アリスが目を覚ますと、感じられるのは微かな温もりだけ。
―――ブラッド…。
間違いなく彼の家に泊まって、ずっとアリスを抱きしめたまま一緒に眠ったはずなのに…。
そっとベッドから出るとレースのカーテン越しに庭を見つめる。
夢だったの?
白馬の王子様は、私のことを迎えに来てくれたんじゃ…。
わけもなく涙が込み上げてきて胸が詰まる。
「…あっ」
「ごめん、驚かせて」
「おはよう、アリス。まだ眠ってると思ったから」と、背後からアリスを優しく抱きしめたのは既に着替えを済ませたブラッド。
本当ならずっと愛しい彼女の寝顔を見ていたかったし、目覚めの時には腕の中でおはようを言いたかった。
しかし彼は忙しい身、そうも言っていられず、彼女が眠っている間に一仕事終えてきたところだった。
「おはようございます」
「どうしたんだい?そんな顔をして」
ブラッドはアリスを自分の方へ向けると額にそっとくちづけたが、彼女の不安そうな表情が気になって…。
それはまるで、10年前に森で迷子になっていた時のよう。
「夢かと思ったんです」
「夢?」
「ブラッドも白馬の王子様も全部、夢だったんじゃないかって」
「夢なんかじゃない。僕はアリスを離さないって言ったよ?だから、そんな顔しないで」
両手をアリスの頬に添えると、やっと笑顔に変わる。
…そんな顔されたら、家に帰せなくなる。
王子様が迎えに来てくれるとずっと信じていたアリス。
それが自分だったというだけでも、飛び上がらんばかりの喜びだったというのに。
ほんのちょっと彼女の側を離れただけでこんな顔をされたら、もう手放せなくなる。
これは早いところ、キャンベル家に挨拶に行って結婚の話を進めないと身が持たない。
そんなことを考えていると、ドアをノックする音が。
コンッコンッ―――
コンッコンッ―――
「おくつろぎのところ申し訳ありません。ブラッド様、国王陛下よりお電話が入っております」
『は?何、国王からの電話?!ヤバっ、連絡するのをすっかり忘れてた』
思わず、顔を見合わせたブラッドとアリス。
―――昨晩は、挨拶もしないで舞踏会を抜け出したりしたから…。
どうしよう…国王が怒っちゃってたら…。
「ブラッド?」
「だっ、大丈夫。取り敢えず、電話に出てくるから」
「アリスは心配しないで、ここで待ってて」と言い残して、ブラッドは部屋を出る。
心配しないでと言われても、相手は国王…。
いくらブラッドのお祖父様だからって、やっぱり礼儀知らずとか言われるかもしれない。
そして、王家とは縁の深いキャンベル家にも…。
―――やだっ、どうしよう…。
私のせいでお父様やお母様に迷惑を掛けてしまうかも…ううん、それよりキャンベル家に傷をつけてしまうことになるかも。
キャンベル家の娘は国王に挨拶もなしに舞踏会を抜け出して、あろうことか孫をたぶらかしてなんて言われたら…
アリスは、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。
ずっと恋焦がれた白馬の王子様が迎えに来てくれたというのに…こんなことになってしまって…。
「アリス?アリス、どこだ。アリスっ」
電話を終えて戻って来たブラッドだったが、部屋で待っているはずのアリスの姿が見えない。
…アリス、一体どこに。
「…ブラッド」
「えっ、アリスどこに」
消え入るような小さな声で自分を呼ぶ方に視線を向けると、床にうずくまっているアリス。
…またまた、あの時のウサギかと。
そんなことはどうでもよくって、どうした何があったんだ。
「どうした、アリス。気分でも悪いのか?」
駆け寄るブラッド。
「ブラッド、国王が…」
「ん?国王が、どうかしたのかい?」
涙をいっぱいに溜めて、今にも零れ落ちそうな瞳のアリスを抱き上げるとブラッドはそのままベッドの端に腰掛ける。
微かに震えるアリスをしっかりと抱きしめた。
「舞踏会を抜け出したりしたから…。国王が怒って…」
「国王が怒った?」
「私のせいで…」
一瞬、アリスが何を言おうとしているのかわからなかったブラッドだったが、たった今掛かってきた国王からの電話が昨夜の舞踏会を無断で抜け出したから怒ったと勘違いしたのだろう。
…そんなことあるはず。
ないというか、それどころじゃなくて、今すぐアリスを連れて国王のところへ来るようにとの電話だったのだ。
大事なキャンベル家のアリスを連れ出すなんてとまぁ…無断で抜け出したことは怒られたが、それは二人のことを祝福しているからであって、そういうことになっているならなぜきちんと報告しないのだと。
ブラッド本人も、ようやっと念願叶ってアリスをこうして自分の元へ連れて来たばかりだというのに言葉は悪いが国王のことなど全く頭になかったと言っていい。
「アリスのせいなんかじゃないよ。国王は、僕達のことを祝福してくれたんだ。だから、今から会いに来なさいって」
「えぇっ?!今から」
「あぁ。僕も忙しいんだけど、これ以上国王を怒らせるわけにも―――」
「やっぱり、怒ってるんですね」
「やっ、そうじゃなくて。国王は、僕達からきちんと報告して欲しかったらしい。こういうことは、一番に聞かないと気が済まない性格だから」
舞踏会にもほとんど顔を出さなかったブラッドのことを国王が心配しないはずはなく、それなのにいきなりアリスを連れて帰ったとなれば尚更。
後で挨拶に行くからと言うのも、すっかり忘れていたし…。
ここでさっさと国王に挨拶を済ませてしまえば、先に進むのは早い。
「ほら、アリスも着替えて。急がないと国王は本当に怒るかも」
「えっ?でも…着替えてって」
着替えてと言われてもここはブラッドの屋敷なのだから、無理というもの。
一度、自分の家に行かないとアリスは着替えることができない。
「用意は、できてるはずだから」
「用意?」
「僕の趣味だから、ちょっと露出度が高いかも」
―――えっ、僕の趣味って…。
アリスはブラッドに抱きかかえられたまま、隣の部屋に連れて行かれて着替えさせられた。
いつの間に用意してあったのか、サイズぴったりのドレス。
でも…彼の言った通り露出度が高くてすごく恥ずかしかったけど、可愛かったのとっても。
初めて会う国王は、とても優しくアリスを迎えてくれて…。
ずっと会いに来なかったブラッドは相当絞られたが、その場で結婚報告をした彼に国王は本当に嬉しそうな笑顔を向けていたのでした。
To be continued...
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