ASPHALT☆LADY
Wedding dress
「憂って、篠島くんとは結婚の話なんて、したりしないわけ?」
「え?けっ、結婚?!」
愛香(まなか)に結婚という言葉を切り出されて、変に動揺してしまう憂。
そりゃあ、この年齢で付き合っている彼とならそういうことも考えないわけじゃないし、できることならそうなって欲しいと思うけど…。
入社以来5年が過ぎても恋人になってからはそれほど長い月日が経っていたわけじゃないし、今はまだ成り行きに任せるしかない。
ただ、自分からそれを強く出し過ぎて、相手が負担に感じたりするのが一番嫌だったから。
「何、動揺してるのよ。えっ、もしかして、もうそういう話になってるわけ?」
「やだぁ、あたしに内緒にしてぇ」と、勝手に自己完結している愛香。
―――人の話をちゃんと聞きなさいって。
と思っても、彼女は聞く耳を持たない様子。
全然、そんなことないのに…。
憂は、自分で家から持って来たインスタントのカフェオレをマイカップに入れる。
遼哉の家に泊まると決まって、目覚めと共に入れてくれるカフェオレがとても美味しくて、あんなふうに毎朝を迎えられたらどんなにいいだろう。
ふと手元にあるカップに目を向けると妙に寂しく感じたりして…。
あたしだけ、なんだろうか…遼哉は…。
休憩にと席を離れて愛香と一緒に給湯室に来た憂だったが、なんだか余計に落ち込まされに来たみたいだ。
「勝手に言わないでよ。まだまだ、あたしは永峰のままだから」
「でもさ、憂のウエディングドレス姿を見たいのは篠島くんだけで、会社にいる男性達は絶〜対見たくないと思うのよね」
「はぁ?そんなわけないでしょ」
―――だいたい、遼哉だってあたしのウエディングドレス姿なんて見たくないかもしれないのに…。
+++
「奈々ちゃん、何見てるの?」
定時後の休憩時間、奈々が席で何やら真剣な表情で見つめている。
「あっ、憂さん。これ、ウエディングドレスのカタログなんですけどね。どれがいいと思いますか?」
「えっ、ウエディングドレスって…」
「淡いピンクも可愛いんですけど、やっぱり花嫁さんは純白ですよね」なんて…。
―――奈々ちゃん、結婚?!
いつの間にそんな話になってたの?
可愛いし、彼氏も当然いるだろうし、早いうちにやっぱり男は自分のモノにしておきたいわよね。
さっきの愛香といい、今日はやたらにそういう話題に触れているような気がする。
「もうっ、違いますって。お友達が結婚するんで、見せてもらったんですよ」
「私はまだまだ、結婚なんて先の話です」と強く否定しているあたり、本当なんだろう。
でも、女性なら誰もが一度は憧れるもの。
彼女もそんな目で見つめていたのがよくわかる。
「そうなの?でも、良かった。今、奈々ちゃんに辞められたら困るもの」
「憂さんこそ、もうすぐなんじゃないですか?」
「あたし?あ〜まだまだ」
憂は、顔の前で手を左右に振ってはみたものの…。
―――みんな、そんなふうにあたし達のことを見てるんだ。
それって、結構プレッシャーかも。
これで別れたりした日には、どうなるのかしら。
「え〜そうなんですか?でも、きっともうすぐですよ。えっと、憂さんにはこういう感じのシンプルなものが似合いそうですね」
奈々の指差すドレスは、何も飾りの付いていないシンプルなドレス。
だけど、世界で一番幸せな女性が纏えばどんなドレスにも叶わないくらい美しいに違いない。
「何が、似合いそうなんだ?」
―――げっ、その声は…。
二人が振り返る間もなく覗き込んできたのは、憂のよ〜く知っている男性。
何で、遼哉!!
よりによって、こんな時に。
「あっ、篠島さん」
「わぁぁぁっ」
慌てて奈々の見ていたカタログの上に、その辺にあったファイルをぶちまけた。
これじゃあ、まるで憂が結婚を促しているように思われてしまう。
一瞬、キマヅイ空気が流れたような気がしたのは憂だけだったのか…。
「何だよ、変な声出して。で?真崎さん、それ何?」
憂の気持ちなどお構いナシに、遼哉はファイルの山に埋もれたカタログを取り出した。
…ん?ウエディングドレス。
真崎さんが結婚するのか?と思ったが、「友達が結婚するんで、将来の参考にしようと思って借りたんです」と彼女が説明してくれた。
恐らく、そこへ憂も覗きに来たのだろうが、この反応はどういうことなんだろうか?
付き合っていれば、少なからず考えることではあるけれど、なかなか口に出すというのは難しいことでもある。
愛しい彼女のウエディングドレス姿を想像しなかったわけじゃない。
このドレスを着て俺の隣に立つのは彼女しかありえないし、彼女の隣に立つのは自分。
お互いに仕事がおもしろくなってきている時というのもあるが、そろそろ将来の話をしてもいい時期にきているのかもしれない。
「真崎さん、これ借りてもいいかな」
「はい。友達はもう決めちゃいましたから。私も一人で見てると虚しくなってくるので」
「どうぞ」と奈々は、そのカタログを遼哉に手渡した。
そして、ペラペラとページを捲る。
「ウエディングドレスってさぁ。もっとこう、ミニスカで胸元が大きく開いたのってないのか?」
「はっ?そんなのあるわけないでしょっ」
―――ったく、エロ遼哉。
奈々ちゃん、笑ってないでよぉ。
普段はスカしてるけど、実際はこういう男なんだからね?
「じゃあ、今夜はゆっくり将来のことを考えるってことで、俺達は帰るとするか」
「永峰には、どれが似合いそうかな」なんて、それってもしかして、もしかする?!
「篠島?」
「ほら、帰ろうぜ」
「うん」
―――ウエディングドレスも魅力的なんだけど、実は白無垢も捨てがたいのよ。
あぁ〜どっちがいいかなぁ。
いつになるかわからないのに、その気になっている憂。
そんな二人の後姿を羨ましそうに見つめる奈々だった。
END
← お話を気に入っていただけましたら、ポちっと押していただけるともしかして…。
続きが読みた〜い、良かったよ!と思われた方、よろしければポチっとお願いします。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
誤字が多く、お見苦しい点お詫び申し上げます。お気付きの際はお手数ですが、下記ボタンよりご報告いただければ幸いです。
NEXT
BACK
INDEX
PERANENT ROOM
TOP
Copyright(c)2006-2013 Jun Asahina,All rights reserved.