SLS
No.7 新年


1月1日0時

今年は両親がお正月を海外で過ごすからと、実家にも帰らずあたしはこのアパートでひとり新年を迎えることになった。

なんか、寂しいなぁ…。
町田さん、今頃何してるんだろう…。

あの人のことだからきっと、友達と散々飲んで今頃は年越しも忘れて寝ているのかもしれない。
だから、メールなんて気の利いたものも送ってくるわけないし…。
そういうあたしも送らないんだけど…。

と、そんなことを考えているとテーブルの携帯が鳴り出した。

うそ…町田さん!?

この着信音は、なんとなく彼に合っている様な気がして専用に設定していたもの。
ちょと恥ずかしくて、人前ではあまり鳴って欲しくないんだけど…。
っていうか、彼が掛けてくることなんて滅多にないし。

「もしもし」
『こんな夜中にごめん』
「どうしたんですか?」
『ちょっと、声が聞きたくて。っつうか、明けましておめでとう』

声が聞きたくて…。
思ってもみなかった彼の言葉に正直、驚いて声が出ない。
だいたい、酔ってないじゃない。

「明けましておめでとうございます。どうしたんですか?町田さんから、珍しい」
『お前なぁ、新年早々珍しいってなんなんだよ』
「だって、てっきり酔っ払って寝てると思ってたので」
『いつもならそうだけど、今年は違うだろ』

何が、違うのだろう?
本当はツッコミたかったけど、今はやめておくことにする。

『そんなことを言うために電話したんじゃないんだよ。実は今、下に来てるんだ』
「え?下って…家の?」
『あぁ、ちょっと出てみないか?ドライブでもさ。星が綺麗だし』

予想外過ぎて、どうしていいかわからないとはこのことだろう。
彼が、すぐ側まで来ていたなんて…。

「わかりました。少し待っていてもらえますか?」

電話を切ると、あたしは急いで身支度を整える。
前もって連絡をもらえれば着物でもと思いつつ、一番お気に入りのワンピースに着替える。
そして、薬指には彼からクリスマスにもらったダイヤのリング。
あの日、出張だって言ってたけど、彼は課長に頼んでなんとか戻って来るとぶっきらぼうに渡された物。
あたしとしたことが、嬉しくて思わず涙してしまったのよ。

階段を下りると彼の姿が見える。

「ごめんなさい。お待たせして」
「思ったより、早かったけど」

この寒空の下、彼は外に出て煙草を吸っていた。
わざわざ、あたしを待っていてくれたの?

「町田さん、外に出ていたら寒いですよ」
「これくらい、全然平気」

あたしが、頬に触れるとものすごく冷たい。
その上に重ねられた彼の手は、もっと冷たくて…。

「全然平気じゃないですって。早く車に乗ってくださいよ」
「結衣の手、温かいな」
「そんなこと、言ってる場合じゃ…」

抱きしめられて、唇を塞がれた。
初めは少し冷たかったけど、段々とあたしの熱が彼に伝わっていって…。

「…っん…ぁっ…まち…だ…さ…んっ…」
「陽だろ」

この際、名前なんて…。
…でも、彼はさっき結衣って呼んでくれた。

「…あ…き…らっ…」
「今年からは、そう呼ぶこと」

再び、彼の唇が重なる。
ちょっとイジワルだけど、やっぱりそんな町田さんが…じゃなくて陽が好き。

今年もよろしくお願いします。


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