桜の花の咲く頃に
Story13


SSRも今はすっかり鳴りを潜め小康状態を保っていたが、いつ何時動き出すかわからない。
恵と一輝は、独自にネット回線を利用して彼らの情報を集めていた。
―――何でもいい、どんな些細なことでも。

「警視長、副総監がお呼びですが」

パソコンの画面を食い入るように見ていた恵は電話が鳴ったことにも気付かなかったが、呼ばれて顔を上げると一輝が受話器の話す方の口を押さえている。

「わかったわ。すぐ行くと伝えて」

「はい」と一輝はアランにその旨を伝え、電話を切る。

―――ボスが呼んでるってことは、何かあったのかしら?
すぐに席を立った恵と共に一輝もアランの元へ。

神妙な面持ちで一輝が副総監室のドアをノックしようとすると、中からアランの大きな笑い声が…。
『???』
二人は顔を見合わせて首を傾げるが、取り敢えずノックをして中へ入る。

「失礼します。お呼びでしょうか、ボス」
「おぉ。ケイ、カズキ。待ってたぞ」

本当に待ちわびていたようなアランの台詞ではあったが、先客が来ていたようでソファーでくつろいでいた。
笑い声の正体は、どうやらその人物らしいが、恵と一輝からは死角になっていて相手の顔を見ることができない。

「あの、お客様なら―――」
「いや、彼を紹介するためにここへ来てもらったんだ」

そういうことならと恵と一輝はアランの側まで行くが、その紹介したいという相手は場違いにラフな格好で…。
―――だって、Tシャツにジーパンよ?
そんな姿でここへ来るなんて、一体誰なのかしら…。

「もっと早く来てもらう予定がこんなに延びてしまったのは、モスクワも間際になって急に彼を手放したくないなんて言い出したものだから」
「あっ、あなた…」

―――昨日の無謀なバイクの…。
何で、あの人がここに…。
ん?今、ボスはモスクワもって言ってたわよね?ということは、もしかしてこの人が警視監―――。

「何だ。ケイは、カズを知っているのか?」
「カズ?」
「あぁ、ヤマセ警視監だよ。カズアキだからカズ」

やっぱりと思ったが、恵は山瀬を知っているというほどでもなくたまたま顔を見たというだけ。
それにしても、あの人が山瀬警視監だったとは…。
なんという、偶然のめぐり合わせなのか…。

「いえ、昨日ちょっと」
「始めまして、ではないようですが。モスクワ支庁から来ました山瀬です。よろしく」

山瀬は昨夜のことを覚えていないのだろう、ソファーから立ち上がると恵に握手を求める。
一輝と同じくらいの長身で、ガッシリと見るからに鍛え上げられた肉体。
そして、30歳という年齢から大人を感じさせるかなりのいい男。

「こちらこそ、よろしくお願いします。笹川です」
「ボスから聞いていた以上だな」
「は?」

何が聞いていた以上なのか…。
というか、ボスは恵のことをどんなふうに彼に話していたのかという方がものすごく気になって…。

「まぁ、カズも日本は久し振りだろうから、これからのことは少し落ち着いてからにしょう。そうだ、ケイの歓迎会もまだだったし、みんなでパーッと。もちろん、柿本の奢りでな」

高らかに笑うアランに恵も一輝も苦笑するしかない。
山瀬の表情からは読み取れなかったが恐らく二人と同じ、ここにいない警視総監がちょっぴり気の毒かも。

「そうですね。まず、チームワークから作り上げないと」

「じゃあ、早速」とアランと山瀬は、妙に意気投合している。
こんなメンバーで飲みに行くのも、ある意味すごい。
これは、一輝の感想だったが…。
ひとまず、世界に散らばっていた精鋭達が東京に集められたわけだし、いよいよSSRとの対決が始まっていくのだろうか。

+++

週末、ホテルからやっとマンションへと引っ越すことができた恵。
ベッドではなく布団を敷いて眠る心地良さに思わず寝坊しそうになるほど。
一輝は全ての家財道具を纏めるには少し時間が掛かるからと、引っ越して来るのはもう少し先になる予定。
それまではまた、ここまで迎えに来させることになって迷惑を掛けてしまうなと、それだけが恵にとっては気掛かりだった。

「よっ」
「山瀬警視監、どうして」

新居から初出勤の朝、恵がエレベーターを降りるとエントランスには山瀬の姿が。
―――どうして、山瀬警視監がこんなところにいるのかしら…。
しかし、相変わらずのラフな格好はどうなんだろう
モスクワでもこれで通していたのか、彼らしいといえば彼らしいのかもしれかいけれど。

「おはよう」
「おっ、おはようございます」
「聞いてなかった?俺もここに住んでんだよな」
「えっ」

―――ワザとボスは、言わなかったんだわ。
一輝のこともそうだったけど、山瀬が同じマンションに住んでいることを恵に教えなかったのはボスのしわざに違いない。
二人でここを見に来た時に偶然会ったのは、偶然ではなく必然だったのかもしれない。

「高梨が越して来るまでは、俺が運転してやるよ。そういう話になってるのも、聞いてなかったか?」
「えっ、警視監が?全然」

そうくるとは、思わなかった。
―――彼が運転するのだったら、自分が運転しても同じなのに…。
というか、あんな危ない運転をされてはたまったものじゃない。

「遠慮しておきます」
「何で。少々荒いけど、腕は確かだぞ?」
「警視監はダメです。あんな危ない運転。それなら、私がしますから」

警察官とあろうものがあんな乱暴な運転では、いつ事故が起こるかわからない。
それに彼の方が上司なのだから、部下が運転するのは当たり前。
スタスタと先に歩いて行ってしまう恵の後を自覚はあったのだろうか、仕方なく付いて来る山瀬。

―――でもねぇ、高梨君といい山瀬警視監といい、なんだかいい男が周りにい過ぎじゃない?
傍から見れば、かなりおいしい生活のように思えるけど…。
これから待ち受けているであろう得体の知れない恐怖を考えれば、浮かれている場合ではない。

ピッカピカの新車を前に恵は、新たな決意を胸に抱くのだった。


To be continued...


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※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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