ASPHALT☆LADY
SPECIAL STORY
「遼哉、これ処理頼むわ」
「え?あっ、あぁ…」
浩介が遼哉に書類を持って行ったのだが、何かボーっとしている様子。
遼哉のこと、どうせ憂と喧嘩でもしたのだろうと放っておいたのだが、なかなか元に戻る気配がない。
このままの調子で前みたいな失態を犯した日には、大変なことになる。
世話の焼けるやつだなぁと思いながらもやっぱり親友のことが心配な浩介は、遼哉を飲みに誘ったのだった。
行きつけの店で、いつものように大ジョッキを頼む。
喉が渇きまくっていた浩介は一気に飲み干してしまったが、遼哉はほんのひと口飲んだだけでテーブルの上に置いてしまった。
「おい、遼哉。なんだよ、その覇気のなさは。俺まで、その暗さが移るだろうが」
「そんなこと、言われても…」
遼哉自身にもどうしていいのかわからないのだから、浩介に怒られても返す言葉が見つからない。
はぁ…。
「ここで溜め息を吐くのはやめてくれ、せっかくの酒が不味くなる。で、何なんだ?その原因は。とうとう憂ちゃんに愛想尽かされたのか?」
即行、「そんなわけ、ないだろう」という返事が返ってくるとばかり思っていたのだが、無言の遼哉に浩介のジョッキを持つ手が止まる。
「そうか…ふううん。かわいそうになぁ」
意味深な浩介に嫌な予感が走る。
―――『かわいそうにな』って、ちっともそんなふうに思っているようには見えないんだよ。
ヤケになった遼哉は、一気にジョッキを飲みした。
「それにしてもどうしてまた、憂ちゃんに愛想尽かされたんだ?あんなに遼哉のことを想ってたのに」
色々なことがあって、やっと想いが通じ合ったというのに…。
それでも相変わらず会社ではあの調子だったが、二人でいる時は相当な甘々だと聞いている。
なのにどうして、愛想を尽かされたんだ?
「実はさ、高校時代からの親友とちょっと…」
高校時代からの親友、中本 真(なかもと まこと)と少し前に憂と待ち合わせをしていた時にバッタリ会ってから、たまに飲みに行くようになった。
その時、彼女のいなかった真とつい酔った勢いでキャバクラに行ってしまったのだ。
別にキャバクラ嬢とどうこうなったわけでもないし、単に話してちょっとお酒を飲んだくらいだから、憂に知られさえしなければ済むはずだったのだが…。
嘘はつけないということで、そういう日に限って彼女が家に来ていたりするわけだ。
思いっきり香水の残り香と、トドメのワイシャツの襟元に口紅の跡とくれば、彼女なら誰だって怒るのは当たり前。
「はぁ?お前、憂ちゃんという可愛い彼女がいながら、キャバクラに行ったのか?」
「しょうがないだろう。誘われて、断れなかったんだから」
「俺は、憂ちゃんに同情するね。いくら親友に誘われたからって、普通はそんな場所に行かないだろうが」
どう弁解しても悪いのは遼哉だから、それ以上は言い返せなかった。
―――それより、どうしたら許してくれるかだよなぁ…。
「憂ちゃんが怒るのは無理ないとしても、理由を言えば許してもらえそうなもんだけど」
親友に誘われて断れなかったのだときちんと話せば、いくら憂だってそこまで怒ることはないのでは?
「それが…俺も酔ってたし、ついカッとなって言い返したんだ。俺がどこに行こうと勝手だろ、憂にとやかく言われる筋合いはないってな」
あんなことを言うつもりは毛頭なかったが、憂に責められてついカッとなって言い返してしまったのだ。
その後は、会社でのバトルなんてもんじゃないくらいの大喧嘩。
結局、『キャバクラ嬢と楽しくやってればいいじゃないっ。遼哉なんて、大嫌いっ!』と憂は部屋を出て行ってしまい、電話もメールも着信拒否されて謝ることも出来ない状態、さすがの遼哉もお手上げだった。
「馬鹿だな」
「馬鹿、言うなって」
―――わかってるんだから、いちいち言うなっつうの…。
「いつも思うんだけど、なんでそうなんだ?せっかく想いが通じたのに。そんなことで別れるようなことになったら、どうするんだよ」
これじゃぁ、想いが通じる前と同じじゃないか…とは浩介の意見だったが、彼女の前だからこそなんだと思う。
それに彼女だって、本気で別れようとは考えていないだろうから…、
「どうしよう…浩介」
「あ…知らねぇよ。そんなこと」
「冷たいなぁ、親友だろう?」
「俺より、高校時代の親友に言えよ。そいつが、ことの発端なんだから」
浩介が間に入ったところで余計にこじれそうだったから、話は聞くが手を貸すようなことはするつものはない。
喧嘩の度にいちいちこれでは、先が思いやられるから。
近くを通りかかった店員に浩介はジョッキの生を2つ追加すると、「何もしてやれないけど、とにかく飲もう」その言葉だけで遼哉は十分だった。
+++
―――遼哉にひどいこと言っちゃったな。
帰りの電車の中で、憂は遼哉に言った言葉を思い出して溜め息を吐く。
男なんだから、たまにはそういうお店にも行くわよ。
寛大な彼女ならそう思うのかもしれないが、憂には無理だった。
自分だけを見ていて欲しい。
それって、我がままなのかな?
「永峰さん」
「あっ、中本さん」
以前にもこうやって電車の中で偶然会ったことがあり、それを遼哉に見られていて後で誤解を招くことになったのだった。
「どうしたんだい?溜め息なんて吐いて」
「いえ、なんでも―――」
「遼哉と何かあった?」
そのひと言で表情が一変した憂に、図星だったと真は理解する。
―――もしかして…。
「永峰さん、ちょっと話したいことがあるんだけど。少しだけ、いいかな」
「ちょっ、中本さんっ」
そう言うのと同時に駅で停車した電車のドアが開くと、真は憂の腕を掴んでホームへと降りた。
「ごめんね。でも、どうしても話しておきたくて」
真は、そのまま近くのベンチまで行くと腰を下ろす。
憂も真の隣に座る。
「話って?」
「あのさ、この前なんだけど。遼哉と飲んで、無理矢理キャバクラに誘ったの俺なんだ」
「え?」
―――そう言えば、カッとなって誰と行ったのかは聞いていなかったかも。
でも、中本さんだったのね。
なんだか、意外かも。
「もしかして、それで喧嘩したとか?」
「当たりです」
「やっぱり…遼哉は、絶対行かないって言うのに俺が無理矢理に連れて行ったんだよ。酔ってたし、永峰さんみたいな可愛い彼女がいる遼哉が羨ましくてさ」
彼女のいない真にしてみれば、憂みたいな可愛い彼女がいる遼哉が羨ましくて、1人じゃいけないしとついキャバクラに誘ってしまったのだ。
「そうだったんですか」
「あいつ、俺と行ったこと言ってなかったの?」
「聞く前に大喧嘩になっちゃって」
「そっかぁ、悪いことしたな」
本当に申し訳なさそうな真を見て、余計に自分が言ってしまった言葉が心に突き刺さる。
「あたしこそ、遼哉にひどいこと言って…」
「全部、俺がいけないんだ。遼哉には、俺からきちんと謝るから」
「中本さんが、悪いわけじゃ」
―――中本さんだけが、悪いわけじゃない。
あたしだって、前に遼哉に内緒で中本さんと食事をしていたことを黙ってたし…。
きちんと話を聞こうとしなかったあたしも悪いの…。
「ううん。俺があんなところに連れて行かなければ、二人が喧嘩をすることはなかったわけだし」
「遼哉には、あたしから謝ります」
「永峰さん」
「お話聞いて、良かったです」
さっきまでの暗い顔とは打って変わって、明るい表情の憂に少しだけホッとする真。
しかし、自分の軽はずみな行動で迷惑を掛けてしまったことには変わりない。
―――後で、謝っておかなければ…。
ホームに滑り込んで来た電車に二人は乗り込むと、憂は自分の降りる駅ではなく遼哉の住む駅で降りたのだった。
◇
部屋に電気は点いていない。
遼哉はまだ、帰宅していないようだった。
合鍵は持っていたが、それを使って入ってはいけないような気がして憂は部屋の前で待っていた。
「憂、どうしたんだ?そんなところで」
どれくらい待っていただろうか?
足音が聞こえて振り向くと、ずっと待っていた愛しい彼だった。
「ごめんね、こんな時間に。どうしても、遼哉に謝りたくて待ってたの」
「合鍵、渡してただろう?なんで使わなかったんだ」
すっかり冷たくなっている憂の手を、遼哉の大きな手が優しく包み込む。
「部屋の中で待ってるなんて、できなかったから」
喧嘩中なのに部屋で待っていることなど、憂にはできなかったのだろう。
そういうところが、彼女らしいのかもしれない。
「すぐ、コーヒーを入れるよ」
「ううん、先に謝りたいから。ごめんね、あんなひどいこと言って」
憂はソファーにも座らず、コーヒーを入れようとした遼哉を制した。
「俺の方こそ、軽率だった。ごめんな」
遼哉は憂の肩に手を掛けて、ソファーに座らせる。
「電車の中で、中本さんに会ったの。溜め息を吐いてたあたしを見て、遼哉と何かあった?ってバレちゃった」
「そっか」
―――あいつ、そういうところは鋭いんだよな。
ということは、キャバクラに行ったことも話したんだな。
「中本さん、俺が無理矢理に誘ったんだって。『全部、俺がいけないんだ。遼哉には、俺からきちんと謝るから』って言ってくれたんだけど、そういうことちゃんと聞かないで勝手に怒ってひどいことを言ったのはあたしの方だから」
「もう、いいんだ。一番悪いのは、やっぱり俺だから、。誘われても、行かなければよかったんだ」
「遼哉…」
「別れるって言われたら、どうしようって思った。俺、憂なしではダメだから…」
「あたしだって、そう。遼哉がいなきゃ、生きていけないもの」
「憂…」
憂の方から、そっと遼哉にくちづける。
それはとても柔らかで、気持ちいい。
遼哉は暫くの間、目を瞑ったまま憂の唇を味わっていたが、今度はお返しとばかりに彼女の後頭部を手でしっかりと押さえて唇を重ねる。
息もできないほど情熱的で、それだけで体の奥が熱くなって溶けてしまいそう。
「…っ…ん…りょ…や…っ…」
「憂、ベット行こうか」
彼女を抱き上げると寝室へと連れて行く。
その間も、遼哉のくちづけは続いたまま。
お互い一刻も早く繋がりたくて、身に纏っていたものを全て取り去って生まれたままの姿で抱き合う。
「…りょ…や…あぁっ…っん…っ…」
「…憂っ…早く…入りたい…」
キスだけでも感じていた憂の中は、もうすっかり遼哉を受けれる体制が整っていた。
もちろん、遼哉も同じ。
「入れるよ、憂」
急いで準備をして、憂の中を味わうようにゆっくりと挿入する。
「…ん…っあぁぁ…っ…っ…」
「…っ憂…っ…」
憂の腰を掴んでそのまま一気に自分の方へ抱き上げて、向かい合う格好になる。
遼哉は、正常位よりも対面座位が好き。
お互いの顔がよく見えるし、なにより密着できるから。
「…っぁあっ…っん…んっ…ダ…メ…イ…くぅ…っ…」
「…一緒…に…っ…」
「…っあっぁぁぁぁっ…っ…っ…」
ほぼ、同時にイった二人は暫くの間繋がったまま動くことができなかった。
◇
「ねぇ、遼哉」
「ん?」
寄り添うようにして、ヘッドボードに寄りかかっていると思い出したように憂が遼哉に問いかける。
「キャバクラ嬢って、可愛かった?」
「あ?なんで、そんなこと」
「一応、聞いておきたいじゃない。彼女としては」
「見る人が見れば、可愛いんじゃないか?でも、俺には憂しか目に入らないから」
そういう答えが返ってくることはわかっていたが、敢えて聞いてみたのである。
憂は嬉しそうに遼哉の首に腕を回すと、耳元で「遼哉が好き」と囁くように言う。
遼哉もまた彼女がそうしてくれることをわかって言ったことは、この際内緒にしておこう。
「俺も憂が好き」
ほんのり頬を染めた彼女の額にくちづけを落とすと、夜が更けるまでいつまでも寄り添っていた。
To be continued...
← お話を気に入っていただけましたら、ポちっと押していただけるともしかして…。
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※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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