* 女心。 * 「きゃっ、ちょっ、千瑛(ちあき)さん!?」 いきなり抱き上げられて、凛々(りり)は思わず大きな声を上げた。 ───だって、千瑛(ちあき)さんったら線が細いのにあたしを軽々持ち上げちゃうんだもの。 慌てて、彼の首に自分の腕を巻きつけたが、どこにこんな力があったのかしら? 「凛々(りり)ちゃん、軽いね。ちゃんと食べてる?」 「おっ、下ろして下さいよぉ。あたしは、軽くなんてないですから」 「そんなことないよ。女性はしっかり食べないと、元気な子供を生めないんだからね」 「えっ、子供?」 千瑛(ちあき)さん、子供って…。 そんな気が早い…。 それより、早く下ろして? 「千瑛(ちあき)さん、お願いですから下ろして下さい」 「どうして?」 「どうしてって、重いからですよ」 「う~ん、僕にはそんなふうには感じないんだけどな」 彼は仕方なくあたしを下ろしてくれたけど、しっかり腰に腕を回して離さない。 ほんの少し前までは完全に女性にしか見えなかった千瑛(ちあき)さん。 凛々(りり)だって、初めはそう信じて疑わなかったのに今ではどうだろう?すっかり男の人みたいって、実際男の人なんだけど…。 「あの、千瑛(ちあき)さん」 すぐ目の前に彼の顔があって、凛々(りり)の心臓はものすごくドキドキしてる。 ───あぁ、でもなんて綺麗なの? 化粧もしていないからスッピンのはずなのに肌なんてツルッツルだし、唇だって艶やかで。 パッチリ二重で睫毛なんかすっごく長くて、女のあたしよりずっとずっと綺麗なの。 「ん?なんだい?」 「どうして、そんなに綺麗なんですか?」 「え…」 真面目な顔で何を言われるのかと思ったら…。 男らしいとかそういうことを言って欲しいのに、まぁ、それは無理か…。 「あたしより綺麗なんて、ズルイです」 「あのねぇ、凛々(りり)ちゃん」 千瑛(ちあき)は、さっきと同じようにひょいっと凛々(りり)を抱き上げるとソファーに腰掛ける。 もちろん、彼女は自分の膝の上に乗せて。 「そういうこと、真顔で言わないでくれるかな?僕だって一応、男なんだから。それに、凛々(りり)ちゃんの方が僕なんかよりずっと綺麗だよ?」 つい、凛々(りり)は思ったことを口に出してしまったが、彼はその綺麗な容姿からずっと辛い思いをしてきたのだということをすっかり忘れていた。 ───あたしのために、千瑛(ちあき)さんは男の人に戻ってくれたのに…。 「ごめんなさい。あたし…」 「そんな顔しないで、君は笑ってる顔が一番素敵なんだからね」 「千瑛(ちあき)さん」 凛々(りり)は、彼の胸に顔を埋める。 彼の言葉は全てが優しくて、胸の奥がキュンって熱くなる。 こんなに男の人に甘えたことは、今までなかったかもしれない。 「凛々(りり)ちゃん、僕ね───」 ゆっくりと髪を上下していた彼の手が止まる。 「千瑛(ちあき)さん?」 「凛々(りり)ちゃん、僕はずっと女扱いされてきて、だから女性を好きになっても相手にされなかった。つまりその…」 男を捨てた千瑛(ちあき)には、この年齢で恥ずかしい話、女性経験がなかったということ。 凛々(りり)に振り向いてもらいたい一身で男に戻ったはいいが、女心はある程度わかっているつもりでも、果たして男として彼女を満足させることができるのだろうか? 「あたしは、千瑛(ちあき)さんが側にいてくれるだけで、優しい言葉をもらえるだけで幸せなんです」 「凛々(りり)ちゃん…」 ぎゅっと抱きつく凛々(りり)の柔らかい膨らみが、千瑛(ちあき)の男としての本能を呼び起こさせる。 初めて想いが通じた相手、優しい言葉をくれるのはいつも君の方だよ。 感謝の気持ちを込めて、千瑛(ちあき)はそっとくちづけた。 END 続きが読みた~い、良かったよ!と思われた方、よろしければポチっとお願いします。 ※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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