変わらぬ想い
Story1


「美花、お願いっ!合コン付き合って」

「ねぇ、お願〜い」と甘ったるい声を出してあたしの目の前でお願いポーズをとっているのは、親友の向坂 彩那。
あたしが聖マリア女子学院高等科に入学した時からの親友で、かれこれ5年以上の付き合いになる。
彩那はあたしと違って大人っぽくて美人系、だがいかんせん男には目がなくてこうやって毎日のように合コンばかりやっている。
もうあたし達は、3年生なのよ?
そりゃあ彩那はいいところのお嬢様だからそんな心配無用なのかもしれないけど、あたしのような平凡な家の娘は今から就職活動やっておかなきゃ、いい会社になんて入れないっていうのに…。
彼女いわく、『永久就職って手もあるわよ』なんて、冗談言ってる場合じゃないってのにね。

「却下」

あたしはそういうのにはまるっきり興味がないから、いつも速攻で断っている。
だって、合コンなんかに来る奴なんて下心丸出しだもの絶対行かないんだから。

「そう言わないでさ、美花が来てくれたら絶対いい男が寄ってくるもの。お願い、美花〜」
「ごめん、他あたって」
「どうして?美花、すっごく可愛いのにもったいないよ。青春は今しかないんだから、楽しまなきゃ」

まぁ確かに彩那の言う通り青春は今しかないんだけど、それが男っていうのもどうなのかな?
あたしには女の友情っていう方が、大事だと思うんだけどね。
なんて言葉が彩那に届くはずもなく、あたしは生まれて初めて合コンなるものに参加する羽目になった。
そして、そこで二度と思い出したくない過去を目の当たりにすることになる。

+++

週末の金曜日、ここはこじゃれた洋風居酒屋。
彩那とあたしを含めた女性4名が、先に店に足を運んでいた。

「今日の相手は上玉よ。もう美花が来るって言ったら、即OKだもんね」

既に興奮気味の彩那にあたしは、少々呆れ顔だ。
聞くところによるとレベルはそこそこだが、イケメン揃いで有名な成南大学の面々らしい。
あたしにとってはどこの大学だろうがイケメンだろうが、関係ない話だけどね。

暫くして合コンの相手である男性陣が現れたが、こちらが4人に対して向こうは3人しかいない。
『だったらあたしが来る必要なかったじゃない』と心の中でブツブツ言っていると後から遅れて申し訳なさそうに1人現れた。

え―――。

あたしはその人を見るなり、大きな目をより一層見開いた。
その人の名は、柏葉 健志。
なぜ名前を知っているかというと不覚にもあたしの初恋の相手で、人生で最初で最後の告白というものをした相手だったからだ。
それは決して少女時代の淡い思い出なんかではなく、ただの暗い過去でしかなかった。

名前を名乗れば柏葉はあたしのことを思い出すかもしれない、いや意外に記憶のいい彼のこと99%思い出すだろうという不安はあったが、今のあたしの姿を見てあの時のあたしだとわかる人間はおそらく家族や数少ない親友だけ。
それくらいあたしは、変貌していたのだから。
幸いなことに柏葉とは席が端と端だったために会話をすることもなかったから、そんな心配もない…そう思っていた矢先、柏葉が突然声を上げた。

「やっと思い出したよ!シラハマ ミカってどこかで聞いた名前だと思ったら、中学ん時に俺に告って来た女だ」

その言葉を聞いた時、一瞬目の前が真っ暗になった。
どうして、こいつはこんなに記憶力がいいのか…それは予測していたことだけど。
そんなあたしの思いなど知る由もない周りの男女は、一斉にあたしの方に視線を向けた。

―――万事休す。

とは、このことだなと妙に実感したりして…。
しかし、ことは意外な方へ向かって行く。

「それがさ、そいつすっげぇブスのくせに『柏葉君が、ずっと好きでした。付き合ってください』だってよ。まったく笑わせるよな。ここにいるシラハマ ミカちゃんとは、同姓同名でも月とスッポン、大違い」

「アハハハハ」と柏葉は、大声で笑う。
皆も口には出さないが、柏葉と同じことを思っているに違いない。
あたしは気付かれなかったことに安堵しながらも、なぜか心は晴れなかった。

あれは、あたしが中学生の頃のこと。
小学校では学区が違った柏葉とは中学で一緒になったのだが、クラスは3年間で一度も同じになることはなかった。
サッカーが得意で成績は中位だろうか、それでもいつも爽やかな笑顔を振りまいてすごくかっこよかったから女子生徒の憧れの存在だった。
例に漏れずあたしもそんな柏葉に恋焦がれた少女のひとりだったが、その時のあたしは思春期によくあるニキビ顔で、おまけに視力が極端に悪かったのとアレルギーもあってコンタクトを入れることができず、分厚いメガネをかけていてお世辞にも可愛いとは言えない。

まさしく柏葉の言う通り、すっげぇブスだったのだ。


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