今日は、ツイてない。
朝から寝坊するし、電車は目の前でドアが閉まって乗り遅れるし。
おまけに雨だったから、髪はボサボサ、車に水はハネられるし。
某テレビの占いだって、一番ツイてる日だったはずなのに何でよ!
あたしが、何したっての!!
はぁ…。
早く帰りたいな。
なのにこんな日に限って、残業なんてね。
ツイてない日って、最後までとことんツイてないのね。
「あれ?珍しい人がいると思ったら、麻野さん残業?」
その声は、同じ部の町田さん。
「見ればわかると思いますけど」
あたしは、つっけんどんに言葉を返すと彼のことなんて無視して仕事を黙々と続ける。
「随分とまぁ、ご機嫌斜めだな」
彼は、苦笑しながら空いていた隣の席に腰を下ろした。
何よ、人が真面目に仕事してるってのにこの人はからかいに来たわけ?
町田さんはいつもこうやって、あたしにちょっかい出してくる。
あたしより3歳年上で、周りに言わせるとクールで仕事ができてカッコいいらしい。
だけど、あたしにはただのイジワルな先輩にしか見えないんだけどね。
「あたし、今日は最悪ツイてないんです。だから、側にいるとうつりますよ」
ちらっと横目で彼を見て言う。
「俺は、今日最高にツイてるから大丈夫だ。俺が、ツキを分けてやるよ」
ニヤリと笑う彼の顔が視界に入る。
人がツイてないってのに何を言うか、この人は。
「だったらそんなところで油売ってないで、さっさと仕事するなり帰るなりしてくださいよ」
あたしは、忙しいんですから。
「早く仕事終わらせろよ。腹減った、飯食いに行くぞ」
はぁ?何なのよ一体。
呆れて言葉も出てこないわ。
あたしは、手を止めて身体を彼の方に向ける。
「何であたしが、町田さんとご飯食べに行かなきゃならないんですか?
それにあたしじゃなくても他にいくらでも一緒に行ってくれる人いるんじゃないですか?」
「馬鹿だなぁ、俺はお前と飯が食いたいの。そのくらいわかれよ、俺も手伝ってやるから」
馬鹿ってなによ!馬鹿って!
「いいですよ。一人でやりますから、もう放っておいてくださいよ」
すると彼は、あたしの手から書類を奪い取ると「これチェックすればいいのか?」って、
勝手に手伝い始めた。
あたしは、溜め息をひとつ吐いて頷くと残りの仕事を片付ける。
さすがに彼は、仕事ができるだけあって手際がいい。
なんだかんだいって、あっという間に終わってしまった。
「よっしゃっ。これでOKだ」
「すいません、手伝ってもらって」
「いいよそんなこと。それより早く行こうぜ、俺すっげえ腹減った」
なんか子供みたい、この人本当にあたしより年上なのかしら?
思わず笑みがこぼれてしまった。
あぁ、やっぱりあたし、この人好きなのかもしれないわ。
「何だよ。そんな笑顔で見つめられると調子狂うだろ」
「まぁ、いいじゃないですか。さぁ、早く行きましょうよ」
あたしは、この気持ちを悟られないためにポンっと彼の背中を押した。
今日はツイてない日のはずだったけど、やっぱり彼がツキを分けてくれたのかな?
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