい。俺、これでも料理は得意だし」
「えぇ、一ノ瀬は来月付けで課長に昇格だから、まず出世に関しては問題ないだろう」とは、彼の上司の言葉。
え?いつの間に。
「昌(あきら)、こんなに想ってくれる人なんていないんだからOKしちゃいなさいよ」
「他人事だと思って」
あまりに突然過ぎて夢なのか現実なのかもよくわからないけれど、彼の言葉は信じたい。
「わかりました。一ノ瀬 昌になります」
自分でも、なんでこんなことを言ってしまったのか。
でも、きっと彼は公約通り幸せにしてくれるはずだから。
To be continued…
お名前提供:安斎 昌(Akira Anzai)&一ノ瀬 誠(Makoto Ichinose)/石川 海(Umi Ishikawa)/村瀬 恵(Megumi Murase)…トドさま
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※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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