「聞いても、いいか?」
雅くんは、真剣な眼差しでそうあたしに問いかけた。
さっき、突然泣き出した理由が気になるのだろう。
「さっきまで、合コンしてたの。本当は嫌だったんだけど、友達にどうしてもって頼まれて。雅くん覚えてない?中学の時クラスは違ったけど、一緒だった柏葉君のこと」
「柏葉って…」
雅くんには、すぐに柏葉が誰かわかったようだ。
一瞬だが、眉間に皺がよった。
「相手のメンバーの中に偶然、柏葉君がいたの。彼はあたしのことわからなかったみたいだけど、名前はしっかり覚えてて…」
「あいつになんか、言われたのか?」
「言われたっていうか、中学の時に同姓同名の子が、すっげぇブスのくせに『柏葉君が、ずっと好きでした。付き合ってください』だってよ。まったく、笑わせるよな。ってまるで、他人事のように話してたけど」
「くそっ。あいつ、いくら目の前にいるのが同じ美花だって気付いてなくても、そういうこと人前で平気で話すなんて男として許せないっ」
雅くんは、持っていたウーロン茶を勢いよく飲み干すとグラスをガンッとテーブルの上に叩きつけるように置いた。
あたしのために雅くんは怒ってくれているのだと思うと胸の奥がジンと熱くなる。
「でもね、そのことはもういいの。問題は、その後に彼があたしと二人っきりでどこかに行かないかって、誘ってきたこと」
「あいつ!この期に及んで、まだそんなことをっ」
「外見が違うだけで人の態度ってこんなにも違うのかなって、中身は同じなのにね。そう思ったら、すごく悲しくて悔しくて。あの時でさえも涙なんて、出てこなかったのに…」
思い出したらまた涙がこぼれそうになったけど、雅くんに心配かけるからなんとかそれをグッと胸の奥に押し込めた。
「あたし、どうして雅くんを好きにならなかったんだろう」
無意識に出た言葉だったが、どうして今まで気付かなかったんだろう?
あたしは、美花という名前が大嫌いだった。
ちっとも美しい花なんかじゃない、その逆で親には悪いけど、どうしてこんな名前を付けたのだろうと恨むことさえあった。
そんな全然自分に合っていない大っ嫌いだった美花っていう名前を『綺麗な名前だねって』唯一、褒めてくれたのは雅くんだけだった。
雅くんはいつだって優しく接してくれて、あたしのこと守ってくれたのに…。
これじゃあ、外見でしか人を見ない柏葉とあたしは同じじゃない。
いや、それ以下だ…。
「柏葉君のこと責める資格、あたしにはない…」
「美花…」
あたしは、馬鹿だ。
今になって…もう遅いのに…。
「今からじゃ、ダメなのか?」
「え?」
雅くんの言葉にあたしは、反射的に顔を上げた。
今からって…。
「俺さ、美花がまさかあそこで柏葉に告るとは思わなかったんだよ。美花は絶対俺のこと好きに決まってるって信じてたから、あの時すっげぇショックだった」
「夏休み中落ち込んで、模試の成績下がったの全部美花のせいだったんだからな」って、雅くんは髪の毛をガシガシと掻き毟る。
えええぇ?!
だって、雅くんはあの頃隣のクラスの理沙ちゃんが可愛いって言ってたじゃない??
「嘘?だって、雅くんはあたしのことなんてなんとも思ってなかったんじゃないの?隣のクラスの理沙ちゃんが可愛いって、口癖のように言ってたじゃない」
「それは、言葉の文ってやつだろう」
「そんなこと、知らないもん」
柏葉に夢中だったあたしは、雅くんの気持ちなんて気付くはずもない。
あんなブスだった頃のあたしを好きでいてくれたなんて…。
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