何で、あんな約束をしたんだろう…。
絶対に無理!!無理に決まってる!!
あと、一週間以内に彼氏を作るなんて…。
あれは、今から一年前のこと。
毎年やっている高校時代のクラス会での会話に始まる。
『ねえ、来年のクラス会までに彼氏ができなかったら、みんなに好きなものを奢るっていうのはどう?』
こんなとんでもないことを言い出すのは亜衣(あい)しかいないが、おもしろがって優美(ゆうみ)まで顔を上下に振っている。
というか、彼氏がいないのはこの中であたしだけじゃないっ!!
それを知っていながらワザと言うなんて、確信犯なんだから。
『お気遣い、ものすご〜くありがたいんだけど、すごく遠回しにあたしのことを言ってる?』
『舞花(まいか)、あのねぇ。26歳にもなって彼氏いない歴更新してどうすんのよ。一年あれば十分でしょ。彼氏できなくても十分貯金できるし』
『うっ…』
すっごい嫌味。
だいたいねぇ、無理して男を作っても、いいことなんて一っつもありゃしないんだから。
『ダメよ?今から諦めて貯金しようなんてのは。待ってたっていい男は寄ってこないの。自分から捕まえなきゃ』
いや、もしかしたら便利屋とかに頼めば仮の恋人を用意してもらえるかもしれないわね。
ほら、ハーレクインなんかでよくある話じゃない。エスコートサービスとかなんとかいうのが。
『本日は、ご予約でしょうか?それとも、お持ち帰りで』
『そうねぇ、カッコ良くてお金持ちの人がいたら、持って帰るわ』
『はい。では、ご注文を繰り返します。カッコ良くてお金持ちの彼氏一人ですね』
───は?彼氏一人???
あれ?ハンバーガーショップじゃなかったの!?
てっきりそうだと思って足を踏み入れたが、カウンター奥にはメニューも何もない。
一体、ここは何のお店なんだろう。
『お客様、お待たせいたしました。ご注文をどうぞ。お客様?』
『はっ、はい。えっと…あの、彼氏を一人』
『本日は、ご予約でしょうか?それとも、お持ち帰りで』
『え?よ、予約で』
『では、予約の日にちとご希望の彼氏をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『あの、代金はどのくらい』
『お客様は、当店のご利用は初めてでしょうか?』
『は、はい』
『でしたら、只今キャンペーン中ですので会員登録無料。50%OFFの1時間5,000円〜となっておりますが』
1時間5,000円ってことは、二人には顔見せするだけで構わないから余裕を持って3時間で15,000円かぁ
奢るより安いんじゃないの?あの子達のことだから、これみよがしに高い店の名前を挙げるに決まってる。
それに見掛けによらず、大食いなんだから。
『来週の日曜日に16時〜19時までの3時間。とびっきりのいい男をお願いします』
『はい。ご注文を繰り返します。ご予約で来週の日曜日に16時〜19時までの3時間。とびっきりのいい男ですね』
繰り返されて、穴があったら入りたいくらいだった。
そんな大声で言わなくても…と思ったが、周りはみんな舞花と同じように年齢や男女問わず、アバンチュールの相手を求めに来ているだけなのだから。
『またのご来店をお待ちしております』
またはないと心に誓いながらも、果たしてこれで良かったのだろうか…。
罪悪感と好奇心が入り混じった気持ちの中で、日曜日を迎えるしかなかった。
+++
「あぁ、どんな男性(ひと)が来てくれるのかしら…」
聞いているのは年齢が28歳、“知己(ともき)”という名前だけ。
とびっきりのいい男だと頼んだのだから、それなりの男性が来るであろう。
しかし、初めてのことだし、お金で調達したニセモノだということが亜衣と優美にバレなければいいのだけれど…。
「舞花。ごめん、待たせて。舞花?」
「どうしたんだ?」心配そうに舞花の顔を覗きこむのは、モデル並み?いやそれ以上といっていいほど男前の男性だ。
長身で180cmはゆうに超えているだろう。
しかし、どこかで見たような…。
「今日は一段と綺麗だね」
耳を掠めるように唇が触れ、舞花の全身に一気に火が点いたように熱く燃え上がった。
たった今、会ったばかりなのに。その前にあたしのことをまるでずっと昔から知っていたような素振りはそこまで調べたということ?
「あの」
「僕に合わせて。心配しなくても、大丈夫だから。これから3時間は、君のために最高の彼氏になるよ」
最高の微笑みを浮かべ、囁くように言うと知己は舞花の手を握る。
大きくて暖かくて、それだけで心が安らいで本物の恋人同士だと錯覚するほど。
「舞花。えっ?この人が言ってた彼氏?」
「うそ…」亜衣と優美はぽっかりと口を開けたまま、その場に固まってしまった。
彼氏ができたと聞いた時、二人は全く信じていなかった。
好きなものを奢ってもらえると期待を膨らませてこの日を迎えたというのに、らぶらぶオーラが漂った目の前の男女を見せ付けられて信じずにはいられないだろう。
それにしても、なんてお似合いのカップルなんだろう。
「舞花、僕に紹介してくれないのか?」
「え、あぁ。亜衣と優美。二人とも高校時代のクラスメイトで、今も仲良しなの」
「こんにちは。舞花の彼氏の知己と言います」
「お会いできて光栄です」なんて、外人みたいに握手したりして。
それにしても、二人の目が知己に釘付けね。
まさか、彼氏ができるとは思っていなかったんだから仕方がないが、実際これはニセモノの彼氏であって本当のあたしには彼氏なんてものは存在しない。
後ろめたさを感じながらも、これだけ素敵な人が今は自分のモノなんだと思うと何ともいえない優越感に浸ってしまう。
「もう、舞花ったら。こんなにいい男を捕まえておきながら、この日までずっと黙ってるなんてズルいわよ」
優美は口を尖らせた。
「ほんと。もっと早く言ってくれればいいのに。ところで、どこで知り合ったの?」
「え…」
「あぁ、お店に彼女が来てね。イタリアンの店を経営してるんですが、僕の一目惚れです」
さすが、お金をもらってるプロのことだけあってナイスフォロー。
「出逢って、3秒で恋に落ちましたよ」
それは言い過ぎじゃないの?
あたしは、そうかもしれないけど…。
こんな素敵な人だもの、一瞬で恋に落ちない方がおかしいわよ。
だけど、これはお金で買った夢なんだから。
「本当に?」
「本当ですよ。なぁ、舞花」
「まっ、まぁね」
「僕達の結婚式には是非、お二人もいらして下さい」
「そこまで話が進んでるの?」
ちょっ、ちょっとっ!!なんてことを言うのよ。
あなたとは3時間だけの恋人のはずでしょ?一生なんていったら、半額のキャンペーンはいつまでだったかしら?1時間が5,000円で一日12万円、それが一年で4、380万円!?
一年で離婚したことにしても…。
「とっても無理!!払いきれないわよ〜」
「どうした?何、寝ぼけてんだよ」
「え?あら」
GWも間近だというのに花冷えの日が続き、まだまだコタツが手放せない。
つい、気持ちよくて転寝してしまったようだが…。
「ママ、お腹減った」
「今、何時?」
時計を見れば、18時を過ぎたところ。
いけないっ、夕食の支度の途中だったわ。
慌てて起き上がるとキッチンで作りかけの料理を見て思い出す。
今日は結婚して10年目の記念日。
ささやかなご馳走を用意して、お祝いしようと思っていたのだ。
「ママ、今日は何の日?」
滅多に食卓に上がらないステーキを見て、子供は誕生日じゃないしと一生懸命考えているが、肝心な人は全く気付いていない様子。
毎度のことだから仕方ないけど、特別な今年くらい覚えていたっていいのに。
「パパに聞いてみて。きっと教えてくれるから」
「は〜い」コタツでテレビを見ていた夫のところに娘が行く。
「ねぇ、パパ。今日は何の日?ママがパパに聞いてみてって」
「今日?カレンダーに書いてないの───あ…」
カレンダーを見て思い出したのだろう夫はそれを見て飛び起きると姿勢を正し、手を合わせて申し訳なさそうにこっちを見ている。
まぁ、思い出しただけヨシとしてあげることにしましょうか。
夢の中のようにその場しのぎのお金で男性を見繕って、ウソがウソを呼ぶことになっていた方がもっと大変だ。
でも、簡単に許すのはもったいないわよね。
ダイヤの一つくらいおねだりしたってバチは当たらないでしょ?
左手をかざし、右手で結婚指輪のあたりを触るしぐさをすると夫は覚悟を決めたように頷いた。
あっ、夢の中の男性って。
どこかで見たことがあると思ったら、若かりし頃の夫だったわ。
END
お名前提供:舞花(Maika)&知己(Tomoki)/亜衣(Ai)/優美(Yuumi)…りす さま
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