JUNE BRIDE
おまけ


「マネージャー、ご結婚おめでとうございます。どうぞ、お幸せに」
「みんな、ありがと…うっ」

教会の外に出るとフラワーシャワーと共に同僚達に次々に祝福の声を掛けられ感無量、言葉に詰まって声にならない紗弥加(さやか)の肩を優しく抱き寄せる幸成(ゆきなり)。
あれよあれよという間にこの日が来てしまったが、今日だけは、都会の中に厳かに佇む教会は幸せのベールに包まれていた。

いきなりの結婚報告に加えて実は妊娠して…と聞いた時の上司の顔は、恐らく一生忘れないだろう。
それくらい、ありえないことが起きてしまったということ。
そして、相手が超の付くプレイボーイとなれば、誰もが詐欺に引っ掛かったと思ったに違いないのだ。
『本当に大丈夫なのか?』 『後悔してないのか?』とみんなに心配されたのも、今は昔。
即行、紗弥加の両親に挨拶に行った時の彼の姿は今までとはまるで別人、髪は短く刈り上げバッチリ決めた渋〜いスーツ姿には思わずノックアウトされるかと思ったし、一人娘の私のことを気遣ってか婿に入るとまで宣言したのには驚いた。
こんなにいい相手はいないと親が大喜びしたのは言うまでもないけれど、子育ては自分も協力して、いざとなれば主夫になるとまで、あんなの冗談だと思ったんだもん。
本人はかなり本気らしく社内でも既にその噂は広まって、それだけ彼の想いが深いことを認識付けたことにもなったわけだけどっ。
時間もない中、素敵な教会を探してくれたり、あの時はそこまでジューン・ブライドにこだわらなくってもいいと思ったけど、やっぱりいいもんね。

「どっこいしょっとぉ」

花嫁を抱き上げたようとした時、無意識に発せられた幸成の言葉。

「ちょっと!!そんな人を物みたいにっ」

───はっ?そりゃ、結構重いけどっ。私はトドかいっ!!
紗弥加は鋭い視線と抗議の言葉を投げつけたが、「ごめん、ごめん。つい」と幸成はさして悪気はなかったという様子。
こういう時こそ、本音が出るものだ。
確かに妊娠がわかってからというもの、食事の量が以前にも増して増えたのは否定できないが、あからさまに態度に表されるとショックが大きい。

さっきの指輪の交換の時も、きつくって入らなかったしぃ…。
体型が崩れた時の自分を想像すると怖いかも。

キッス、キッスとゲストにせがまれ、熱〜いところを見せ付ける二人だった。

+++

「溝口マネージャー、おはようございます」
「おはよう」
「式を挙げたばかりなのに、もう仕事ですか?」

「新婚旅行も無しなんですよね」と女子社員。
このお腹では旅行どころではないし、昔から休むのは慣れていないのだから仕方がない。

「あれ、指輪はなさらないんですか?」
「あぁ、なんか太ったらきつくって。それにかゆくなっちゃったから、外しちゃったわよ」

益々、手がむくんで指輪が抜けなくなったら困るからと、それに金属アレルギー?でもなかったはずなのにし慣れないプラチナだったからか、かゆくなってすぐに外してしまったのだ。

「ねぇねぇ。鷹科チーじゃなくって、溝口チーフの指輪vv。あぁもう、人のモノになっちゃったって感じぃ」と出社して来た別の女子社員。
慌てて、「ちょっ、マネージャーのいる前でっ」と彼女の口を塞いでも、もう遅い。
幸成は宣言した通り、溝口家の婿に入り、今は溝口 幸成に。
案外、本人は気に入っているようだけど。

「あら?チーフの指輪は?」
「あぁ、彼女にも聞かれてね。このお腹でしょ?きつくなって外しちゃったのよ」

「あと、かゆくなって」と、どうにも若い女子社員達には指輪のことが気に掛かるらしい。

「旦那様は、何も言いませんか?」
「別に今のところは。っていうか、気付いてないんじゃない?」

式の後、ホテルに一泊した時にすぐに外しちゃったけど、今朝も何も言ってなかったし。

「女性の場合は家事の時に外すのが面倒とか、太って入らなくなったっていう理由で身に付けなくなる人も多いようですしね」
「男性の場合は仕事なんかだと相手に信用を与えるとか、特に魅力的なチーフみたいな人だったら、女性除けにはバッチリですね」
「私の場合、このお腹じゃ誰も言い寄って来ないでしょ」

───っていうか、今まで誰も近寄りさえしなかったんだから。
だけど、彼には虫除けになって逆にいいのかも?



「ヘイ、奥さん。そろそろ、家に帰る時間だぞ?」

パソコンの画面を真剣に見ていたせいか、人がいたのすら気が付かなかったが、あまりに突拍子もない呼び掛けにびっくりして飛び上がりそうになった。

「あのねぇ、ここはどこなの?」
「ん?会社だけど」

定時を過ぎて周りにはほとんど人がいなかったから良かったものの、こんなところを誰かに見られた日には。

「ほら、体に障るからほどほどにして帰ろうぜ」

ちらっと彼の左手に光るものが目に入る。
───あぁ、私のモノなんだわ。
気にも留めていなかったけど、言われてみたらすごく実感が沸いてきた。

「なに、ニヤニヤしてるんだ」
「ふううん。私のモノになったんだぁってね。優越感に浸ってみたの」

彼の大きな手に納まった指輪のあたりを指でなぞるようにして握りしめる紗弥加。

「俺は、身も心も紗弥加に捧げたんだから」
「どっこいしょって掛け声を掛けても持ち上げられないくらい、デブになっても?」
「もちろん」

イタズラっぽく言う紗弥加に、にっこり笑ってそう言い切る彼。

「じゃあ、我が家へ帰りましょうか。愛する旦那様」

今までの自分なら、到底想像すらできない光景だろう。
この人といると人生が楽しくなっていくのだから。

後に3人の天使に出会うことになろうとは…。


To be continued...


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。

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