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ふたりの夏物語U
-Endless Love-


短い夏休みの間で、とっても素敵な恋をした。
―――あんなふうに出逢うなんて、思ってもみなかったな。
それも10歳も年上の上司、実際仕事では関わっていなかっただけでもまだ良かったのかもしれない。
社内恋愛にはちょっと憧れもあったけど、好きな人が毎日目の前にいたらどうなんだろう?
ドキドキしちゃって、仕事なんて全然身に入らないわね。

「彩瑛(さえ)」
「え?悠(はるか)…じゃなくって、えっと小西マネージャー」

ロビーでエレベーターを待っていると不意に後ろから耳元で名前を呼ばれ、思わずいつもの調子で悠さんと言いそうになった。

「誰もいないって」
「でも…」

彼の言う通り、運良くエレベーターホールには誰も人影はない。
それをきちんと確認した上で名前を呼んだのかもしれないが、誰かに聞かれるんじゃないかと気になってしまう。

「今、忙しい?」
「え…あぁ、そんなことも」
「だったら、ちょっと休憩でもどう?」

「コーヒー」奢るからさと、にっこり微笑む悠。
思わず、引き込まれそうになったが…。

「はい?休憩ですか…」

―――そりゃぁ、マネージャーともなれば適当に抜け出して休憩もできるかもしれないけど、あたしみたいなペーペーが長い間席を外していようものなら、何を言われるか…。
少しでも一緒にいたい気持ちは、山山だけど…。

「そう」
「あんまり席を外していると、色々言われますから」
「大丈夫だよ。俺がちょっと手伝ってもらったとかなんとか、言うから」

「ほら行くぞ」って、強引に外に連れ出されてしまう。
リゾートで見た彼も魅力的だったけど、仕立てのいいスーツにバッチリ身を包んだ今の彼は、都会にマッチしてより一層魅力的に見えた。
どうして同じ会社に勤めていることすら知らなかったのか、不思議なくらい。

「悠さんって、強引なんですね」
「あれ、知らなかった?」
「知ってましたけど…」

それは、とっくに知っていたが…。

悠が入ったのは会社のすぐ裏手にあるコーヒーショップだったが、恐らく誰もがこんなところにコーヒーショップがあったの?と思うに違いない。
一見、ダイニングバーのようにしか見えないから、昼間はやっているのかどうかもよくわからない。

「こんなところにコーヒーショップがあったんですね」
「あぁ、俺の隠れ家だから。うちの会社の連中は、ほとんど来ないよ。だから、安心して逢瀬できる」
「逢瀬って…」

安心しても何もないと思うけど、きっとこの人は今後もここで逢おうという気なのだろう。
それもどうなのか…。

空いていた奥の席に向かい合って座るとすぐにマスターらしき人が、水の入ったグラスを2つ持って来た。
悠に「ホットでいい?」と聞かれて頷くと、「ホット2つですね」と確認したマスターは奥に戻って行った。

「同じ部じゃないから、こうして逢うのも難しいよな」
「いいですよ。会社では逢わなくって」
「彩瑛はそういうこと言うんだ。俺がこんなに想ってるのに」

コップの水を半分くらい飲み干した悠だったが、自分だけが彼女のことを想っているようで、なんとなく腑に落ちない。

「違いますよ、私だって…。さっき、エレベーターを待っている時に考えてました。もしも、同じ部で目の前にずっと悠さんがいたら、ドキドキして仕事にならないなぁって」

はにかむように言う彩瑛に、悠は思わず彼女がグラスを持つ手に自分の手を添えた。
カラカラっと氷が揺れる音がする。
一瞬、彩瑛は手を離そうとしたが、彼はしっかりと握って離さない。

「確かにそうだな。目の前に彩瑛がいたら、仕事どころじゃない。他の男と話をしてるだけでも、ムカムカくるだろうし」

―――え…そっちですか?
まぁ、彩瑛も悠と同じで、他の女性と仲良く話している姿を見ただけでも嫉妬する。
彼は立場上、誰にでも気軽の話し掛けるだろうから。

「今日は、遅くなるんですか?」
「まぁ、9時頃には帰れると思うけど。それって、家で待っててくれるってこと?」
「ダメですか?」
「ううん、大歓迎」

すぐにマスターがコーヒーを持って来ても、悠は手を離そうとしなかった。
見つめ合う二人。
暫しの甘いひと時を過ごすのだった。


END


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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