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LA GRANDE DAME


「礼」
「うん?どうした」

考え込むような伊万里の表情に、礼は少し不安になった。
もしかして自分のことを本当は好きではないんじゃないか、身近な相手だからこそ断れなかったんじゃないかと。

「あのね」
「うん」

そんな礼の気持ちを察してなのか、伊万里は何かを言おうとしているが、なかなか先に進まない。
礼は、辛抱強く黙って彼女の言葉を待った。

「私…礼のこと好きで好きで、どうしていいかわからないくらい好きなの」
「え?」

そう恥ずかしそうに言う伊万里が可愛くて、そして愛しくて、礼は思いっきり彼女を抱きしめた。
何を言われるのかと思えば、こんな愛の囁きをされるなんて…。
嬉し過ぎて言葉など出てこない。

「礼?」

自分の肩越しに顔を埋めたまま、動かない礼に伊万里は声を掛ける。

「今俺が、どれだけ幸せかわかる?」

顔を上げた礼がにっこり笑って、そして。

「伊万里が側にいてくれて、俺は世界中で一番幸せだよ」

好きとか愛してるという言葉だけでは表現できないくらい嬉しくて、それを伊万里はわかってくれるだろうか。

「私も礼の側にいられて、世界中で一番幸せ」

男勝りであまりこういうことを口にしない伊万里だったが、今回だけはどうしようもなかった。
自分の気持ちを持て余すくらい礼のことを好きになっていく自分。
今までずっと一緒だったのに、一度繋がってしまうとこんなにも素直に心の中を言葉に表せるものなのか。
自然に重なる啄ばむような口づけが、段々と深いものに変わっていく。
もう礼には、抑えることなど不可能だった。

「伊万里、今すぐここで押し倒したい」
「はぁ?ちょっと待ってよ。こっ、ここで?」

礼のハートに火を点けたのは自分だが、さすがにここはまずい。
―――だって、ここ会社の社長室なのよ?
いくら誰も入ってこないって言っても、こればかりはハイそうですかとはOKできないのだから。

「社長室だけど?」

しれっと言う礼に呆れて返す言葉もない。

「そうじゃなくって、もうっ仕事してよ」
「仕事より大事なことだから」

押し倒すことが仕事より大事だというのか…。
こともあろうに社長がこれでは、社員も可愛そう…。

「嫌っ、絶対嫌だからね」
「とか言いながら、既にここは感じてるみたいだけど」

いつの間にか礼の手は伊万里のスカートを捲って、ストッキングとショーツの中の秘部に触れていた。
最近は、礼に言われてスカートを着ることが多い。
もしかして、こういうことを想定して言っていたのでは…礼の考えそうなことだ。

「礼が触るからでしょっ」
「俺だから感じるんだろう?」

意地悪くそれでいて嬉しそうに言う礼に「だから何なの?」と半ば開き直りとも取れる言葉を発した伊万里だったが、あまり効果はない。

「そういう言い方やめてよ」

もう、伊万里が何を言っても礼は喜ぶだけ。

「伊万里が、可愛いこと言うからいけないんだよ」
「やぁっあぁぁ…んっ…」

伊万里…伊万里…。

-***-

「礼、礼ったら、どうしたの?」
「ううっ…ん?!」

心配そうに見つめる伊万里。

『あれ?俺は、社長室で伊万里のことを…』

「大丈夫?随分うなされてたみたいだけど、何か嫌な夢でも見たの?」
「夢?」

『そうか…あれは、夢だったのか…。どおりで伊万里は、大胆なわけだ…でも、いいところだったのになぁ…』

「伊万里が悪いんだぞ?夢の中で、あんなこと言うから」
「やっ、何?」

勢いよく伊万里を押し倒すと夢の続きを味わう。

『俺の方こそ…伊万里のことが好きで好きで、どうしていいかわからないくらい好きなんだ』

そう、心の中で囁きながら。


END


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