素直になれなくて
SPECIAL STORY

R-18

「エリのご両親って、どんな人なんだ?」

エリが通信事業部への異動を承諾し、これから住む所なども探さなければならないが、まずその前に大事なことを済ませなければならなかった。

「えっと、普通じゃない?」
「普通じゃ、わかんないんだよ」

一士は、結婚の承諾を得るためにエリの両親に挨拶に行かなければならない。
自分の方は既に両親に話してあって、特に父親の第一声が『お前もやっとか…良かったな』だったことが、普段口には出さずともやはり心配させていたのだなと思った。
―――でも…娘を持つ親は違うよな?
はぁ…。
それに週末婚なんて、受け入れてくれるのだろうか?
結婚する夫婦が一緒に住まないなんて!とか、怒鳴られたりしないだろうか…。

「どうしたのよ。暗い顔して」

考え込むような一士の顔をエリは両手で挟むようにして、上を向かせる。
週末の短い時間を惜しむように会っていた二人は、どこかに出掛けるというよりは部屋で一緒にいる方が多かった。

「いや、エリの親父さんに色々言われないかなって、シミュレーションしてた」
「何?それ」
「まず、一つ目。同じ職場に勤めてて、俺はエリの上司なわけだろ?たぶらかしたのか、とか言われそう」

―――え…。
今時、同じ職場で付き合ったからってたぶらかすなんて言う人いるかしら?
まぁ、一士は上司だからね。
そう思われることもあるかもしれないけど、うちの親はそんなこと言わないと思うんだけどな。

「二つ目は?」
「式も挙げずに籍だけ入れること。『週末婚とは、何事だ!』ってな」

―――確かにね、親の世代で入籍だけってちょっと納得できないかも。
でも、結婚するのは二人なわけだし、式は落ち着いたらきちんと挙げればいいんだもの。
今、無理にすることもないわよ。

「そんなに深く考えることもないと思うんだけど。一応、お母さんには話してあるし」
「わからないだろう?大事な一人娘なんだから」

大事な一人娘を嫁に出すとなれば、親の思いは複雑に違いない。
普段はそんな素振りを見せなくても、実際どうなるかわからないんだから。

「もうっ、しっかりしてよ。課長でしょ?」
「この場合、課長っていうのはあんまり関係ないと思うが」
「関係あるわよ。この歳で課長なんて、うちの会社ではそういないんだし、親もすごい人なんだって言ってたもの」

それなりに努力はしてきたが、運もかなりあったと思う。
だから、一士としてはすごい人と言われても逆に困ってしまうのだが…。

「私が選んだ人なんだから、間違いないのっ。わかった?」
「あぁ、そうだな。素直じゃないエリが、俺を選んでくれたんだもんな」

一士はエリを抱き寄せるとしっかりと目を見つめた後、唇を重ねた。
もう何度もしているはずなのに未だにドキドキするのは、なぜなのか?

「…っ…ぁん…っ…か…ず…しっ…っ…」
「…エリ」

唇を塞いだまま、一士はエリをソファーに押し倒す。
本来なら結婚すれば、いつでもこうやって体を合わせられるはず。
自ら選んだ末のこととはいえ、複雑な思いに変わりない。

「…や…っん…ぁっ…」
「刻み込んでやるよ俺が…どれだけ想っているか…」

舌を絡め、息もできないくらいの貪るようなくちづけに怖ささえ感じてしまう。
それでもエリは、彼の想いを全身で受け止めたかった。
カットソーを一気に胸の上まで捲られて、ブラのホックも外される。
露になった二つの膨らみを一士の大きな手が覆い、ツンと上を向いたピンク色の蕾を指の腹で刺激されるとエリの体中に電流が流れた。

「…んっ…あぁ…っ…ぁ…っ…」
「もっと感じて、俺を」
「…やっ…ん…そ…ん…なっ…変に…なっ…ちゃ…っ…」
「いいよ。変になって」

蕾を甘噛みされて、舌で転がされて…。
―――やぁっ、そんなにしたら…っ…。
胸元には、一士のモノだという印の薔薇の花が咲き乱れていた。

エリは、デニムのパンツをショーツごと引き抜かれて、秘部に生暖かいものが触れる。

「…っぁあぁ…っ…っ…ん…っ…」

内壁を指で掻き回され、フリーズ寸前。

「…っ…んぁっ…イ…くぅ…っ…」
「イって、いいよ」

エリがイったのは、そのすぐ後だった。
一士は、ぐったりとした彼女を抱き上げるとベットへと運ぶ。
既にズボンの中で、はち切れんばかりに主張していた自身に準備を施すと、まだ荒い息のエリの中に入ってくる。

「…っ…っ…あぁぁぁっ…んっ…っ…」
「…エリ…っ…そんなに締め付けるな…っ…」
「…っ…そんな…こ…と…っ…んっ…ぁっ…」

いつになく締め付けの強いエリに、一士もすぐにでもイってしまいそうだったが、かろうじてそれを耐える。
男の意地というものなのか…。

「…だ…めぇっ…イ…く…っ…」

ただでさえ一度イっていたエリは、最奥まで突かれて半分意識が飛んでいた。

「エリっ…愛してる…っ…」
「…わ…た…し…もっ…っ…っ…ん…あぁぁっ…っ…」

エリの後を追うようにして、一士も果てた。



「ねぇ」
「ん?」

あれから、何ラウンドいったのか…。
二人生まれたままの姿で直に肌と肌を触れ合わせ、ベットでまどろんだいた。

「一士って、弟さんがいるのよね?」
「あぁ、2歳年下のな。なのにあいつ、結婚が早かったから3歳の子供もいるんだ」

一士は男二人兄弟の長男で2歳年下の弟がいるが、今のエリと同じ歳で結婚して3歳になる男の子が一人いた。

「ってことは、一士は長男なのよね…」

彼は一人娘のエリをもらうことで父親のことばかり心配していたが、本当は長男の嫁になるエリの方が大変だったのだ。

「俺は長男だけど、両親は同居を望んでいないんだ。っていうか、田舎暮らしするって弟家族を残して自分達で勝手に家を出て行ったんだから」

会社を早期退職した父は最近田舎暮らしをすると言って弟家族を残して家を出て行き、なんでも、自分で育てた野菜を使った料理を出したいとレストランを開いてしまったのだ。

「でも…」
「大丈夫だって、言ったろ?今度、親父が料理を食べに来いってさ」
「うん」

大丈夫と一士が言うのだから、大丈夫なのだろう。
もう、なるようにしかならないんだから。

「それよりさ、エリって兄貴がいるんだろ?歳はいくつなんだ?」
「1つ年上の26歳」
「はぁ?26かぁ?!」

エリには年子の兄がいるが、まだ結婚はしていない。
彼女はいるという噂は、聞いているが…。

「俺より、4つも年下なのかぁ」
「そうなるわね」
「そうなるわねって、暢気な。4つも年下の兄って、どうなんだよ」
「いいじゃない、そんなの義理なんだから。それを言ったら、私は一士の弟よりも年下のお姉さんになるのよ?世の中、普通でしょ」

普通かどうかはさておいて、確かにエリは弟よりも3歳下になる。
しかし、一士はいいとしても相手が…。
妹が自分より4つも年上の男を連れて来たら、どう思うよ。
シスコンだったりしたら、最悪だろうが…。

「エリと兄貴って、仲いい?」
「仲がいいと言えば、いいかな。たまにメールとか、するし」
「メール…」

―――俺には姉貴や妹がいないからわからないが、メールのやり取りとかするのか?
たまに弟からメールが来ることはあるが、何か用がある時だけ。
実は、エリの父親よりも兄の方が手強いかもしれない…そんな不安が過る一士だった。

+++

あれから数日して、一士はエリの両親に挨拶に行くことになった。
人前で話をするよりも、数倍緊張する。

「一士、大丈夫?」
「大丈夫…じゃないかな」
「いつもの堂々とした一士でいれば、平気よ」

男なら遅かれ早かれ、通らなければならない試練。
弟だって、自分よりずっと若い年齢で同じことをしたはずなのだ。
―――30にもなってこれでは、どうするんだよ…。

「今更、どうしようもないもんな」

二人は一士の運転する車でエリの実家へ向かったが、彼女の家はそれ程遠くないところにあったから、1時間ほどで到着した。
閑静な住宅街にある、クリーム色の壁が印象的な南プロヴァンス風の洋風住宅。
門を入って玄関のブザーを押すと、一士に緊張が走る。

「まぁ、いらっしゃい。待ってたのよ」

待ってましたとばかりに出てきたのはエリの母親で、びっくりするくらいそっくりだった。
なにより、一士の母親よりも数段若い。

「初めまして、東郷です」
「こちらこそ、エリの母親です。さぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして、中へ入って下さい」

母親は、嬉しそうに言う。
―――兄貴は、いないのか?
今は、両親よりも兄の方が気になってしまう。

廊下を抜けてリビングと続いている和室に案内されると、そこには父親が立って待っていた。
背が高く、優しそうな感じでオバサマ方にモテそうというのは、一士の感想。

「初めまして、東郷 一士です」
「君が一士君、待ってたんだよ。いやぁ、いい男だな。さすがエリ、目が高い」

はっはっは―――。
なんとも拍子抜けしてしまうような、父親の迎えぶり。
『一人娘を嫁にやるんだから、覚悟はできているんだろうな』くらい言われると思っていたが、どうもそんな雰囲気ではなさそうだ。

「あの、本日はエリさんと―――」
「母さん、酒」
「はい、今すぐ持ってきます」

「―――の結婚の承諾をいただきたく、お伺い致しました」と言おうとしたのだが、それどころではなくすっかり宴会モードに入っている父。

「あの…」
「一士君。二人が決めたことなら、私たちは幸せを願うだけだから。当分、離れ離れの生活になるけど、あまり一緒に居過ぎるよりもいいんじゃないのかな」
「はい。エリさんを必ず、幸せにします」

黙って何度も頷く父に一士は、娘への思いを感じずにはいられなかった。
その後は車で来たからと断ったのだが、泊っていけばいいとこれでもかというくらいお酒を飲まされた。
―――あれ?兄貴は?
エリの話では、兄も来ると言っていたのに未だに姿が現れない。

「エリ、お兄さんは?」
「そう言えば、来ないわね。都合が悪くなったのかしら?」

兄もエリ同様、家を出ていて一人暮らしをしていたのだが、今日は必ず行くからと言っていたはずなのに。
―――おいおい、来ないってことは妹の結婚は許さないという意味じゃないんだろうなぁ…。
父親はクリアしたものの、兄がネックになろうとは。

「いいわよ、兄貴なんて」
「そうはいかないだろう。お兄さんにもきちんと挨拶しないと」

そんな話をしていると、玄関で誰かが来た気配が…。

「あっ、兄貴が来たみたい」

エリが迎えに出た後に続いて一士も行くと、そこにいた男性はもちろんエリにも似ていたが、どちらかというと父親似。

「遅くなって、ごめん。電車が事故とかいって止まってさ」
「だったら、電話くらいくれればいいのに」
「こういう時に限って、電池が切れたりするものさ」

―――なんだ、そういうことか…。
シャープな印象だが、思ったよりも気さくに感じられる。

「こちらが、東郷さん?」
「そう、私の結婚相手の東郷 一士さん」
「初めまして、東郷です」
「エリの兄の蓮(れん)です」

彼は、丁寧に頭を下げた。
まだ若いのに一士の弟よりも、しっかりしていて落ち着いている。

「あらあら、みんなでこんなところで――― 蓮も早く入りなさい。お父さんが待ってるわ」
「げっ…親父?また、なんか小言か?」

どうやら、蓮は父が苦手のよう。
渋々奥へ入って行ったが、足取りは少し重い。
あまり家には帰っていなかったのか、一士とエリの結婚のことよりも両親にとっては息子に会えたことの方が嬉しかったのだろう。
すっかり酔っ払ってしまった父は、そのまま眠ってしまった。

「親父のヤツ、飲み過ぎだよな」
「嬉しかったんじゃないかな、息子と飲めて」
「そうかな。東郷さんも、もうじき息子なんだから、親父のこと頼むよ」
「はぁ…」

頼むよと言われても、困るのだが…。

「でも、東郷さん。よく、あんな妹を嫁にもらおうなんて思ったな。まっ、兄貴の俺が言うのもなんだけど、スタイルはいいと思うよ。ただ、素直じゃないだろ?」

お酒が入ったせいもあって、だいぶ蓮の口調が砕けていた。

「素直じゃないところが、彼女の魅力だと思う」
「そうかぁ?まぁ、好きならいいけどさ。でも、週末婚なんだって?東郷さん、モテそうだからな。兄としては浮気だけは、気をつけるように忠告しておくよ」
「それは、絶対ないから」
「ならいいけど。せいぜい頑張るんだな、弟君」

蓮は豪快に一士の背中を叩くと、その場にヘナヘナと倒れこんでしまった。
どうやら、酔っ払ってしまったようだ。

「やだ、蓮までぇ」

呆れて見ているエリだったが、一士はいい家族だなと思う。
昨夜は、緊張して眠れなかったのになぁ…。
心配する必要など、全くなかった。
気が抜けた一士も、父親と蓮と一緒に酔いつぶれて眠ってしまい…。




そして、大安のある日。
城崎 エリと東郷 一士は、めでたく入籍したのでした。


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