俺の2歳離れた妹は、自慢じゃないがめちゃめちゃ可愛い。
クリクリっとした二重の瞳に長い睫毛、真っ白な肌はもう誰が見ても美少女だ。
スタイルだって抜群で、手足はこれでもかってくらい細くて長いのに出るところはちゃんと出てる。
俺の推測だとあれは、65のCってところだな。
あっ、これはあいつには絶対内緒だぞ。
だけど性格は至って明るくて、あんなに可愛いのに全然本人はそう思ってない。
天然で無防備で、だから俺は心配で心配で仕方がないのをあいつはてんでわかってないんだよな。
俺達兄妹は初等部から成翔学園に通っていて学校はずっと一緒だったから、変な輩に大事な妹を連れて行かれないように俺は裏で手を回していた。
だから、あんなに可愛いのに今まで誰にも告られたことがない。
本人もその気はまったくなかったようだけどな。
あれは、俺が中学3年になったばかりの頃だった。
付属だったから受験で苦労することもなかったけれど、いかんせん俺は数学だけはマジやばかった。
他の科目はほぼ完璧だったにも関わらず、数学だけは赤点ギリギリだったんだよ。
担任の先生もなんで数学だけって、呆れてたよな。
ほんとマジあのままだと数学のせいで俺は、高等部に進学できないかもしれないという瀬戸際だったんだ。
そんな時に母さんが知り合いに紹介してもらったという大学生の男を家に連れて来た。
国立の工業大学の1年生だという彼を俺の数学の家庭教師にするためらしい。
背が高くて細身のわりにはガッシリした体格で、顔は男の俺から見てもかなりカッコいい。
これはモテルだろうなというのが俺の第一印象だったが、話してみてそれが思いっきり崩れたのを今も忘れない。
だって、あの容姿であのしゃべり方だぞ?
ギャップが激しすぎるじゃないか。
そして運命の出会いっていうのだろうか?当時中等部に上がったばかりの妹が、家に帰って来た時だ。
うちの学校は今時珍しい男子は学ラン、女子はセーラー服という創立以来変わらない制服姿。
それもとびっきり可愛い妹がそれを着れば、大抵の男はどうなるか想像がつくだろう?
案の定、あの人は思いっきり固まったよ。
もう、これでもかってくらいにね。
まったくわかりやすい男だ。
でも、あの人は当時18歳で妹はまだ12歳だったから、まさかそういうことにはならないって俺も安心しきってたところがあったんだよな。
なのに俺に数学を教えながらあの人は妹のことばかり、『千春ちゃんは、千春ちゃんは』ってな。
初めマジロリコンか?って疑ったくらいだぞ。
だって考えてもみてくれよ、いくら可愛いって言っても12歳の子供を本気で好きになる奴なんてあり得ないだろう?
だからある日、あの人に言ったんだ。
『俺にとっても大切な妹だ、興味本位だったらやめてくれ』と。
そうしたら、あの人なんて言ったと思う?『僕は本気で千春ちゃんが好きなんだ』って。
あんまりにも真剣に言うものだから、こっちも拍子抜けしちゃってさ。
勉強を教えてもらっているうちにあの人の誠実さとかそういうのをわかってたから、これはマジなんだって思ったけど。
それでも妹はまだ幼い、そこで俺が出した提案は妹が高校2年になった時にそれでも気持ちが変わらなかったら妹に手を出してもいい、ただしもう1つ、それも成翔の教師としてとな。
さすがにあの人も面食らってたよ。
だってそうだろう?誰があと4年も待ち続けて、挙句の果てには教師にまでならなきゃならないって提案を受け入れるって言うんだよ。
しかし、あの人はあっさり俺の言葉を受け入れたよ。
あの時はマジ、馬鹿だって思った。
そこまで想う奴が、いるのかってな。
だけど、あの人の気持ちとは裏腹に妹はあの人のこと結構毛嫌いしてたかな。
年上の人に可愛がられるのが慣れてなかったんだと思うけど、どうも子供扱いされてるって思ってたみたいだな。
あんまり露骨に態度に示すものだから、俺も気の毒になって…その後、勉強を教わってもあの人落ち込んじゃって見てられないんだよ。
ほんと18かぁ?!って疑うほど純粋でウブで…、でも俺は知らぬ間にあの人に引き込まれていたよ。
だから言葉には出さなかったけど、心の中では応援してた。
あの人が俺の面倒を見たのは1年だけだったけど、その後も親や妹には言わずに付き合いは続いてた。
なんだか俺には兄貴みたいな存在に思えてきて、自分の恋の悩みなんかも相談したよ。
もちろん、妹のことも逐一報告していたけどな。
リビングのソファーで無防備に眠ってる妹を携帯で撮ってすぐにその画像を送ったら、あの人めちゃめちゃ喜んでたからな。
多分、あの人のことだから今でも大事に持ってるはずだ。
おっとこれがバレたら俺は、妹になんて言われるかわからないから早く抹消させないと。
そして、本当に4年後に教師になって来るとはな。
元々教師にはなるつもりだったらしいから、その希望は叶ったが、俺との約束通り成翔の教師になるとはあっぱれとしか言いようがない。
妹が高等部2年になると俺は大学1年になるから、併設で隣に学校があるとはいえ校舎の違う妹の監視ができなくなる。
それが一番の心配だったからあんな提案をしたんだけど、あの人が教師になって、それもどうしてか妹の学年の副担任にまでなってくれてちょうどよかったが。
そして俺がいなくなって早速1年野郎が妹に手を出したらしいが、妹にその気がなかったにも関わらず粘りやがった。
あの人も自分のこととなると奥手だからな。
見ていてイライラのしっぱなしだった。
その矢先の妹の怪我に俺も両親もびっくりしたが、そのおかげで妹もあの人のことを好きになったようだから、正に怪我の功名ってやつだな。
ようやっとくっついた二人を影ながら応援している俺だけど、なんたって4年だもんな。
―――あの人、暴走しなければいいけど…。
今はそれだけが、俺にとって唯一の心配事かもしれない。
END
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