ブルルルルル―――
上着の胸ポケットに入れてあった携帯が震え出したが、すぐに切れた。
これは、電話ではなくメール。
和也は午後からずっと顧客先で打ち合わせだったが、まだまだ長引きそうだったので途中の休憩をしていたところ。
そっと人目のつかない場所に移動すると、携帯を開いた。
―――あっ、もえからだ。
もえからのメールだというだけで、和也の表情が一変する。
『お忙しいところ、すみません。今夜のお食事のメニューですが、和也さんの好きなカレーライスでいいですか?』
今夜はもえが和也の家に泊まりに来る約束になっていたのだが、帰りが遅くなるかもしれないと言っていたので確認メールを送ってきたのだろう。
もえらしいというか、なんというか…。
「夕飯はもえが作ってくれるものならなんでもいいけど、カレーだったら尚いいかな」
すぐに返事を送信する。
『わかりました。じゃあ、カレーライスを作って待ってます。お仕事、頑張ってくださいね』
すぐに来たもえからの返事を読んで、いても経ってもいられなかった和也は無意識に通話ボタンを押していた。
『もしもし、和也さん?』
「もえ、今いい?」
『はい。でも、和也さんの方はいいんですか?』
「今、休憩中なんだ」
『そうですか。えっと何か』
いきなり電話を掛けてきたので、何か急用でもできたのだろうか?
「違うんだ。もえの声が聞きたくて。本当は、今すぐ顔も見たいんだけど」
いつもなら会社でもえの顔を見ることができるし話もできる、それが今日は午前中もバタバタしていたし、午後からはずっと見ていない。
『えっ』
―――あっ、きっともえの顔、真っ赤だぞ?
この声は驚きと共に恥ずかしさで、今頃顔が真っ赤に違いない。
―――あ〜、この顔も可愛いんだよなぁ。
くぅ、見たい。
「もえ、もしかして赤くなってる?」
『えっ、いえ。そっ、そんな…ことっ』
聞く方が、野暮だったかもしれない。
念のため、もえは席を外して和也にメールを送っていたから、この顔を周りの人に見られることはなかったけれど、彼の言う通りすっかり真っ赤だった。
「もえに早く会いたい。会議なんて、なかったらな」
和也の言葉はストレートに想いが伝わってくるから、恥ずかしいけれどそれよりも嬉しい方が上回る。
『私も、早く会いたいです』
小さな声だったけれど、恥ずかしさを抑えて言ってくれたもえが愛しくて―――。
その後の会議での和也の張り切りぶりに一緒にいた雄斗も『どうしたのだろう?』と首を傾げていたが、終わるや否や「もえが、待っているから」と挨拶もそこそこに帰って行った姿を見送りながら微笑ましく思うのだった。
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