SLS
No.6 クリスマスを前に


12月に入ると、街はすっかりクリスマス一色。
色とりどりのイルミネーション―――。
今年は、ひとりで過さなくてもいいのかな。
プレゼント、何にしよう…。
何年になるだろう?随分と寂しいクリスマスを過したなとしみじみ思ったりして…。

でも、あの人からは何も誘いがないのよ。
っていうか、昨日なんていきなりこんなことを言うんだからっ。

「あのさ、俺。イヴの日から出張入っちゃった。だから、クリスマスなしな」
「えっ、日曜日なのにですか?」
「そうなんだよな。次の日、朝一番からの打ち合わせでさ。26日まで戻れないんだ」

何よっ、それ。
聞いてないわよ、そんな話。

「クリスマスなんて、俺達の柄じゃないしな」
「柄とか、そういうものなんですか?」
「そういうものだろ。だいたいな、チキンとケーキ食って、何が楽しいんだ」

チキンとケーキって、言うけどねぇ…それは、好きな人と食べるから楽しいんじゃないのっ。

「町田さんは、ちっともロマンチックじゃないんですね」
「俺が、そんな男に見えるか?」
「見えません…」
「だろ?」

否定できないところがなんというか、そういうところが彼らしいのだろうけど…。
でも、でも…だったら、せめて23日にとか言ってくれてもいいんじゃないの?
彼を見ていると出張が入って嬉しそうに思えるのは、気のせい?

は〜ぁ…。
なんだかんだいって結局、今年もひとりなんだわ。
仕事なんだから、しょうがないけど、けど…。
せっかく、彼氏ができたと思ったのに…。

いいわよ、ひとりでチキンとケーキ食ってやるっ!
心の中で、叫んだのだった。



あれ?町田さんと課長。
通りかかると町田さんと課長が、何やらひそひそ話してる。
何かしら?

「出張、25日の夜までになんとか帰れないですかねぇ」
「だよな。俺も子供になんて言って行けばいいのか、困ってるんだよ」
「課長のうちは、お子さん小さいですからね。楽しみにしてるんでしょ?クリスマス」
「そりゃもう、サンタさん来るかなって毎日言ってるからな」

課長のお子さん、男の子と女の子の双子で可愛いのよねぇ。
サンタさん来るの、待ってるのかぁ。
あたしも待ってるんだけど…。

「そう言えば町田、彼女ができたって言ってたもんな。出張の話は、したのか?」
「しましたよ。俺は、クリスマスなんて柄じゃないって誤魔化しましたけど…」
「本当は、一緒に過したかったんだろ?」
「そりゃ、そうですよ。俺だって、彼女と甘い夜を過ごしたいですからね」
「かーっ。くさい台詞をまぁ、よく言うな」

町田さん…本当は、そんなふうに思ってくれてたのね。
なんか、嬉しいかも。

「多分、俺達だけじゃないと思うんだよ。一応、言ってみるわ。『お父さんなんて、嫌い!』とか言われたくないから」

そう言うと課長は、去って行った。

「あれ?麻野さん。そんなところでボーっとして、熱でもあるのか?」
「いいえ」
「そっか?ならいいけど」

彼はあたしのおでこに手をあてて、熱がないのを確認してる。
そんな彼の手を取ると、あたしはすかさずくちづける。
一瞬、『えっ?』って驚いた顔をしたけど、あたしは知らないふりをして前を通り過ぎる。

町田さん、やっぱりあなたのことが好きです。
この言葉は、クリスマスまで取っておきますからね。


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