「美花、俺のアパートすぐそこだから。少し、休んでくか?」
そんな顔で歩いてたら、マズイだろう?って…。
雅くんの言う通り、きっと今のあたしは目なんか思いっきり腫れて、見るも無残な顔に違いない。
「う…ん。でも、いいの?」
「いいよ、あまり綺麗じゃないけどな」
雅くんはそう言って笑いながら、あたしを自分の住むアパートまで連れて行ってくれた。
繁華街を少し入ったところに雅くんのアパートがあった。
真新しい5階建ての建物で、セキュリティもしっかりしてる学生専用の住まいらしい。
エレベーターに乗って彼の部屋は最上階の真ん中だったから、両端の部屋の住人がいっつも騒いでて煩いんだよと少し不満気味。
それでもロフトもあって景色もいいし、気に入ってるんだと言っていた。
10畳ほどのフローリングの部屋には、壁際にノートパソコンの載った机とテレビ、本がたくさん山積みになっている。
そして真ん中にはローテーブルというシンプルだけど、なんとなくそれが雅くんらしいなと思った。
「適当にその辺に座ってて。何もないけど、ウーロン茶でいい?」
「うん」
あたしはテーブルの側に座って、部屋の中を見回していた。
「どうぞ」
雅くんは、ウーロン茶の入ったグラスをあたしの前に差し出した。
「ありがとう。ねぇ、雅くんはどうしてひとり暮らししてるの?」
ここに住んでるってことは、近くの学校に通ってるのよね?
それなら、自宅からでも十分通える距離のはず。
「あぁ、大学まで通うのがちょっと遠かったからね。それに医学部だから、勉強が大変かなって思って」
お父さんは医院を開業しているから、その1人息子である雅くんは跡を継ぐのだろう。
「雅くんは、小さい時から医者になるって言ってたもんね。すごいね、夢叶えたんだ」
「まだまだ、先は長いけどな」
雅くんは昔から勉強がすごくできたから医者には絶対なれるって思ってたけど、ちゃんと夢を叶えるなんてすごいな。
「ところで、大学はどこなの?」
「帝都大だよ」
「えええぇ?!」
帝都大と言えば日本で一番入学が難しい大学で、医学部はその中でも頂点に位置する。
そんな大学に入っちゃう、なんて…。
「美花、そんなに驚かなくてもいいだろう?」
雅くんは至って平然としてるけど、普通驚くでしょう?
幼馴染が帝都大、それも医学部に通っているのよ?
「だって、雅くんスゴ過ぎるんだもの。帝都大なんて」
「そう言う美花だって、聖マリア女子大に通ってるんだろう?」
「そうだけど…あたしなんて、雅くんに比べればたいしたことないし」
「そんなことないだろう?美花は、高校受験の時にすごく勉強してたじゃないか。高校からあそこに入るって、すごく大変だって聞いてる。すごいなって、思ったよ」
え?
まぁ確かにあの時は大変だったけど、それと帝都大に入るのとでは大違いじゃない。
それにあたしは付属だから、大学受験ってものをしてないし…。
「俺、あの時の美花に負けないように勉強したんだ。先生に帝都大は無理だって言われたけど、絶対受かってやるって」
そうだったんだ…。
「美花は、今どうしてるんだ?高校は寮だって、聞いたけど」
「うん、あたしも大学に近いところに部屋を借りて今はひとり暮らししてる。なんか一度出ちゃったら、家に戻るの面倒になっちゃって」
本当は、あの家に戻りたくなかった。
中学の時の仲間のいるあの場所には…そして。
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