「何、作ってるんだ?」
「うん、ビーフストロガノフ。遼哉、大好きでしょ?」
あたしが、キッチンで遼哉の大好きなビーフストロガノフを作っていると彼が背後から腰を抱くようにして抱きしめる。
彼は会社と全然違って、二人で一緒にいる時はこんなふうにくっついていることが多い。
でも、正直困ったりもする。
「もう少しでできるから、待ってて?」
「ヤダ」
―――ヤダって、子供じゃないんだから…。
「ねぇ、遼哉。あたしは、意地悪で言ってるんじゃないの。このままじゃ、作れないでしょ?」
「少しは、俺の相手をしてくれてもいいだろ?」
「相手って、ちゃんとしてるじゃない」
そうよ、あたしはちゃんと遼哉の相手はしてるのよ?
休みの日は友達との約束だって断ってこうやって彼の家に来ているし、この前なんて愛香と出掛けるって言っただけで拗ねちゃったからね。
それに夜だって…。
なのにまだ、足りないって言うの?
「足りない」
「はぁ?」
あたしは、手を止めると腰にあった遼哉の腕を解いて、彼と向かい合わせになる。
「足りないって、どういうこと?」
遼哉は、無言であたしの頬に両手を添える。
「憂とは、週末しかゆっくり会えないだろう?会社で顔を合わせることもあるけどさ。でも、こうやって触れられるのは、今だけ。憂にもっと触れていたい。憂をもっともっと感じたいんだ」
「遼哉…」
あたしは、遼哉の想いに答えるように腕を首に絡ませるとくちづけた。
どんなにくちづけても触れあっても、足りないって思ってしまうのはなぜだろう?
「遼哉が好き」
「俺も憂が好きだよ」
再びくちづけると止めることはできなかった。
これじゃぁ、大好きなビーフストロガノフをいただくのは、もう少し先になっちゃうわね。
でもね、きっと彼のことだから、『ビーフストロガノフよりも、憂が好き』って言うと思うんだけど…。
「…っん…遼哉…大好きなビーフストロガノフは?」
「ビーフストロガノフよりも、憂が好き」
あぁ、やっぱりね。
遼哉にとっての一番は、『あ・た・し』
これって、自惚れすぎ?
END
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