IMITATION LOVE
LAST STORY


「いよいよね」
「うん、長いようで短かったかな」

今日は、いよいよ映画のクランクアップの日。
こうしてこの日を迎えると、長いようで短い時間だったなと莉麻と綾子は思う。
特に莉麻にとっては長い間音信不通だった元恋人の総司との再会、その彼がこの映画の映像カメラマンをしていたということもあって、一層感慨深いものがあった。

「いいなぁ。もちろん、莉麻も行くんでしょ」
「最後だから、一応ね。でも、バタバタして終わると思うけど」
「総司さんとは…あれから、どうなってるの?」

あれから二人がどうなっているのか気になっていた綾子だったが、なかなかそれを聞く機会がなかった。
まぁ、今の彼との結婚話が進んでいる以上、元に戻るとかそういうことにはなっていないのだろうけど…。

「この間、ちゃんと話をしたの。結婚することも。もちろん、命承諾の上でね」

総司とは今まで思っていたことを全て話し、お互いそれぞれの人生を歩む。
そして彼は映像カメラマンとしての夢を叶え、莉麻は命と共に生きていく。

「そっか」
「この映画をきっかけに総司も、売れっ子カメラマンになってくれればいいんだけど」
「大丈夫よ。林監督が目を付けたんだもの、これから色んな映画のテロップに総司さんの名前が載るようになるわ」
「なんだか、別の世界の人みたいね」

日本だけでなく、総司ならきっと世界に通用するようなカメラマンになるはず。
―――そうしたら、普通に話なんかできなくなるわね。
それもまた寂しいけど、友達として応援してあげなきゃ。



莉麻が空港へ足を運ぶと、クランクインの時以上に取材陣がたくさん集まって来ていた。
この映画の期待の高さを表しているのかもしれない。
そして、莉麻は撮影を終えて総司が飛行機から降りて来るのを花束を手に抱えて、今か今かと待ちわびていた。

それは、今から30分ほど前にさかのぼる。

「里中さん、出演者の方に花束を渡すのを手伝っていただけますか?」

そう、莉麻に声を掛けたのは東洋映画社の女性。

「私が?」

関係者といっても、莉麻は撮影スケジュールを組むだけ。
もっと相応しい人は他にもいるはずなのになぜ莉麻に?

「ええ、カメラマンの日渡さんとお知り合いなのかなと思いまして。お話しているところを見掛けたもので」
「そうですか。彼とは、大学時代の先輩後輩なんです。会うのは、5年ぶりなんですけどね」

こんなふうに総司とのことを第三者に話すのは初めてだった。
別に隠していたわけでもないが、なんだか気軽に話すことができなかったのは、少なからず今までのことがあったから。
でも、今はそんなこともなく、すっきりした気持ちで話せるのは、命がいてくれるからに他ならない。

「そうなんですか?林監督が、彼をどうしてもと言われましてね。ただ、誰も彼の実力を知らないものですから、最初は社内でも上層部がなかなかウンと言わなかったんです」

単身アメリカに渡った彼が作品を発表したのは極わずか、それを知っている者はほとんどいなかったから、反対するのも無理はない。
しかし、林監督はいち早く彼の才能を見抜き、今回の撮影を依頼したのだ。

「どうなんでしょう、彼は…」

そんなことを言われてしまうと、友人として非常に心配になってくる。
もしも、思うような作品に仕上がっていなかったら…。

「ご心配はいりません。林監督は、今までの作品の中で最高の出来たと言ってました。日渡さんでなければ、恐らく無理だろうと」
「本当ですか?」
「ええ。初めこそ、そうでもなかったのですが、うちでも過去最高の興行収入を見込んでるんです」

「期待してるんですよ」と少し興奮気味に話す彼女。
監督がそこまで言うなら、本当なんだろう。
莉麻も自分のことのように、嬉しくなってくる。

「そろそろ、みなさん出てくると思いますので、よろしくお願いします」
「わかりました」

暫くすると最後のシーンを取り終えて、飛行機から出演者と撮影スタッフ達が続々とタラップを降りて来る。

「総司」
「えっ、莉麻」
「お疲れ様」

持っていた花束を総司に手渡すと、少し驚いた表情で彼は「ありがとう」とそれを受け取った。

「莉麻こそ、お疲れ様」
「ううん、私はそんなたいしたことしていないし」
「そんなことないさ。みんなの協力があって、無事に撮影を終えられたんだから」

出演者や撮影関係者達に目が向けられがちだが、影で協力してくれた多くの人達がいることを総司は忘れてはいない。
だからこそ、いい物を作らなければならないと。

「いい映画になったみたいね」
「あぁ、もう最高の出来だよ。それに莉麻とこうして映画を一緒に作れたことが、俺の生涯の思い出だな」

学生時代に映画にのめり込んで、莉麻に出会った。
結果的には映画を選んだ形になってしまったけれど、こうやってお互い映画製作に携われたことは総司にとって何事にも変え難いもの。

「私も良かった。総司と一緒に映画を作れて」
「式は、いつ?」

唐突な質問のように思えたが、暫くケースにしまっていたエンゲージリングは今莉麻の左手の薬指にしっかりと収まっていた。

「うん、これから式場とか探そうかなって思ってるところ」
「そっか。俺は…呼んでもらえないよな」
「え?」
「元彼なんて呼べないよな、普通は」
「ううん。総司が来てくれるなら、喜んで。あっ、でも一応、命に聞いてからでもいい?」

「いいよ」と、苦笑しながら答える総司。
幸せそうな彼女を見て、これで良かったんだと思う。
これで…。

「映画を見たら、一番に感想を聞かせてくれよ」
「うん、わかった。でも私、これでも厳しいから。林監督が褒めても、私はわからないわよ?」
「お手柔らかに頼むよ」

声を上げて笑い合う二人。
そこへ、莉麻の携帯が震え出す。

「ごめんね、電話みたい」
「じゃあ、俺はこれで」
「頑張ってね。たまには、メールを送って。黙って、どっか行ったりしないでね?」
「さぁ、それは約束できないな」

総司らしい言い方だなと莉麻は思う。
笑いながら片手を上げて去って行く総司を見送りながら、莉麻は携帯の通話ボタンを押した。

「もしもし、命?」
『ごめん莉麻、今大丈夫?』
「うん、撮影も無事終わったから。もう少ししたら、帰るけど」
『今、近くに来てるんだ』
「え?」
『待ってるよ。一緒に帰ろう』
「うん、じゃあちょっとだけ待っててくれる?すぐに行くから」

後片付けを終えて打ち上げにも誘われたが、莉麻は全て断って命の元へ急ぐ。
気を使って迎えに来てくれた彼に、すぐにでも会いたかったから。

「ごめんね、待たせて」
「ううん。はい、これ」

「お疲れ様」と差し出されたのは、総司に渡したのとは比べ物にならないくらいとっても大きな花束だった。
ダイヤのリングといい、彼は大きいものが好きなのか…。
でも、彼の気持ちが今は何よりも嬉しくて…。

「ありがとう。嬉しいっ」

周りに人がいようとも、構わず莉麻は命の首に腕を回して抱きつと頬にキスする。

「どういたしまして。さぁ、帰ろう。ホテルを予約してるから、二人でお祝いしよう」
「うん」

命は莉麻の手を取ると指に光るリングにそっとくちづけ、静かに車を走らせた。


END


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※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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