LOVEヘルパー 番外編U
四角関係未満外伝・女のロマンス
【注】この作品はTHE JUNE内『Actor』に関連しておりますが、゛藁゛ゆり 様が書かれた別のお話です。
【男はロマンを求め、女はロマンスを求める】
女性はリアリスト(現実的)で、男の方がロマンチストだという説も……。
記録的な大ヒットドラマの番外編も、さらに記録的な高視聴率をたたき出し、番外編Uも早々に企画された。
そして番外編からの初登場にもかかわらず、登場時の高視聴率と視聴者からの好感度で番外編Uにも登場する事になった女優・はるか、こと遥 未来(はるか みく)。
ドラマの出番こそ少ないものの、主役の国民的人気俳優・吉原 大和(よしはら やまと)との共演は臨場感があり、見る者全てを惹きつける。そんな役柄を越えてインパクトのある女優の出番が少ないことに、プロデューサーだけじゃなく、TV関係者の誰もが悔しがっていた。
だから、なのかもしれない。唯一の撮影を終えたばかりの端役の未来が、他の撮影現場での撮影が遅れ、メインの役者が時間に間に合いそうも無い為、主役の大和と情報番組に出演する事になったのは……。
「はるかさん。事務所の方にも了承してもらえましたので、宜しくお願いします!」
「でも……」
情報番組のインタビューなど初体験の未来は、メインの役者達の撮影が遅れたことに苦い顔をしていたはずのプロデューサーが、自分を代役に立てることを思いついた途端、嬉々としてインタビューの手はずを整えていることに戸惑いを隠せない。
まして、プロデューサーの指示の元、事務所へ緊急の業務連絡するTV関係者達も嬉し気なのが、不安でもある。
頼みの綱の大和は、本来マネージャーでしかない未来との情報番組のインタビューを快諾。迷いもせずに快諾する大和には、呆れるのを通り越し、怒る気にもなれずに未来は脱力していた。
「――もう、どうなっても知らないから……」
◇
スタジオの隅に置かれたテーブルセットでは、情報番組のインタビュー撮影の面々が待機している。恨みがましい未来の言葉など、誰も聞いてはいない。上機嫌の大和が未来をエスコートしてテーブルセットの方へ来るのを、中年の女性インタビュアーが目を輝かせて待ち構えていた。
「お待たせして申し訳ありません」
あの国民的人気俳優・吉原 大和の御機嫌スマイルに、インタビュアーをはじめとする女性だけではなく、男も目を奪われる。誰をも魅了する笑顔―――大和が国民的人気俳優と呼ばれる要因の一つであろう。
男性にも効果抜群の笑顔から、照れたように苦笑して夢の世界から帰還した中年女性インタビュアーは、さすが年の功だったかもしれない。少し顔を赤らめたまま、まだ夢世界の撮影クルーに撮影開始を促した。
「……では、【LOVEヘルパー −あなたの恋、成就させますー】番外編Uのインタビューをさせていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
「お願いします」
情報番組インタビュー初心者の未来は、無難に大和にあわせて挨拶をする。
そして大和は、まだ夢うつつのインタビュアーを差し置いて手馴れたように自分から話を進めた。
「ドラマのインタビューですので、ここは役柄名で俺は大和(やまと)、彼女は未来(みく)で、お願いします」
さり気に話をリードする大和。これでは、どちらがインタビュアーだかわからない。
その事に気づいたのだろうインタビュアーは、苦笑しつつもその目が光る。
゛お願いだから無用な敵を作らないで〜!゛
未来のココロの声は、大和どころか誰にも届かない。撮影現場からスタジオのインタビューを見に集まったスタッフ達は、興味津々。インタビュアーが俄然、張り切ったのは言うまでもない。
「それでは大和さん、今回はどんなお話なんでしょうか?」
「前回の依頼者は俺の元カノでしたが、今回は助手の水川さんの幼馴染が依頼者です。互いの感情が複雑に絡み合う、四角関係……未満の、恋愛です」
「その依頼の恋愛に、大和さんの現在・過去の恋愛が絡むことは?」
「残念ながら、ありません」
インタビュアーと大和だけではなく、周囲の視線も元カノ役の未来に注がれた。
ドラマ設定とはいえ迷惑な極まり無い、未来である。だから悟った。インタビューをリードしている大和に好き勝手させておけば、やがて自分に被害がやってくることを!自衛しなければ大変なことになる!!
「恋愛成就を仕事にしている大和さんが、プライベートでも役に立った事は?」
いよいよインタビュアーにもエンジンがかかってきたようだ。が、大和も負けてはいない。
「恋バナの話題提供。本当にあったんだなってコトもありますよ」
「大和さんのプライベートにも、役に立ちましたか?」
真正面からの質問に、大和はにっこり笑って返答する。
「役に立てばいいな、と」
なかなかガードが固い。インタビュアーは質問の矛先を変えた。
「では前回依頼者だった未来さんは、今回のお話ではどんな役なんでしょう?」
ちょっと身を硬くした未来であるが、そこはストレートに返答した。
「今回は、依頼に力を貸す協力者です」
「やっぱり大和さんに個人的に?」
「出番は、お茶を一服点てる間だけなんですよ?」
意味深な質問に、質問で返す未来。
これには大和も周囲で傍観するスタッフも苦笑する。
「まあ〜それは残念です。大和さんと一緒にいる未来さんを見たいと、期待していましたのに!」
まんざら冗談でもないインタビュアーに、未来も真面目に答えた。
「私も残念です。一服゛点てる゛んじゃなくて、一服゛盛り゛たかったのに」
「………」
未来の至極真面目な、しかしあまりといえばあんまりな言葉に沈黙したインタビュアーの代わりに大和が突っ込む。
「俺を殺す気満々か?」
「ミステリーになるかしら♪」
「本気でやったら殺人だぞ?」
「殺人ミステリーね!」
「――そこから離れろ」
インタビュアーそっちのけでポンポン飛び出す二人のやり取りに、傍観者から笑いが漏れる。
これではインタビューしている(はずの)、インタビュアーの意味が無い。
「では!もしドラマの中の『恋愛相談事務所』が実在したら、未来さんは相談してみようと思いますか?」
「恋を叶えて欲しい、でも好きで好きでたまらない程の人が現れなければ、この『恋愛相談所』に足を踏み入れることは出来ないんですよ?」
「それで未来さんは?」
先刻の質問返しには負けてしまったインタビュアーだが、今度の質問返しには逆に指名質問で切り返す。だから未来は誠実に答えてみた。
「私ですか?この『恋愛相談所』で確信が欲しいのは恋する者にとって共通の願いでしょうが、゛木っ端微塵になっても後悔しない゛ような恋を一度でいいからしてみたいですね」
【LOVEヘルパー】製作発表時の大和と同じ事を言った未来に、ここは突っ込むべきか否か、インタビュアーはベテラン故に迷う。
なので。迷っているインタビュアーの代わりに、大和が突っ込む。
「未来は想われる方だからな、想われてる事にも気づかないし。つまり、鈍い?」
「そんなこと無いわよ!それに、゛木っ端微塵になっても…゛って事は想われるより想いたいって事だから!!」
ムキになって言い返す未来に、ニヤリと笑う大和。
未来が「しまった!」と気づいた時には、もう遅い。
「よし、俺の胸にドンと飛び込んで来い!」
両手を広げて、゛さあ来い゛と促すニヤニヤ笑いの大和に傍観者が噴出した。
存在意義を疑われそうなインタビュアーでさえ、笑いを耐えている。
「……元カノ設定だから、それ無し」
未来が手首だけ振って却下すると、大和とインタビュアーの女性も噴出した。
役柄になりきって自衛していた未来だが、これはいささかやりすぎた感がある。悪ノリした大和も大和だが……。
そもそも。初めに仕掛けたのは大和である――と、責任転嫁しておく。
「……それでは、大和さんと未来さんに恋愛が絡むことは無いのは非常に残念ですが、他の皆さんはどうなんでしょう?」
笑いの発作から復活したインタビュアーが、涙目で本来の仕事を遂行する。
個人的な感想が入らなくも無いが、さすがプロの質問だった。
それに応じて、大和がドラマの恋愛模様を語る。
「四角関係ですので、カップル二組の恋愛成就ですよ。そこで助手の水川さんと幼馴染の関係が〜!」
タイトル的には間違っていないが、含みを持たせるトコロが違う、大和である。
傍観者の番外編スタッフも、クスクス笑っている。
だがベテランのインタビュアーは、その雰囲気に流されなかった。
「タイトルどおりの、二組のカップルの恋愛成就ですね!」
「そうですね」
見かねた未来が、インタビュアーの質問を肯定する。
すっかり大和に振り回されていたインタビュアーは、未来に感謝の目を向けた。
目と目が合って、通じ合う心と心。
「どんな恋愛模様なんでしょうか?」
「恋愛感情が交差しますけど、それぞれが幸せになれます」
「それぞれが想い想われて……でも、女性は愛されていたいものですよね?」
「最後には?そういうロマンス要素もありますから大丈夫ですよ」
「ロマンスですね!」
「ロマンスです」
「女性が新しい服を着るのも、髪を伸ばしているのも、あの人の為っていう要素が既にロマンスですものねぇ〜」
女同士で盛り上がる(特にインタビュアーはテンションが高い)会話に疎外された大和は、自業自得である。
しかし。本来の主役をないがしろにするのは、如何なものだろうか?それに撮影クルーが時計と睨めっこしていた。
「――で、今回も『恋愛相談所』所長の大和さんが、それぞれの恋愛成就を助けてくれるんですね!素敵です!!」
「はい。素敵なんで、皆さん観て下さい」
「カット!」
大和が〆たところで、撮影終了の合図。
いささか我を失っていたインタビュアーだったが、臨場感があるユーモラスな撮影が出来た事に、撮影クルーともども満足していた。傍観していた番外編のスタッフ達も笑っていたので、問題は何も無い。
未来としては、女性インタビュアーからロマンスについて一家言、語られたような気がする。そしてそれは、大和も同感だったようだ。
「――女のロマンスには、深いモノがあるんだな……」
「いや、あれは、ちょっと思い込みが……激しいかったかな、と」
しみじみと語る大和の感想に、一般的な感想を述べる未来。
まあ未来としては大和の暴挙を止められたのだから、あまりインタビュアーの事を悪くは言えない。
「俺もまだまだ修行が足りないな」
何やら一人で納得している大和であるが、何の修行が足りないのか……あまり詳しく突っ込みたくは無い未来である。
「インタビューが無事に終わって良かった!」
とにかく目の前の課題を終えて、安堵する。
だが、このインタビューが後の大河ドラマの配役に大きく影響することを、神ならぬ大和と未来も知らない。
戦国時代後期の三大覇者を、信長を怜悧な天才、家康を実直で我慢の慎重家と設定し、対比して秀吉は陽気な知恵者と一般的に認識されている。そして、この秀吉を助ける゛糟糠の妻゛・ねねの存在も―――。
END
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