ひとりぼっちのHoly Night
OMAKE STORY
リリリリリーーーンッ
リリリリリーーーンッ
リリリリリーーーンッ
・・・・・・・・・・・・・・
『うわぁ…っ…何っ?…火事っ!?』
ものすごい音に驚いたノエルは、思わず飛び起きた。
一瞬、非常ベルかと思ったが、どうもそうではないらしい…。
―――あれ?ここは?
ベットの上にいることは確かだけれど、いつも自分が寝ているものとは違う。
「おは…よぉ、ノエル」
「えっ」
名前を呼ばれて、それも男の人…。
―――あっ…。
そうだった。
昨夜、速水さんに逢って、そのまま…。
こんなふうに朝を迎えるとは、正直思わなくて…。
「おはようございます」
恥ずかしかったが、そっと速水の方へ視線を向けると、羽根布団を頭の半分くらいまでかぶった彼は枕に顔を埋めたままだった。
朝が弱いと言っていたのは、どうやら本当のよう…。
―――ん?
枕元には壁に埋め込まれたラックがあって、そこにはコレクションされた品々のように目覚まし時計がズラッと並んでいた。
『目覚ましなんか、10個くらいセットしないと起きられなくてさ』
と言っていたのを思い出す。
―――うわぁ…すっごい。
でも、これ速水さん、全部止めてたわよね?
ノエルが飛び起きた後、すぐに音は消えていた。
ということは、彼がそれを全部止めたということになる。
なんという、早業…。
ってうか、今何時?
「うわぁっーーっーー」
「何だ?どうしたんだ」
目覚ましの音よりも、ノエルの声の方が大きかったかもしれない。
さすがの速水も目を覚ましたらしい…。
「ちっ、遅刻しちゃうっ!」
「あ?」
時計を見れば、速水が毎朝起きる時間よりだいぶ早いように思えるが…。
「余裕だろ」
「何、言ってるんですかっ。私、着替えてから会社に行かなきゃいけないんですぅ。寝る前に言ったじゃないですかっ」
「そうだったか?」
「そうだったか?じゃないですよぉ…いゃぁっ…ちょっ…」
慌ててベットから出ようとするノエルの腰に腕を回して、速水は自分の方へ抱き寄せる。
「なんだよ、ノエル。おはようのキスはナシ、なのか?」
「キスっ!?そっ、そんなのナシです。当たり前じゃないですか。やっ…ちょっと、離して下さいっ…」
「嫌だね」
―――嫌だねって…。
「速水さん。お願いですから、離して下さい。私、ほんとに遅刻しちゃいますから」
「名前で呼ぶよう、言ったはずだ。それにキスしてくれなければ、離すつもりはない」
―――名前って…そうなんだけど、専務を呼び捨てになんて…。
それに、キスしなきゃ離さないって言われても…困る。
だいたい、どこ触って―――。
「…いゃぁ…んっ…」
「ノエル、朝からそんなエロい声を出すなっつんだ」
「だってぇ…速水さんが、触るから」
「名前」
「…ぁっ…ん…っ…りょ…う…」
上半身に何も身に着けていないノエルの胸を速水は大きな手で揉みながら、時折蕾を刺激する。
そんなことをされれば、朝からだろうがなんだろうが、誰だって声を出してしまうのに…。
「そう、いい子だ。じゃあ、キスして。してくれないと、遅刻するのはノエルなんだぞ?」
「それは、はや…遼だって、同じじゃないですか」
「俺?俺は専務だから、いいんだ」
―――専務だから、遅刻してもいいなんて…。
職権乱用じゃないっ。
「職権乱用ですよっ」
「なんとでも」
―――うわぁっ、開き直ってるしっ。
「…ぁっん…っ…」
「ノエル。早くしてくれないと、俺もヤバイんだけど…」
密着している下半身は、布越しでも彼のモノが固く大きくなっているのがわかる。
―――うそ…え?朝からなんて…。
「やぁっ、遼のえっちぃ」
「ノエルが、エロい声を出すからだろ。でも、これ以上は何もしないから、キスして」
初めてだったノエルのことを思えば、速水だってこれ以上は手を出すつもりはない。
抑えるのは、大変だったけど…。
「わかりました」
これで遅刻するわけにはいかないので、ノエルは仕方なく!?速水のほっぺにチュッっとおはようのキスをする。
たったこれだけのことなのに、速水の顔はみるみるうちに破顔した。
◇
かろうじて早めに出発して、ノエルの家に寄り、着替えてから会社に行く。
両親には亜佐美の家に泊まると言っていたので、特に疑われることはなかった。
「ノエル、おはよう。ねぇねぇ、今朝は彼と一緒に来たの?」
「亜佐美、おはよう。うん」
亜佐美は、ノエルが会社近くでちょうど彼の車から降りるところを見掛けたのだった。
せっかくのクリスマスを彼と一緒に過ごせなかったと思っている亜佐美は、この光景が少々腑に落ちない。
「あれ?ノエル、そのペンダント」
「あっ、これ?もらったの」
さすが、亜佐美は目が早い。
「えっ、もらったって…。あの、彼に?」
「うん…」
いつの間に…。
昨日は、みんなと一緒に飲みに行ったはずなのにどうしてそういうことになったのかしら?
それに…。
目ざとい亜佐美は、ペンダントだけではなく、彼女の首元に赤い跡を発見する。
そういうことか…。
後で、しっかり話を聞かなきゃ。
「いいなぁ、それティファニーの新作でしょ?彼氏お金持ちだから、高価なものすぐ買ってもらえるんだぁ」
「やっぱり、そうなのよね。私、お見舞いのお花のお礼も、クリスマスのプレゼントも用意してなくて…」
「そんなのノエルに比べれば、大したことじゃないわよ」
「え…」
そっかぁ…。
なるほど。
彼は、プレゼントにノエルをいただいたわけね。
ティファニーよりもずっとずっと高価で、誰もが手に入れられるものじゃない…。
でも、良かった。
「ノエル、良かったね」
「うん」
「でも、気をつけないと」
「気をつける?」
「ノエルは彼氏がいないって、みんなに知られちゃってるんだから。これから、誘われたりするかもしれないじゃない」
「え〜そんなことないって」
この時は暢気に返事を返していたノエルだったが、亜佐美の予感が変な方へいくとは…。
+++
「どうしたんですか?随分と落ち着かない様子ですが」
彼女とうまくいったはずの速水が、なぜかそわそわして落ち着かない。
「ノエルを狙ってる男がいるんじゃないか、気が気じゃないんだ」
「え…」
仕事絡みでないことは野坂にもわかったが、これが理由と言うのはどうなのか…。
「やっぱり、ペンダントじゃなくて、リングにしておくべきだったか」
ノエルに気付かれないように首元に印は付けたのだが、すぐに消えてしまうだろうし…。
薬指にリングがあれば、男はそれで寄って来なかったかもしれない。
「そんなに心配でしたら、こちらに配置換えしたらいかがですか?」
「いいな。野坂の代わりをノエルにやってもらうか」
「あの、それはっ…」
速水なら本気でやりかねないことを野坂は知っているから、余計に始末が悪い。
「わかりました。金子さんの周りをそれとなく調べておきますから」
「そうしてくれ」
なんで、私がこんなことを…。
と、野坂は思っても、ずっと仕えてきた身だし、これからもそれは変わらない。
厄介な仕事がひとつ増えたと思ったが、尊敬する上司のためにできる限りのことはするつもりでいる野坂だった。
◇
「ちょと、ノエル。あの人、知ってる?」
「あの人?」
「顔向けないで、こっち見てるから」
亜佐美に言われ、ノエルはわざとファイルを取るフリをしてその人物を観察する。
年齢は30歳くらいで、髪を短く刈り上げた大人な雰囲気のちょっと素敵な男性。
しかし、このフロア内の人でも、出入りする人でもない。
「ううん、知らない」
「最近ね。たまに見掛けるんだけど、いっつもノエルの方を見てるのよね」
「私を?」
「うん。IDカードも着けてるし、うちの社員なんだけど、なんか怪しいわよね」
「亜佐美の気のせいじゃない?」
「そうかなぁ。でも、かなりいい男ではあるわね。もしかして、ノエルのこと狙ってたりして」
「それは、あり得ないでしょ」
「わからないわよ?」
ノエルがもう一度、目を向けるとあの男性は、もうそこにいなかった。
+++
それからというもの、日に一度か二度はフロアであの男性を見掛けるようになった。
「どうした?元気ないみたいだけど」
毎朝、バス停ではなく家まで迎えに来るようになった速水だったが、ここ数日なんとなくノエルに元気がない。
「いえ、なんでも」
「そうか?隠し事は、ダメだぞ」
「ごめんなさい。なんでもないです」
あの男性のことを速水に言おうかどうか迷ったが、もしかして気のせいかもしれないし…。
考え過ぎということもある。
社内の人なのだから、きっとなんでもないはず…。
ノエルがいつものように微笑んだのを見て、速水も安心したのだった。
◇
「大丈夫?ノエル、一人で持てる?」
「平気平気。中身は空だから、軽いし」
パンフレットを整理するためのファイルの束を反対側のフロアにあるキャビネにしまうよう主任に頼まれた。
亜佐美が手伝うと言ってくれたが、軽いからと断ってノエル一人で持って行く。
前が見えないので一歩一歩確かめながら行く途中、誰かに声を掛けられた。
「手伝いましょうか?」
「あっ、いえ。大丈夫です」
聞き覚えのない声に前を見上げると、男性が顔を覗き込むように見ている。
そこにいたのは、何度かフロアに来てはノエルのことをじっと見つめていた人…。
「ぎゃぁーっーーーーっーーー」
驚いたノエルは、思わずファイルをその場にぶちまけて意識を手放した。
◇
「ノエル。おいっ、大丈夫か?」
「…ん…っ…」
「おい、ノエルっ」
自分の名を呼ぶのは、間違いなく愛しい人の声…。
「遼…どうして?」
「目を覚ましたか。いきなりぶっ倒れたって聞いて、すっ飛んで行ったんだ」
「倒れた?」
―――私、そう言えば…ファイルをキャビネにしまおうとして…。
目の前に男性の顔があって…。
「…やっ…」
「大丈夫か?」
よっぽど、怖い思いをしたのだろう。
速水の首に抱きついたノエルを、優しく抱きしめる。
大きなソファーに寝かされていたようだが、ここは彼の執務室なのだろうか?
「あの人…」
「あの人?あぁ、野坂のことか」
「のさか…さん?」
「あいつ、凹んでたぞ。自分の顔を見て、ノエルが倒れたって」
―――あの男性のことを遼は、知ってるの?
「ノエルは知らなかったのか、野坂は俺に付いて仕事をしてる専務付だよ」
「専務付?」
―――えっ、うそ…。
そんな、偉い人だったの?
だったら、どうしてあんなところに…。
「ノエルを狙ってる男がいないかどうか、それとなく見てもらってたんだ」
「え…」
―――狙ってる男って…。
だから、見に来てたっていうの!?
ヤダ、てっきり変な人だって思ってた。
「だけど、何でそんなに驚いたんだ?野坂は、そんなヤツじゃないだろ?」
強面というわけでもなく、背は高いが、細身だし、なかなかの男前だと速水は思う。
なのにノエルは、何でそんなに驚いたのだろうか?
「だって…何度かうちのフロアに来てて、私のことを見てるから、てっきり変な人なのかなって思って。亜佐美も、気を付けた方がいいって言うし…」
「あ?だからか…そっかぁ」
クスクスと笑い出す、速水。
ノエルを狙う男がいないかどうかのチェックを野坂をしてもらていたのに、変な男に間違えられるとは…。
「ごめんなさい…」
「あいつもちょっと、やり過ぎたのかもしれないな。ノエルが謝ることじゃないさ」
「でも…」
「俺も悪かった。ノエルに先に知らせておくべきだったよ。怖い思いさせて、ごめんな」
「そんな…」
「だけど、こうやって仕事中にノエルに逢えるっていうのはいいな」
「えっ…っん…っ…」
ノエルの唇に速水の唇が重なった。
―――ヤダ、こんなところで…。
「…ちょっ…りょ…っ…」
「ダメだ。俺もこれ以上は、歯止めが利かなくなる」
「もうっ、こんなっ」
「怒った顔も可愛いな」
鼻の頭にチュッて、キスされた。
ノエルは返す言葉も浮かばなかったが、なぜか怒る気になれなかった。
ただ、今はこんなふうに抱きしめてくれる彼が、愛しくて…。
二人は、甘いひと時を過ごしたのでした。
『何で彼女は、俺の顔を見て倒れたんだろう…』
専務室の前に立って腕を組みながら、どうにも腑に落ちない野坂だった。
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