コンコン―――
「おはようございます」
ノエルはいつものように彼氏であり、自分の勤める会社の専務である遼に車で送ってもらって出勤したが、女子更衣室に入ると先に出社していた亜佐美が椅子に座って真剣に何かを見つめているのが目に入る。
「おはよう、亜佐美」
「のっ、ノエル…。お、おはよう」
亜佐美はノエルの顔を見るなりものすごく動揺した様子で、急い見ていた物を後ろ手に隠す。
―――何よ、親友の私に隠すなんて…。
「何?今、隠したのは」
「え…なっ、何でもないわよ。隠すなんて」
「嘘、ばっかり」
ブルブルと顔を左右に振り続ける亜佐美だったが、ノエルはすかさず彼女が後ろに隠していた物を奪い取る。
「やっ、ちょっとっ!」
「ん?これ」
亜佐美が隠し持っていたのは、いわゆる女性週刊誌というもの。
これをどうしてノエルに隠さなければならないのか?
「見つかっちゃったんじゃ、しょうがないわよね。一万円札を崩すのに駅で買ったんだけど…」
「だけど?」
話し始めたと思ったら、途中で止まってしまう。
さすがのノエルもちょっと怒り出しそうだ。
「もうっ、はっきり言ってよ」
「わっ、わかったって。じゃあ、ここ読んでみて」
「ん?」
指で示された場所を見てみると、そこには見知った名前と見覚えのある顔写真…隣には綺麗な女性も…。
というよりも、さっきまで一緒だった愛しい彼氏の記事が載っていたのだ。
「え?何これ」
「いいから、読んでみて」
スクープ!!
東京シティホームズのイケメン専務 速水 遼氏(27)が、カリスマ美人モデルAさん(23)と深夜デート発覚!!
―――嘘っ、何よこれ…。
亜佐美が隠す気持ちもわからないでもないが、今はそれどころではない。
ノエルは食い入るようにその記事を読み始める。
どれどれ…。
○○月××日
都内にある高級ホテルから出てきた二人は、速水の車であろう外車に乗り込むと熱〜いキス!!
長いキスの後、車は東南方面へ走り去った。
寄り添いながらホテルから出てくる男性は、確かに遼のようにも見えなくもない。
ただ、写真が暗いのと白黒で確信はもてないが…。
その後、車に乗り込んで記事に書かれているような熱いキスということになったのだろうが、それも助手席に座る女性の正面に体を重ねるようにして背中を向けている恐らく遼であろう男性の写真だけ。
肝心なキスしている場面は、残念ながら?!写真に撮られていない。
「嘘…」
「でもね、ノエル。写真もなんとなく似てるように見えるけど、速水専務だって確証はどこにもないでしょ?それにこれじゃ、キスしているかどうかだってはっきりわからないし」
「そうだけど…」
亜佐美の言うようにノエルだって、そう信じたい。
全く、事実無根という場合もあるが、火のないところに煙は立たないということもあるわけで…。
ノエルという彼女がいながら、こういうことは絶対にありえないわけだし。
「ノエルが彼を信じないで、どうするのよ。専務に限ってそんなこと絶対ないって」
「うん、そうよね。真実も確かめないで、雑誌に書いてあることを信用するなんて」
「そうそう」
亜佐美にポンッと肩を叩かれて、彼女の言う通りだと思ったノエルだったが、やっぱり不安は拭えなかった。
◇
「なんなんだ。これはっ!!」
時を同じくして、専務室で大声を上げる遼に苦笑しかできない野坂。
まさか、芸能人でもないのに身近な人物がこんな記事を書かれてしまうとは…。
それも、最近できた彼女一筋のはずなのに…。
「専務、これは本当に専務ではないんですか?よ〜く似てますが」
「あっ、当たり前だろがっ。何で、俺がホテルなんぞにカリフラワーだかカリスマだか知らんが、そんなモデルと一緒に行かなきゃならないんだっ。大体なっ、ノエル以外の女にキスなんかするかっ」
―――ったく!!
相当怒りまくっている遼は、どっかと椅子に腰掛ける。
どこでどう間違ったら、俺になるんだ…。
遼自身にも寝耳に水、こんなデタラメな噂が出ること自体信じられないというか、呆れてものも言えない。
「雑誌社を名誉棄損で訴えますか?」
「そうだな。業務に支障が出るようなことがあれば、それも考えなきゃならないだろ」
「わかりました。顧問弁護士に相談しておきます」
「それよりさ、このことはノエルの耳にも入っちゃうよなぁ」
「どうでしょう?まぁ、この手の噂は女性の方が聞きつけるのが早いでしょうね」
「やっぱり…」
大きく溜め息を吐くと、どうしたものかと頭を抱える遼。
会社のイメージももちろん大事だが、遼にとってはノエルに誤解を与えてしまうことの方が気がかりだった。
この時点で、既にこの記事を読んでいるかもしれないのだ。
というか、時既に遅し…なのだが。
「専務は無実なんですから、早めに話しておいた方がいいですね」
「あぁ」
―――あぁ、何で俺がこんな目に…。
誰かよからぬ者の陰謀か?
考えてみたって始まらない。
野坂の言うように、早めにノエルには無実だと言うことを言っておかないと。
楽観的に思っていた遼だったが、そうすんなりとはいかないことにまだ気付いていなかった。
◇
「専務、大変です。例の美人モデルという女性が、専務との交際を認める会見をしたそうです」
「はぁ?どういうことだ、野坂」
あの記事に関しては事実でないことを遼自身に身に覚えがないのだから、それでいいと思っていた。
ところが、事態は思わぬ方向に転がり始めていた。
なんと、会ったことも見たことすらない美人モデルが、テレビに出て来て遼との交際を認めたと言うのだ。
「詳しいことはわかりませんが、テレビの芸能ニュースで会見しているそうなんです」
「ちょっと待て。俺はそんな女のことなんて、全く知らないぞ?」
「わかっています。多分、芸能プロダクションが意図的に仕組んだものだと思います」
「意図的?」
遼のように地位も名誉もあって外見もいいとなれば、美人モデルの相手としては申し分ない。
そうやって、世の女性に憧れを抱かせて注目を集めるのが目的なのだろう。
「はい。専務のように地位のある男性と噂になれば、今流行のセレブとかなんとか。美人カリスマモデルとは言っても、それだけでは売れませんから」
「そんなことは、俺には関係ないだろっ」
ノエルに事実を話すどころか、益々話は別の方向へ進んでしまっている。
「恐らく、芸能関係者は専務のところへも来ると思います」
「俺に会見しろって言うのか」
芸能人でもないのに、いちいち会見することが遼には到底理解できるはずもない。
ましてやこんなくだらない話で…。
「そうしないと収拾がつかないのでは」
「その必要はないだろ。知らないものは、知らないんだから」
「ですが…」
「俺は公の場で、そんなくだらない話をするつもりはない。後は野坂がうまくやってくれ」
「わかりました」
すぐにノエルにメールを送る遼だったが、どうしたことか彼女からの返事は返ってこなかった。
+++
それからというもの午後になってからは本社ビルに芸能レポーターが殺到し、警備員と揉める一幕まであって、業務に支障が出始めていた。
「ねぇ、なんだかすごいことになってきちゃったわね。しっかし、あのモデル、よくもまぁ抜け抜けとあんな嘘っぱちばかり並べ立てたもんよね」
「本当に嘘なのかな」
「ちょっと待ってよ。ノエル、まさか本気にしてるんじゃないでしょうね」
「私も嘘だと思いたいけど」
ノエルだって嘘だと思っていたが、遼のように素敵な人が一OLのノエルなんかと付き合うのがそもそもおかしいように思えて。
彼の相手と称されるモデルは、ノエルも良く知っている綺麗でスタイル抜群で女性の憧れである。
そんな二人が一緒にいる方が自然なんじゃないか。
「嘘に決まってるじゃない。専務、何かノエルに言ってきてないの?」
「メールは来てたけど、見てない」
「え?何でよ」
あの記事は、本当のことなんだ―――
そう言われたら、怖いから。
だからこそ、メールを見ることができないでいる。
「いいの。ほら、仕事に関係ない話をしてる場合じゃないでしょ」
無理に意識しないようにしているノエルだったが、本当は彼のことが気になって仕事なんて手につかなかった。
◇
―――何でノエルは電話にも出ないし、メールの返事もくれないんだよ…。
それに今朝は、家の前でいくら待っても、彼女は出て来なかった。
遼の家にまで取材陣が来ていたが、幸い車を付けられるということまではされていなかったから。
もしかして、休みかと思ったけれど、野坂に調べてもらったところ会社には来ているとのこと。
避けられたのか…。
それとも、愛想をつかされた…。
最悪のシナリオが脳裏を過る。
「くそっ!」
これじゃあ、仕事にも身が入らない。
取引先からも心配の電話が入るし、これ以上ことを大きくしないためにもやはりきちんと話をしなければならないのかもしれない。
遼が野坂に電話を掛けるために受話器を取ろうとした瞬間、ドアがノックされた。
「はい」
「失礼します」
「野坂、いいところに来た。今電話しようと思っていたところなんだ。あのさ―――」
「その前に」
野坂は遼の言葉を遮るように言うと後ろを向いて、誰かを部屋の中へ入れる。
「ノエル」
「ちゃんと話された方がいいと思いまして、お節介とは思いましたが、金子さんをお連れしました。記者会見は、その後検討することにしましょう」
全部、野坂はわかっていたのだ。
黙って頷くと彼は静かに部屋を出て行った。
「そうだ、ノエル。何で、今朝は一人で先に行ったんだ。それに電話もメールも無視しやがって。俺のことが、嫌いになったのか?」
「嫌いになんて、でも…」
「じゃあ、何でだ?」
遼はノエルの背中にそっと手をあてて、ソファーに座らせる。
たった1日会話をしていなかっただけなのにこんなにも愛おしく感じるのは、なぜなのか?
「あのモデルさんとは…」
「付き合ってるわけがないだろ。あの女も相当な演技者だな。だいいち、一度も顔も見たことがないんだから。あの写真に写ってた男も、俺とは全くの別人だ」
それを聞いてホッとするノエル。
彼女の表情で、遼はずっと気になっていたのだと言うことを理解する。
早くここへ呼び出せばよかった。
「彼女の方が、私なんかよりずっと遼にはお似合いで…」
「あのなぁ、ノエルの方が俺にはずっと似合ってんだよ。わかってんのか?」
「だってぇ」
「だって、何だ。全部言ってみろって」
一方の腕はノエルの肩を抱くようにして、もう一方の手を頬に添える。
目と目が合って、吸い込まれてしまいそう…。
「綺麗だし、スタイルもいいし…えっと…えっと…」
「もう、いいって」
それ以上言わなくてもいいように、遼はノエルの唇をキスで塞ぐ。
何度合わせても心地いいのは、他の誰でもない彼女だから。
「馬鹿だな。俺が、ノエルを裏切るようなことをするわけがないだろ」
「ごめんなさい」
「いいけど、俺を信じなかった罪は償ってもらわないとな」
「償うって…」
「その前に、この騒ぎを治めるために会見を開くから。親父もうるさいしさ」
社長である遼の父親も、ここまで来ると何も言わないわけにいかなかったのだろう。
テレビに出てきっぱりさっぱり否定すると、あんなに騒がれていたのにあっという間に静まり返ってしまった。
というのも、きちんと真剣に付き合っている女性の存在をアピールしたからかもしれない。
それを見てノエルが感動したのは言うまでもないが、『償い』という言葉がどうにも引っかかるわけで…。
会社から車に乗って二人で帰るのは、今回が初めてかもしれない。
「遼?」
「今夜は泊まるって、家に電話しろよ」
「え…」
こう言われた時点で、なんとなく予想はつくが…。
「いいか?ノエルに拒否権はないんだからな」
「…っ…」
拒否権がない…。
微妙に納得いかないが、彼を信じ切れなかったのは事実だから。
「あの…償うというのは…」
家に着いても、嘘のように芸能レポーターは姿を消していた。
「そうだな。まっ、夜は長いわけだし、色々」
「色々…やっ…ちょ…っ…」
いきなり抱き上げられて、ソファーに座る遼の膝の上に座らされた。
慌てて彼の首に腕を巻きつけたが、こんな格好は恥ずかしくてどうしていいかわからない。
「モデルって綺麗だけど、背も高いからこんなふうに膝の上に乗せられないだろ。ノエルがちょうどいいサイズなんだ」
「こんなの恥ずかしい」
「誰も見てないから」
啄むようなくちづけに、ノエルの心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。
唇を塞がれたままソファーに押し倒されて、遼の手がスカートの中に手が入って来た。
―――まさか…こんなところで…。
「…やぁっ…っ…こ…ん…なっ…」
「ノエルに拒否権はないって、言ったろ?」
「でもっ…」
内腿を撫でながら、布越しに秘部に触れてくる。
「…っ…んっ…」
唇を塞がれているので、思うように声が出せない。
スカートのホックを外し、ショーツごとスルリと足から抜いてしまう。
上半身に服を纏ったままのこの格好は、ものすごく恥ずかしい…。
「…あっ…ぁん…っ…こ…ん…な…格…好っ…」
「すっげぇ、ソソル」
「…っん…あぁぁっ…っ…っ…」
蕾を親指の腹で擦り上げられて、人差し指と中指が秘部の中へ入ってくる。
溢れ出す透明の蜜が、遼の指に絡みつく。
「ノエル、もうここはヌルヌルだぞ?随分とえっちい体になったなぁ」
「…えっ…ち…って…言…わ…な…い…でっ…っ…ぁんっ…」
「いいじゃん。俺は、えっちなノエルも好きだから」
再びノエルを抱き上げると座っている自分を跨ぐように立たせるが、半分イきそうになっているノエルには彼に支えられていないと倒れてしまう。
「ほら、俺ももうノエルの中に入りたいって言ってる」
「あっ…」
ズボンの上からでもそれがはっきりわかるくらい、彼のモノは大きく盛り上がっていた。
「きついんだけど」
「きついって、言われても…」
「出して?」
「え…えぇぇぇぇぇっ?!」
そう言われるとは思わなかった。
でも、彼のモノを出すなんて…。
「ほら」
「…そん…なっ…で…き…な…い…っ…」
「じゃあ、ノエルは入れて欲しくないの?指だけでいいのかな?」
「…だってぇ…」
「早く」
急かされて、仕方なくベルトに手を掛けるとズボンのホックを外してファスナーを開ける。
男の人のズボンを脱がせるなんて、初めての経験に手が震えてしまう。
彼は腰を浮かせてくれたので、そのままズボンを足から抜いて、えいっやっーでトランクスも脱がせてしまう。
マジマジとナニを見てしまって、思わず目をつぶってしまった。
ゴムの付け方はわからなかったので、それは彼自身にやってもらう。
「ノエル、入れて。もう、我慢できない」
「入れてって…」
「大丈夫だから、ほら」
腰をガッシリと支えられて、彼のモノを自分の秘部にあてがうと静かに自身を沈めていく。
「…っん…ぁあ…っ…っ…」
「いいよ、ゆっくり入れて」
自分の重みで、彼のモノがより一層奥まで入ってくるのがわかる。
「…あぁぁぁっ…っ…んっ…ぁっ…」
「…くぅっ…気持ち…い…い…」
上だけ見たら二人はまだ、服を着たまま。
下半身だけが繋がっている。
「動いて」
「…そ…ん…なっ…無っ…理…っ…ぁ…」
彼が自分の中でいっぱいいっぱいのノエルには、動くなんてとても無理。
本当は彼女に動いてもらいたかったけど、今の遼にはそこまでの余裕はもうなかった。
下から突き上げるとノエルの甘美な声が口から漏れる。
「…あぁぁぁぁ…っ…っ…んっぁ…っ…りょ…っ…」
「ノエルっ…愛してる…」
「…私も…っ…りょ…う…を…愛…し…て…い…ま…す…っ…あぁぁ…んっ…」
いつもと違う感覚に、二人はすぐにイってしまった。
暫く繋がったまま、遼は彼女の存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめる。
「ノエル。俺が、ノエル以外の女性と一緒にいたら嫌?」
「うん。すっごく、嫌」
「ほんと?」
「うん」
―――俺も、ノエルが俺以外の男と一緒にいるのは嫌だから。
一生、腕の中に封じ込めておきたいよ。
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