変わらぬ想い
Story6


そう言えば、あれから一度も会っていなかったあたしのこと、どうして雅くんはわかったんだろう?

「ねぇ、雅くんはずっと会ってなかったのにさっき、どうしてあたしだってわかったの?」
「え?あぁ、うちのお袋と美花のお母さんってすっげぇ仲良くてさ、しょっちゅうお互いの家を行き来してただろ」

家が近所ということもあったが、雅くんのお母さんとあたしのお母さんはすごく仲が良くて、暇さえあればお互いの家に行って話に花を咲かせていた。

「あれは、高校に入って暫く経ってからかな。お袋のヤツ、夕飯時だってのに美花の家に行ったきり帰って来ないんだよ。親父と二人じゃ何にもできないしさ、仕方なく俺が迎えに行ったんだ。その時にたまたま美花のあれは文化祭か何かの写真だったと思うんだけど、見せてもらったんだよ」

高校は寮だったからあまり家に帰ることがなくて、文化祭の時に両親が見に来てせっかくだからと写真を撮っていったんだった。

「あんまり可愛くなっちゃって、ほんとびっくりしたんだからな。俺ひとり置いてかれたような気がしてさ、その後美花に似合う男になってやる!って、頑張ったんだ」

雅巳は写真に写っている別人のように可愛くなった美花を見て柏葉の件もあったから、いい男になって美花を今度こそ自分に振り向かせてみせると頑張った。
その甲斐あって、なんとかそこそこいい男になったと自分では思っているのだが…。

「そうなんだ。雅くん、すっごくカッコよくなったよ、柏葉君なんて目じゃないくらいにね」
「ほんとか?」
「うん」

嬉しそうに微笑む雅くんは、誰が見てもものすごくカッコいいと思う。

「今なら、自信持って美花に告れるかな」
「へ?」

告れるかな、って…。
いきなり言うから、変な声出しちゃったじゃない。

「俺、ずっと美花のこと好きだった。誰とも付き合ってなかったら、俺の彼女になってくれないかな」
「雅くん…」

さっき堪えたはずの涙が、美花の瞳からまた溢れ出す。
でも今度は悲しいからとか悔しいからではない、心から嬉しくて泣いているのだから。

「美花っ、何で泣くんだよ」

雅巳は、思わず美花を自分の腕の中に抱き寄せた。
泣かせるはずじゃ、なかった。
ただ、どうしても自分の気持ちを伝えたくて…。

「ごめんね、すごく嬉しくて。こんなあたしでも雅くんは、ずっと好きでいてくれたなんて」
「ってことは…」

脈はあると思っていいのだろうか?
雅巳は、美花の言葉を待った。

「あたしで、いいの?」
「美花が、いいんだよ」

雅巳は、美花の頬を伝う涙を指でそっと拭うとその跡をなぞるように唇を落とす。
そして、最後にゆっくりと美花の形のいい小さな唇に自分のそれを重ねた。
雅くんに何度も何度も啄ばむようにくちづけられて、あたしは今まで感じたことのない感情をどう受け止めていいかわからない。
本当のあたし自身を知って好きになってくれた相手とのキスは、こんなにも心地いいものだったなんて。

「雅くん、あの…あのね」

あたしは、今まで誰とも付き合った経験がない。
キスだって、今のがファーストキスだって言ったら、雅くんどう思うかな?

「どうした?」
「うん…」

雅くんは、あたしが口篭もってしまったことに不安げな表情を見せる。

「あのね。あたし、今まで誰とも付き合ったことないの。キスも今のが、初めてで…。おかしいでしょ、二十歳過ぎてこんなの」

雅くんは、驚いた表情であたしを見てる。
そりゃそうよね、今時高校生だってもっと先まで経験済なのにこんな化石みたいな女、雅くん面倒に決まってる。

「美花、それ本当か?」

あたしは小さく頷くだけで恥ずかしくって、雅くんの顔をまともに見ることができない。
そんなあたしを他所に雅くんはさっきまでの驚いた顔から、一気に頬を緩ませた。
そりゃあそうだろう、男にとって自分が初めてなんて嬉しすぎる。
ましてこんなに可愛い美花が、まだ誰にも触れられていなかったなんて、信じられるはずがない。

「美花、俺今めちゃめちゃ幸せなんだけど」
「え?」

そっと、顔を上に向けると目の前に満面の笑みをたたえた雅くんの顔がある。

「だって、美花のファーストキス、俺がもらっちゃったんだから」
「軽蔑、しないの?」
「するわけないだろう。どうして、そんなこと言うんだ?」
「だって…」

こんなふうに言われて、嬉しい気持ちとここまで奥手な自分になぜだか引け目を感じてしまう。

「俺は、嬉しいよ。美花は可愛いから、絶対誰かのものになってるって思ってた。なのに、初めての男が俺なんてさ。それより、美花はいいのか?初めてが俺で」
「雅くんが、いいの」

上目遣いに少し潤んだ目で見上げられて、『雅くんが、いいの』なんて言われれば理性などきくはずもなく…。
雅巳は、さっきとは違う深いくちづけを美花に注ぐ。
男だからそれなりに経験はあったけれど、こんなに心地いいキスは今までしたことがない。
離そうとしてもつい名残惜しくて、美花が苦しかったのか吐息を吐いたところにすかさず自分の舌を入れる。
初めての感覚に美花は一瞬身を硬くしたが、それでも雅巳はやめなかった。
というより、やめられなかったという方が正しいだろう。
それに答えるように美花もぎこちなくだけど、舌を絡めてくる。
暫くの間、美花の唇を堪能していた雅巳だったが、さすがにこれ以上は無理だ。
美花は何もかもが未知の世界なのだから、ゆっくり焦らず進めていかないと彼女を壊しかねない。

「美花、大丈夫?」
「う…ん。ごめんね、あたし」
「美花が、謝る必要なんてないんだよ。すぐに慣れるだろうしね」

美花は、一気に頬を赤く染める。
慣れるなんて…無理。
ただでさえ、心臓がドキドキして体に悪いっていうのにこんなことを毎回されてはどうにかなってしまいそうだ。

「俺は男だから、美花を今すぐにでも抱きたいって思ってる。でも、美花が俺でいいって思えるまで待つから」

抱きたいなどと言われてさっき以上に赤くなる美花だったが、待ってくれるという雅巳の気持ちが今はとても嬉しかった。

「ありがとう、雅くん。あたしの初めてをもらってくれるのは雅くんだけだから、もう少しだけ待ってて」
「あんまり長いのは無理かもしれないけど、美花を大事にしたいから」
「雅くん」

こんなに可愛い美花を前にして、正直どこまで抑えられるものか…。
―――忍耐だな。

「美花、好きだよ」

もう一度、唇が触れるか触れないかのキスを美花に贈る。
ずっと、彼女のことだけを思って過ごしてきた。
あの日傷ついた彼女をどうしてあげることもできなくて、それでもこの想いだけは永遠に変わらない。
愛してるよ、美花。


END


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