* 恋の十番勝負 * <2> 「ねぇ、杉…じゃなくって、慧(さとし)。どこに行くの?」 慧は雫(しずく)を引っ張るようにして、バッティングセンターを出る。 「どこって、決まってるじゃん」 「ホ・テ・ル」と慧に耳元で囁かれるように言われ、雫は目を見開いたままその場に歩みを止めた。 ───いきなりホテル?!って、どういうことよ!! たった今、想いが通じたばかりで…。 「はぁ?何言ってるのよ、ホテルなんてっ」 「お前、声デカイって」 慌てて慧が雫の口を手で押えたが、あまりに大きな声で言ったものだから、二人は歩いていた人達の視線を一気に浴びる。 「ごめんね…っていうか、慧がいきなりそんなことを言うから」 「いきなり?当然の結果だろ」 「当然ってぇ…」 ───そりゃぁ、好きな相手だし、そうなることは彼の言う通りかもしいれないけど…。 ちょっと、早過ぎじゃない? それにホテルなんて、ヤルだけって感じでムードも何もあったもんじゃない…。 「何だよ。雫は、俺とじゃ嫌なのか?」 「嫌って…そういうわけじゃないけど…」 「だったら、いいだろ?週末なんだしさ、二人だけの熱~い夜を───」 「もうっ、そういう言い方やめてっ」 雫は叫ぶように言うと、慧の体を思いっきり押しのけた。 その行動に呆気に取られる慧。 「雫?」 「知らない。そんなに行きたいならあたしとじゃなくて、喜んで相手をしてくれる女の人と行けばいいでしょ!慧ならそういう人、いくらでもいるでしょうからね。あたしと違って、超ナイスバディなっ」 最後のひと言は余計だとも思ったが、口から出てしまったものは元に戻せない。 雫は、慧に背を向けて大股で歩き出す。 ───人のこと、何だと思ってるわけ? 週末だし、一緒にいたいって思うけど…こんなの嫌…。 「ちょっと待てよ、何だよその言い方。まるで、俺が寝るだけの女には困らないみたいな───」 「だって、そうでしょ?」 今度こそ、雫は言ってしまってからハッとした。 いくら何でも、これはちょっと言い過ぎ…。 「あのなぁ。俺がそんな男じゃないことぐらい、お前が一番よく知ってるはずだろ?」 軽そうに見える外見と口調からか、慧をそんなふうに誤解する人も多い。 初めは雫もその一人だったが、でも本当は違う。 誰よりも、真面目で一途で…。 「雫、ごめん。調子に乗った俺が悪かった。だから、許してくれよ」 「頼む」と最後は懇願されるように言われては、雫だってこれ以上拗ねる理由はない。 それより、謝らなければいけないのは雫の方なのに…。 「あたしこそ、ごめんね。ひどいこと言って」 「俺が悪いんだ。気にするな」 慧は雫を自分の胸に優しく抱き寄せる。 やっと手に入ったのに、こんなことで手放すわけにはいかないから。 「これから、どうする?家まで送って行くか?」 「もう少しだけ、一緒にいてもらってもいい?」 「あぁ、いいよ」 二人は手を繋いで、ゆっくりと歩き出す。 ───こんなふうに手を繋いで歩くなんて、高校生以来かも。 「思い出し笑いなんかして、どうしたんだよ」 「ん?何かね、こうやって手を繋いで歩いてた高校生の頃を思い出しちゃった」 「高校生?」 「うん。あの頃は、純だったなぁって」 周りの目を気にしながら、手を繋ぐというよりお互い指先だけをちょこっと絡めて。 たったそれだけのことなのに、すっごく恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら。 「今は、そうじゃないのか?」 「え?」 付き合っている人がいながら、別の人のことを想ってたなんてね…。 もう、あの頃の自分はいない…のかな。 「今のあたしは───」 「お前は、変わってねぇよ」 言葉を遮るように慧は言う。 それは妙に自信たっぷりで、雫は思わず笑みをこぼす。 「見てないくせにぃ」 「見てなくたってわかるさ。今だって、ほっぺた薄っすら赤く染めてさ」 ───それは…ついさっきまで同僚兼同期だったはずの慧と、こうやって手を繋いで歩いてるからで…。 「それは…」 「ずっと、変わらないやつなんていない。大人になるって、そういうことだろ?それにお前だけじゃないさ。俺だって同じだし」 「慧…」 ───なんか、慧ったらカッコよ過ぎ。 さっきまでとは、全然違うじゃない。 雫は慧の首に腕を巻きつけ自分の方へ引き寄せると、「好き」って言葉と共に頬にチュッってキスをした。 その不意打ちに慧は固まってしまい、そして…。 「うふふ。慧、顔真っ赤。茹でたタコみたい」 「タコってなぁ…お前がそういうことするからだろっ」 ───あっ、可愛いぃ~!! 本気で慌ててる慧が可愛いっていうか、愛おしくさえ感じる。 きっと、高校生の頃は雫と同じだったに違いないわ。 な~んて、褒めている場合じゃなかったわけで…。 慧は雫の腰に腕を回してガッシリと押さえると、別の方向へ歩き出してしまう。 「うわぁっ、ちょっ、なっ何」 「なぁ、やっぱりホテル行こうぜ」 「やっ、ちょっとっ。あたしの話、全然聞いてないでしょっ!」 ───何よ、ちっとも反省してないじゃない。 慧のえっちぃ、スケベ!! 「お前が悪い。可愛いことしてくれるから」 「可愛いのは慧でしょ?ちょっ、聞いてるのっ」 聞いちゃぁいない───。 …◇… 「…あっ…ん…っ…さ…と…しっ…」 「ここが、いいのか?」 「…ちがっ…ぁ…っん…っ…」 有無も言わさずホテルに連れ込まれた雫は、あっという間に生まれたままの姿にされて…。 ───っていうか、早っ。 慣れているのか、なんなのか…まさに神業とはこのことって、褒めてる場合じゃないんだけど…。 「その顔、めっちゃソソル」 「…ソソルって…あっ…ぁ…っん…っ」 今の慧の前では、何を言っても無駄だろう…。 まぁ、惚れちゃったんだから仕方ないわよね。 彼の希望通り、週末、二人だけの熱~い夜を過ごしたのでした。 つづく…かも。 続きが読みた~い、良かったよ!と思われた方、よろしければポチっとお願いします。 ※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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