12月に入ると、街はすっかりクリスマス一色。
色とりどりのイルミネーション―――。
今年は、ひとりで過さなくてもいいのかな。
プレゼント、何にしよう…。
何年になるだろう?随分と寂しいクリスマスを過したなとしみじみ思ったりして…。
でも、あの人からは何も誘いがないのよ。
っていうか、昨日なんていきなりこんなことを言うんだからっ。
「あのさ、俺。イヴの日から出張入っちゃった。だから、クリスマスなしな」
「えっ、日曜日なのにですか?」
「そうなんだよな。次の日、朝一番からの打ち合わせでさ。26日まで戻れないんだ」
何よっ、それ。
聞いてないわよ、そんな話。
「クリスマスなんて、俺達の柄じゃないしな」
「柄とか、そういうものなんですか?」
「そういうものだろ。だいたいな、チキンとケーキ食って、何が楽しいんだ」
チキンとケーキって、言うけどねぇ…それは、好きな人と食べるから楽しいんじゃないのっ。
「町田さんは、ちっともロマンチックじゃないんですね」
「俺が、そんな男に見えるか?」
「見えません…」
「だろ?」
否定できないところがなんというか、そういうところが彼らしいのだろうけど…。
でも、でも…だったら、せめて23日にとか言ってくれてもいいんじゃないの?
彼を見ていると出張が入って嬉しそうに思えるのは、気のせい?
は〜ぁ…。
なんだかんだいって結局、今年もひとりなんだわ。
仕事なんだから、しょうがないけど、けど…。
せっかく、彼氏ができたと思ったのに…。
いいわよ、ひとりでチキンとケーキ食ってやるっ!
心の中で、叫んだのだった。
☆
あれ?町田さんと課長。
通りかかると町田さんと課長が、何やらひそひそ話してる。
何かしら?
「出張、25日の夜までになんとか帰れないですかねぇ」
「だよな。俺も子供になんて言って行けばいいのか、困ってるんだよ」
「課長のうちは、お子さん小さいですからね。楽しみにしてるんでしょ?クリスマス」
「そりゃもう、サンタさん来るかなって毎日言ってるからな」
課長のお子さん、男の子と女の子の双子で可愛いのよねぇ。
サンタさん来るの、待ってるのかぁ。
あたしも待ってるんだけど…。
「そう言えば町田、彼女ができたって言ってたもんな。出張の話は、したのか?」
「しましたよ。俺は、クリスマスなんて柄じゃないって誤魔化しましたけど…」
「本当は、一緒に過したかったんだろ?」
「そりゃ、そうですよ。俺だって、彼女と甘い夜を過ごしたいですからね」
「かーっ。くさい台詞をまぁ、よく言うな」
町田さん…本当は、そんなふうに思ってくれてたのね。
なんか、嬉しいかも。
「多分、俺達だけじゃないと思うんだよ。一応、言ってみるわ。『お父さんなんて、嫌い!』とか言われたくないから」
そう言うと課長は、去って行った。
「あれ?麻野さん。そんなところでボーっとして、熱でもあるのか?」
「いいえ」
「そっか?ならいいけど」
彼はあたしのおでこに手をあてて、熱がないのを確認してる。
そんな彼の手を取ると、あたしはすかさずくちづける。
一瞬、『えっ?』って驚いた顔をしたけど、あたしは知らないふりをして前を通り過ぎる。
町田さん、やっぱりあなたのことが好きです。
この言葉は、クリスマスまで取っておきますからね。
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