買い物したいとは言ったものの特に何かが欲しかったわけではないから、なんとなくアクセサリーのお店をブラブラと覗いて見る。
するとガラスケースの中にあった、天然石が散りばめられた携帯のストラップが目に入る。
淡いピンク色の石もさることながら、ゴールドの天使のチャームについつい目がいってしまう。
「美花、これ気に入ったの?」
「うん、なんか綺麗だし、天使が可愛いなぁって」
「美花、ピンク好きだもんな。じゃあ、これ初デートの記念に俺が買ってあげる」
「え?いいよ、だって」
携帯ストラップとは言っても天然石でできているものだから、そう簡単に『うん』とは言えない金額なのである。
「大丈夫、俺これでも塾でバイトしてるんだ。結構いい金になるし、これくらい全然平気」
医大生の雅巳は週2回、塾のアルバイトをしていた。
学歴だけでも相当なものだから、生徒の成績うんぬんの前にそれだけで時給もかなり高いのだ。
「いいの?」
「いいの」
「じゃあ、あたしが雅くんにこっちのシルバーの天使の付いたのを買ってあげる。そしたら、お揃いだもん」
美花がいいなと思ったものの隣にあったのは、クリアな石にシルバーの天使のチャーム付いたものだった。
これだったら、なんとか男の雅巳でも付けられそう…か?!
近くにいた店員さんにそれを出してもらうと即買いする。
美花は雅巳の分を買うって言い張ったが、それじゃあ買ってあげる意味がないと説得させる。
その場で二人で携帯にストラップを着けると美花が、嬉しそうにそれを眺めながら店を出た。
「雅くん、ありがとう。大事にするね」
「どういたしまして」
―――こんなのあいつらに見られたら、またごちゃごちゃ言われるんだろうな…。
ストラップなんか付けたことがない携帯にこれまた可愛らしい天使がくっついていたら、絶対一言二言いちいち言ってくるに違いない。
いいんだよ、俺は美花が喜べば。
それはそれで、今の雅巳には嬉しいことなのかもしれないなと思う。
美花の笑顔さえ見られれば、周りになんと言われようとどうでもいい話だった。
こんなことを思ってしまうとは…人間、変われば変わるものなんだな。
暫くすると街は夕闇に包まれてきて、自然にブリッジの見える場所に二人の足は動いていた。
「今日はすっごく楽しかった。ケーキも美味しかったし、ストラップも買ってもらっちゃって、ほんとありがとうね」
「俺もすっげぇ楽しかった。また、来ような」
「うん」
フェンスに寄りかかっている美花と向かい合わせに立っている雅巳は、体をより密着させて美花を抱きしめる。
キスできるくらいの至近距離に雅くんの顔があって、あたしは目のやりどころに困ってしまったが、あまりに優しい雅くんの表情に自然に引き込まれていく。
心臓の鼓動が早くなって、体中が熱に侵されてしまったように熱い。
「美花、好きだよ」
雅くんに囁くように耳元で言われると全てが溶けてしまいそうになる。
「あたしも、雅くんが好き」
何度この言葉を繰り返しても足りないくらい、お互いのことが好きで好きでたまらない。
自然に唇と唇が重なり合おうとしていた時、美花が雅巳の口に手をあてた。
「あっ、待って。人が見てる」
こんな人の多い場所でキスなんかしていれば、誰かに見られてしまう。
「大丈夫だよ、もう暗いし。それに見てごらん、みんな俺達と同じだから」
雅くんに言われてチラっと周りを見てみると考えることはみんな同じようで…。
「ほら美花、目を瞑って」
今度は、素直に目を閉じると柔らかいものが唇に触れた。
唇を挟むように何度も何度もキスされて、後ろにフェンスがなかったら立っているのもやっとなくらい。
どれくらいそうしていたのか、雅巳は名残惜しさを感じつつも唇を離すと目を潤ませている美花が視界いっぱいに飛び込んでくる。
またもや『忍耐』という言葉が脳裏を掠めた雅巳だったが、こんなふうにゆっくりと愛を育んでいけたらいいなと思う。
美花は恋愛初心者かもしれないが、経験はあっても本気で人を愛したことがない雅巳にとってもそれは同じことだから。
END
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