Actor
甘い夜

R-18

「吉原さんは、特別な女性からチョコレートをもらう予定はあるんでしょうか?」

バレンタインデーにちなんだベルギー王室御用達の有名店で行われたイベントに参加していた大和に向けられた質問。
絶対聞かれると思っていたが、ヤケに多い女性レポーターの目は輝きと鋭さで痛いくらいだった。
節分といい、最近はこういったイベントに参加することの多い大和を、より身近に感じるとファンの好感度は急上昇。
嬉しい反面、プライベートに及ぶ質問をどう上手くかわすかが問題だ。

「さぁ、どうでしょう」

ちらっと奥の隅っこでこっちを見ている未来に、周りに悟られないよう視線を流す。
一瞬、目を泳がせた彼女が可愛くて愛しくて、ここに誰もいなければ即行抱きしめているところだが、それは後のお楽しみに取っておくことにする。

「あなたは?既に特別な方がいるんでしょうか?それとも想いを伝えたい方?その時は是非、このチョコレートを贈って下さい。男はみんな、チョコレートのように甘く溶けてしまうでしょうね」

なんて、クサい台詞だ。
全身がむず痒くなるのをジっと堪えながらもそこはプロ、大和は悩殺スマイルを投げ掛ける。
彼の色恋話を聞き出すはずが、逆にメロメロにされて女性レポーター達もすっかり本業を忘れてしまったらしい。



「いらっしゃいませ」

シークレットイベントとして、店でお客様を出迎えたのは大和だった。
この日のために店の歴史や商品の知識、接客、ラッピング等、店側もびっくり、短時間で全てを習得した彼はやはり只者ではなかったということだろう。
しかし、その大和でさえも時と場合、いや人によって只の人になってしまうこともある。

「未来」
「あら。もしかして私、第一号のお客さん?」

王室御用達だけのことはある、重厚な外観の建物に重々しい扉を開けると、まるで宝石が並ぶようにショーケースの中で綺麗に並んでいるチョコレートを大きな瞳を輝かせて見つめる愛しい彼女。
何で、未来がここに来るんだよ。
マネージャーなんだから、大和の仕事に関して逐一知っているのは当たり前だが、まさか客として店に来るとは思ってもみなかった。

「ねぇ、どれがお勧め?」
「あ?えっと。こちらのバレンタインデー限定、赤いハートを散りばめたビターチョコレートの入ったものなどいかがでしょう」

いけない、今日俺は一日店員だったんだ。
バレンタインデー限定に用意されたスクエアな形のちょっぴりほろ苦いビターチョコレートに散りばめられた赤いハート。
他にはハート型のホワイトチョコレートなど、見た目にも女心をソソられるものが多く、ラッピングもこの時期だけの可愛らしいものが用意されている。

「可愛い。食べるのもったいないわねぇ」
「どなたか、意中の男性がいらっしゃるんですか?」
「いるにはいるんだけど」

けど?ってなんだよ、けどって。
俺のために買いに来たんじゃなかったのかよ。

「じゃあ、お勧めのこれとこれと…」

一体、何個買う気なんだ。
本命は俺だけじゃなかったのか?

「おい、何個買うんだよ」
「米澤さんでしょ。あと社長でしょ。景ちゃんに麗ちゃんに…事務所の子と。お父さんにも。そうだ!!せっかくだから自分にもね」
「あ、そうか…」

って、俺は入ってないのかよ。
肝心な俺の分はないって、どういうことだよ。
俺は未来の彼氏じゃないのか?彼氏はどうでもいいのか?
どこでかぎつけたのか、若い女性客が次々と店内に入って来たため、聞きたいのをグッと堪えてラッピング。

「ありがとうございました」

笑顔で見送ったものの、最悪のバレンタインデーになりそうな予感。
あぁ、俺は特別な女性からはもらえないのかよぉ。

あれから未来は別件があるとかで大和をマンションまで送ることもなく、顔も合わせず仕舞い。
というか、俺のバレンタインデーはどこに行ったんだ。
チョコレートを山のようにもらっていても、本命はその中に入っていないなんて。
トボトボと玄関の扉を開けると明かりが点いていて、見覚えのある黒いヒールが綺麗に揃えてあった。

「未来?」
「お帰りなさ〜い」

何を作っていたのか、いい匂いと共にスリッパをパタパタと音立てて廊下を走って来る未来。
いつもと違って、ピンク色のハートのエプロンがヤケに色っぽい。

「ただいま。って、どうしたんだ?用があるんじゃなかったのか」
「そう言わないと、先に帰って来られないでしょ?」

「お腹すいたでしょ。ご飯できてるから食べよ」口実を作って待っていてくれた未来。
クリスマスにはあんなに豪華なスィートに泊まり、素敵な夜を過ごさせてくれたお礼のつもりだったが、果たして喜んでくれるだろうか?

「うわっ、すっげぇ豪華版だ」

未来は元々料理が得意だったが、ありとあらゆる料理を食べつくしている大和の口に合うかどうか…。

「見た目だけはね」
「そんなことないって、味もバッチリだ」

まだ食べていなくても、見ただけで美味しいに決まってる。
大和は手を洗うために洗面所へ、鏡を見ながら未来との楽しいディナーをそして、その後の夜の楽しみを考えて顔が緩むのを抑えられなかった。

「待って、大和君」

「まだ、デザートが」未来の体を抱きしめるとむさぼるように柔らかで艶やかな唇を奪う。
不意打ちにもがきながらも抗えない、未来だって同じように欲しいと思っているのだろうか?
食事は予想通り、いやそれ以上に美味しかったけれど、未来を前にして二人っきりの誰にも邪魔されないディナーを終えた今、もう我慢なんて言葉は大和の中からすっかり消えてなくなっていた。

「デザートは後でいいよ」
「ダメ。今日はバレンタインデーなのよ?チョコレートを渡さなきゃ」

未来の話を聞きながら、大和は彼女の髪に指を絡ませた。

「愛の告白も一緒に?」

さっき飲んだワインのせいもあるかもしれないが、それ以上に頬を染める未来。
耳元で囁くように言われただけで、体中の血液が逆流しているのではないかと思うほど熱い。

「それは」
「ちゃんと言ってくれないと」

「わかったから、ちょっと待って」未来は大和のために手作りしたチョコレートを冷蔵庫に取りに行く。
有名店のイベントに参加した大和の接客でチョコレートを買ったが、その中に彼への物がなかったのは、どうしても手作りの世界に一つだけのチョコレートを渡したかったから。

「私の手作りだから美味しいかどうかはわからないんだけど。いつもありがとう」

愛の告白はなかったけれど、彼女が手作りしてくれたチョコレート。
お店で買っていたものとは違う、大和のためだけに用意された特別なもの。

「こちらこそ、ありがとう。店で買わなかったのは、作るつもりだったから?」
「大和君にはどうしても手作りしたくって。でも、大和君に包んでもらったって言って渡したみんなは家宝にするって。私も、もったいなから食べずに大事に飾っておくの」

嬉しそうに話す未来、最悪のバレンタインデーになるかと思っていたが、どうだろう。
蓋を開けてみれば、最高のバレンタインデーじゃないか。

「じゃあ行こうか」
「行くって?チョコレート、食べてくれないの?」

「せっかく作ったのに」どこへ行こうとしているのか。

「ベッドで食べさせてもらおうと思って」
「は!?ベッ」

口をパクパクしている未来を軽々と抱えてベッドへ向かう大和。
一人寂しく眠ると思っていたのに今夜は二人。
いや、眠れないかもしれないな。
鼻血出さないようにしないとっ。

ベッド脇の灯りを点すと静かに未来をベッドに横たえ、大和はその上に覆いかぶさった。
唇を合わせながら身に着けているものを巧みに取り去っててしまう技はさすが、と思わずにはいられない。
なんて感心している場合ではないが、服を着ている方が不自然に感じるほど、二人が生まれたままの姿でいることはごく自然なことだった。

「今日はいつもより感じてる?」
「そっ」

「そんなことない」言いたかったのに言葉が出てこない。
程よい大きさの形のいい胸、輪郭を優しく揉みながら硬く立っている先端を指で刺激されると喘ぎ声が漏れた。
暫くの間、胸を弄んでいた大和の手が腰のラインに沿って下りていく。
ヒップを何度か行き来した後、腿の間に手を滑り込ませ茂みの中へ、中心は熱く濡れて心底大和を喜ばせた。

「あっ、ダメ」

言葉とは裏腹に上半身を弓なりに仰け反らせる。
早く来て欲しいと思ってしまう、そんな未来を焦らすように大和は優しく口づけるとそのまま首筋を這って膨らみへ。
先端を口に含むと舌先を転がす、未来は限界に達していた。
大和はいつも入れてあるサイドテーブルの引き出しを開け、避妊具を取り出すと素早く未来の中へ。

「あっ」

腰に腕を回し、繋がったまま一気に未来を抱き上げた。
うめき声に似た声と共に彼女は大和の首に手を回して抱きつく。
ただでさえ敏感になっていたというのに彼を奥まで感じて、ほんのちょっとでも動こうものならすぐにでもゴールに達してしまうだろう。

「未来、まだ行っちゃダメだ。チョコレート食べさせて」
「むっ、無理。この体勢じゃ、あっ…」

少しの振動でも熱い中心が刺激されて、喘ぎ声が漏れてしまう。
なのにチョコレートを食べさせてなんて…。

「ほら、早く」

我慢できない大和は未来の腰を上下させる。

「やっ、ダメっ」

寄り掛かってしがみつく未来に変わり、大和はチョコレートの包みを解いて箱を開けると中には生チョコが入っていた。

「食べさせて」
「だめぇ…」
「こらっ、早く」

裸で抱き合ってチョコレートを食べさせるなんて、なんてエロいんだろう。
今日がバレンタインデーでなければ絶対やらないが、今は応じなければ納得しないに決まってる。

「わっ、わかったから。じっとしてて」

やっとの思いで箱から一つ取り出すと彼の口に放り込む。

「美味しい?」
「絶品だ」

満足げに微笑むと大和は未来をベッドに押し倒し唇を重ね、ほんのり甘いチョコレートが広がった。
そして、最奥へと突き進む。
熱と共に二人は何度も溶け合い、身も心も最高の夜を迎えたのだった。


END


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福助

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