意地っ張りな女
<後編>

R-18

「頑張って下さいね」
「うん、ありがとう。みんなのおかげで、ここまで来ることができたんだと思う。感謝してもしきれないわ」

今日はプレゼン当日、冴子は一度オフィスに出社してから顧客先に出向くことになっていたが、最後にこうやってみんなが激励の言葉を掛けてくれた。
上司の言った『お前には、助けてくれる仲間がいることを忘れるな』という言葉が、今は本当にありがたいものに思える。

「おいおい、小早川。勝負はこれからなんだぞ?まだ、早いだろ」

感極まって熱いものがこみ上げていた冴子だったが、上司に言われて我に返る。
―――そうだった。
みんなの努力が報われるかどうかの審判はこれからであって、ここで安心しているわけにはいかないのだ。

「そうですね」
「じゃあ、そろそろ行くか」

冴子は黙って頷くと上司と共にオフィスを出ようとしたが、その時、東望に呼び止められた。

「小早川」
「東望さん」
「お前らしく、思いっきり戦ってこい」

『頑張れ』といういう言葉ではなく『戦ってこい』なんて、東望らしい言い方。
ふっと冴子が笑みをこぼすと、彼もそれに応えてくれる。
たったそれだけなのに、ものすごい勇気をもらった気がした。

「うん、あたしらしく」

さっきまでの穏やかな表情とは違う、キリっとした彼女に目が釘付けになる。
…あぁ、この顔が一番好きだな。
どんな彼女も素敵なことには変わりないが、今の顔が東望の中で一番好きな顔。
輝いていて、自信に満ちていて…。

「では、行って来ます」

冴子は今度こそ、戦いの場に向かって行った。

+++

今まで何度もプレゼンをしてきたが、こんなにも顧客を納得させ、感動までも生むようなものは恐らく初めてだっただろう。

「小早川、良くやったな。素晴らしかったぞ」

普段はあまり褒めない上司も、この時ばかりはいつも口にしない言葉を冴子に掛けてくれた。
それはとても嬉しいけれど、ちょっぴり恥ずかしい…。

「いえ、これは私だけの力ではありません。みんなの協力があってこそ、ですから」
「そうだな。お前も、やっと気付いただろう?」

―――この人は、わかってたんだ。
そして、あたしが気付くまで黙って見守っていてくれた。
例え一人で突っ走って取り返しのつかないことになったとしても、冴子を責めるどころか何も言わずに責任を取ったに違いない。
そんな器の広い上司の下にいたことにすら、気付いていなかったとは…。

「はい。私…」
「その気持ちを忘れるな。俺は社に戻るが、小早川はこのまま帰っていいぞ」
「えっ、でも…」

すっかり定時を過ぎていたが、プレゼンが通ったことに安堵しているわけにはいかず、これから冴子もオフィスに戻り、仕事を先に進めようとしていたところ。
しかし、上司の視線の先にある人物の姿を見つけ、なぜそう言ったのか、すぐにその意味がわかる。

―――東望さん…。

スーツ姿で煙草を吸っている彼は、二人が出てきたことにまだ気付いていないよう。
「お疲れさん」と上司は冴子に軽く片手を上げ、東望のところへ歩いて行くとなにやら一言二言告げて去って行った。

「よう」
「東望さん、どうして」
「いや、ちょっと近くまで来たついでに寄ってみただけさ。上手くいったんだってな、おめでとう」

冴子は彼が手に持っていた携帯灰皿に目を向けると、その中にはたくさんの吸殻が入っていた。
恐らく、相当長い時間ここで待っていたに違いない。

「ありがとう。でも、いつから待ってたの?」
「えっ、そんなでもないけど」
「うそ」
「え?あっ、いや、これは…」

東望は慌てて携帯灰皿の蓋を閉じたが、もう遅い。
実を言うと、近くまで来たついでというのは本当だったが、かなり長い時間ここで待っていたのだ。
結果が気になって仕事にならない東望に、みんなが気を利かせてくれたのだが…。

「あたし。なぜか、もうオフィスに戻らなくてもいいって言われたんだけど」

上司が帰り際に東望に掛けた言葉は、『しっかりやれよ』。
これだけ周りに気を使わせている以上、ここで決めなければ男が廃る!?

「なら、お祝いにパーッと飲みに行くか?」
「もちろん、東望さんの奢りで」
「あぁ、何でも好きなものを奢ってやるよ」

「ヤッタ!」と子供のようにはしゃぐ冴子。
この笑顔が見られるなら、例え自分のことを男として意識してもらえなくてもいい…。
東望は冴子の手を取ると、街へと消えて行った。



「えっ、東望さん。ほんとにいいの?」

何でも好きなものをと言われ、冴子は調子に乗って寿司屋の名前を出したのだが、まさか本当に連れて来るとは…。

「別に構わないけど」
「構わないけどって、ここものすごく高いのに」
「まぁ、たまにはな」

「ほら、入るぞ」って、彼に背中を押されて暖簾をくぐると、店の中から威勢のいい声が返ってきた。
二人はカウンターに並んで腰掛け、まず生ジョッキを頼む。
ずっと仕事仕事で、オフィスと家の往復だった冴子と東望には久し振りのアルコール。

「プレゼン成功、おめでとう」
「ありがとう。これも、東望さんやみんなのおかげ」

グラスをカチンと合わせて、二人はそれを一気に飲み干す。
豪快な飲みっぷりに店の人も驚くばかり。

「じゃあ、遠慮なくいかせていただきます」

「えっと、大トロにウニにイクラに―――」と、高級素材ばかりを続けて注文する冴子に東望も少し懐が心配になってくる。
しかし、ここまで来てしまった以上仕方ないわけで…。

「そんなに食うと太るぞ」
「いいもん、太っても。今日だけだし」

…そうくるか…。
開き直りとも取れる発言だったが、今日だけだったらまぁいいか。
何を言われても、“うん”と言ってしまうのは、惚れた弱みなのかも…。

「東望さんは?もしかして、あんまりお寿司好きじゃなかったの?」

自分ばかり食べていることに、もしかして彼はお寿司が好きではなかったのかしら?
つくづく、人の気持ちが読めないなと反省する冴子。

「そんなことないさ。俺もこれからが本番」

こうなったらヤケ!?でもないが、東望だってお寿司大好き。
冴子が美味しそうに食べているの見たら、我慢できるはずがない。

二人で競争するように散々、食べて店を出た。



「もうっ、すっごく美味しかった。ごちそうさまでした」
「どういたしまして」

東望の懐はかなり寂しくなったが、冴子との楽しいひと時を過ごせたことを思えば決して高いものではない。
店を出た後、なんとなく会話も途絶え、二人黙ったままどこへともなく歩き出す。
それを先に破ったのは、冴子の方だった。

「東望さん」
「ん?」
「あの…この前の話なんだけど。ごめんなさい、あたしのことを心配してくれたのに関係ないなんて言って」

頼って欲しいと言われたのに意地を張って、『あなたには関係ない』などと言ってしまった。
そして、『好きになるだけ無駄』とも…。
きっと、もうあたしのことなんて嫌いになっちゃったわよね?

「そんなこと、気にしていたのか?」
「だって…」
「俺の気持ちは変わらない」
「え?それって…」

―――こんなあたしでも、まだ好きでいてくれる?

「あのなぁ、そんなに簡単に嫌いになったりできないんだよ」

「器用じゃないんだ」と話す彼の目が、冴子の心の中を射抜く。

「あたし、東望さんを傷つけるかもしれない…。ううん、既に傷つけてるわね」

学生時代にフラれたのだって、元はといえば自分のせい…。
自分のことばかり考えて、相手がどんなふうに思っているかなんて、これっぽっちも考えなかった。
好きという気持ちさえあれば、二人は永遠に結ばれているのだと信じてた。

「どうして?」
「あたし、自分のことばっかり考えてる。東望さんやみんなの気持ち、全然わかってなくて」
「それは違うだろ?」

「えっ」、違うってどういうこと?

「俺は逆だと思う。お前は周りに気を使い過ぎなんだ。いつだって、自分だけが背負い込んで。だからこそ、俺を含めてみんなはお前の力になりたいと思っているんだよ」

周りに迷惑を掛けないように自分自身で自分を追い込んでいる。
それをみんなは知っているからこそ、付いてきてくれているのだということ。
初めから周りに任せてもできないなんて決め付けていたのなら、誰も冴子になんて付いてこなかっただろう。

「あたし…」
「意地っ張りなお前も好きだけど、もう少し肩の力を抜いてさ。俺の胸に飛び込んでみたら?」
「東望さん…」

彼に抱きしめられて、張り詰めていたものが一気に弾けた。
絶対、人前で涙なんか見せたことがなかったのに彼の前では素になれる自分がいる。
優しく髪を撫でてくれる彼の手が、とても心地いい。

「ほら、もう涙はおしまい。笑った顔を俺に見せてくれよ」
「うん…」

無理に笑ったから、きっとすごく変な顔だと思う。
それでも彼は微笑むと、涙の跡を拭うようにくちづけを落とす。

「もうっ、くすぐったい」
「お前、可愛過ぎ。俺、我慢できないんだけど。家に連れ帰ってもいい?」
「え…」

連れ帰るって…。

「えぇっ、ちょっ、連れ帰るってっ。まだ、あたしは何も…」
「おい…この期に及んで、俺の気持ちを受け入れたわけじゃないとか言わないだろうな」

―――そんなことはないけど…。
多分…ううん、ちゃんと好きになってる。
だけど、展開が早過ぎでしょ?

「好きよ、東望さんのこと。でも、早過ぎる…」
「こういうのは、早い方がいいんだ。特に冴子の場合は、気持ちが変わらないうちに一気に前に進まないと」
「意味、わかんない」
「つべこべ言わない。いいから、行くぞ」

あたしの意見は、なしですか?
なんて、言葉も今は彼の耳に届きそうもない。
―――東望さんって、案外強引?
彼の意外な一面、発見!!
そう、暢気なことも言っていられないわけで…。

冴子は東望に半ば拉致られるようにして、彼のマンションに連れて行かれたのだった。



「思ったより、綺麗にしてるのね」
「どういう意味かな?それは」

冴子は東望にガッシリと腰に腕を回されたままの格好で彼の部屋の中に入ったが、そこは思ったより、というかかなり綺麗な部屋だった。
別に東望が普段からだらしないとかそういうことではないけれど、男性一般的にそうなのかなと思っただけ。
なにせ冴子は学生時代にフラれてからというもの、誰とも付き合っていなかったのだから。

「なんとなく、そんなふうに思っただけ―――きゃっ」

急に抱き上げられて、寝室に入るとベットの上に二人ダイブするように滑り込む。
すぐ目の前に彼の顔があって、心臓の鼓動が一気に加速する。

「冴子」

名前を呼ばれただけで、ゾクゾクする。
こんな気持ちになったのは…初めてかもしれない。

「東望さん」
「譲路(じょうじ)って、呼んでくれよ」
「譲路(じょうじ)?」

なぜか疑問系になってしまうのだが、東望はそれでも嬉しく冴子にくちづける。
何度も何度も角度を変えて舌を絡める深いくちづけに、冴子の身も心も溶けていってしまいそう。

「…っ…ぁ…ん…じょ…じ…っ…」
「もっと、俺の名前を呼んで」

冴子は言われるままに彼の名を呼び続けた。
それに気をよくした東望は、彼女のありとあらゆるところに自分の印を付ける。
後で怒られることは容易に想像つくが、付けてしまえばこっちのもの。

「…やぁ…っん…っ…」
「冴子、ここ弱いんだ」
「ちがっ…」

本当は違わないが東望に弱みを見せたくないという、ここまできても強がってしまう。
そんなこと、彼にはお見通しだけど。

「服が邪魔だな。シワになるし、脱がすよ」

―――そんなことっ、いちいち断らないでっ。
恥ずかしいからっ。
この日のために新調したばかりのスーツを、東望はあっという間にブラまで脱がせてしまう。
なんという早業…。

「…やぁ…そんなに見ないで…」

上から眺めるようにして見ている東望に、冴子は慌てて胸を両手で覆う。
巨乳まではいかずとも、ふくよかで形のいい膨らみ。
隠しても、半分以上見えているって…。

「隠すなよ。いい眺めだったのに」
「譲路(じょうじ)ったら、趣味悪い」
「男なんて、そんなもんだろ」

呆気なく両手を頭の上に持っていかれ、再び冴子の二つの膨らみは露になった。
ピンク色の蕾はしっかりと主張していて、それだけでも東望のモノを熱くさせる。

「…あっ…っ…んっ…ぁ…」

くちづけだけでも感じて固くなっている蕾を指で弾かれると、自分でもびっくりするくらいの声が出た。
―――やだ、あたしったら、こんな声出しちゃって…。
そう思っても、東望の手は尚も膨らみを責め続ける。
片方の手でマシュマロのように柔らかい膨らみをやんわりと揉まれ、もう一方の蕾を唇で吸ったり舌で転がされ、時折甘噛みされると冴子は更に甘美な声を上げた。
そして、手が腰のラインに添ってかろうじて身に着けていた布に触れる。

「…やぁっ…っん…ぁ…っ…」
「こんなになってる」
「…そういう…こと…言わな…い…で…っ…」

秘部は布越しに薄っすらと濡れていたが、何度も指が上下したあとに中に入って来る。

「…っ…い…っ…」
「ごめん。痛かった?」

慌てて指を出して、心配そうに東望が冴子の顔を覗き込む。
恥ずかしい話、冴子はずっとあっちの方はご無沙汰だったものだから、いきなり触られて驚いただけ…。

「…ちがっ…。あたし…ずっとやってなくて…」

消え入るような声に彼女の気持ちを十分に察している東望は、優しく囁くように言う。

「少しずつ入れていくから、痛かったら言って」

黙って頷く冴子から身に付けていた布を取り去ると、足を開かせて秘部にゆっくりと指を入れていく。
冴子のくぐもった声に東望は我慢しなくてもいいからと、そっとくちづけた。

「…っ…あぁぁぁぁっ…んっ…っ…」
「大丈夫?痛くない?」
「…あっ…ん…大丈…夫…」

冴子の中はかなり狭かったが、これだけ濡れていれば多分大丈夫だろう。
「ちょっと待ってて」と、東望は身に着けていたものを全て取り去ると、引き出しに入れてあったゴムを自身に装着する。

「冴子、入れるよ。痛かったら、言って」
「うん」

少しずつ彼女の中に自身を埋めていくが、思った以上にそこは狭い。

「…んっ…あぁぁぁぁぁ…っ…ぁ…っ…」
「ごめっ、ちょとだけ我慢して」

冴子の悲鳴にも似た声が部屋に響いたが、東望にはもう抑えることができなかった。
ずっと想っていた女性と一つになれた喜びと、あまりの気持ちよさに腰が勝手に動いてしまう。

「…あっ…ん…っ…じょ…じ…」
「冴子」

辛いのか、目をぎゅっと瞑ったままの彼女を東望はぎゅっと抱きしめる。
段々と律動が早くなり、二人の限界はすぐ間近。

「…っあ…ぁぁぁぁ…っ…譲路(じょうじ)…イっ…ちゃ…う…」
「冴子…俺もっ…」

イったのは、二人ほぼ同時だっただろうか。
ぐったりとした冴子の額には、薄っすらと汗が滲んでいる。

「大丈夫?ごめんな、無理させて」
「ううん」

額と額をこつんくっ付けて、お互いの存在を確かめ合う。
愛しい人がすぐ目の前にいる、なんて幸せなんだろうか。

「ねぇ、譲路(じょうじ)?」
「ん?どうした」
「あたし、どうしよう…」

…どうしようって…一体、何がどうしようなんだ…。
また、何か…東望には、不安が尽きない。

「どうしようって、何があったんだ」
「譲路(じょうじ)のことが好き、きっと明日は今日よりもっともっと好きになってると思う。好きって気持ちが止まらないの」

真顔で言われて、東望は一瞬意識を失うかと思った。
でも、その後にはすぐに喜びがこみ上げてくる。
世界中の全ての人々に向かって、『俺は今、最高に幸せだ!』と叫びたいくらい。

「俺こそ、どうしよう」
「え?」
「幸せ過ぎて、どうしていいかわからない」

額をくっ付けたままで、二人はクスクスと笑い出す。
思ってるだけじゃダメ、口に出して言ってしまえば簡単で、こんなにも幸せな気持ちになれるのに。

「好きだよ、冴子」
「あたしも好き」

意地っ張りな女を好きになってしまった彼、そういう彼女も好きだが、自分の前では可愛い彼女でいて欲しい…。
そんな願いを込めて、くちづけた。


To be continued...


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