車に乗り込んだものの、隣の彼はあまりにも違うのでついつい見てしまう。
「なんだ?」
「えっ、何でもありません」
莉麻は田村のことを穴が開くくらいジーっと見つめていたものだから、慌てて視線を窓の外に移動させる。
「その顔は、何か言いたそうだけど」
―――そりゃ、言いたいことはたくさんあるけど…。
だって、あまりにも違うわよ?
この人、本当に田村さんなわけ?
「そんなこと…ないです」
「俺が、あまりにも違うからだろう?今日はオフィスに用があって、さすがにあの格好ではマズイんでね」
「そうですか」
―――まぁね、オフィスにはあの格好では行けないわね。
それにしても、馬子にも衣装ってこのことね。
結構っていうか、かなりカッコいいわよ?きっと綾子も、今の姿を写真で見たのね。
だから、いい男だって言ってたんだわ。
こんなところで、妙に納得したりして…。
「急に電話を掛けて、悪かったな」
「いえ」
「初め、友達が出たのか?なんとなく声の感じが違ってたから、間違えたかと思ったよ」
「えっ、ええ。ちょっと席を外していたもので」
―――まさか、電話が掛かってくるとは思わなかったから…。
別に本当の名前を隠すようなこともないのだが、これから先もこうやって会うかどうかもわからないわけだし、どうにも言い出すタイミングを逃してしまう。
「店は俺の方で勝手に決めたけど、よかったかな」
「それは、構いません。デザートが美味しいお店なんですか?」
「何でわかったんだ?」
―――なんでって…。
あれだけ、甘いものについて力説してたくせに。
「甘いものが好きだと、言っていたので」
「まぁ、そうなんだけどさ」
夕食に誘ったのがデザートが美味しいお店なんて、本当に好きなのね?
だけど、どんなお店なのかしら?
どうも、想像つかないのよ。
今の彼を見れば、誰が見てもエリート、勝ち組という感じ。
車だって、ほとんど興味のない莉麻でさえも知っているポルシェ。
そんな彼が連れて行ってくれる食事となれば、相当なものに違いない。
そんなことを考えながら、ふとガラス越しに映った自分の服装を確認してみる。
―――こんなので、いいわけ?
自分では結構気に入っているスカート部分がアシンメトリーになっているワンピースだったけれど、どうも彼とはつり合っていないように思えるのは気のせい?
「どうした?急におとなしくなって」
急に黙り込んでしまった莉麻が、田村は少し心配になる。
―――俺、何か変なこと言ったか?
「あっ、そんなことは…」
「でも、俺もそうだけど、そっちこそ全然イメージ違うな」
「え?」
「この前会った時は、スーツ姿だったから。普段は、そういう感じ?」
「えぇ、まぁ」
なんだか心の中を見透かされたようで、どう答えていいものやら…。
やっぱり、つり合わないって思ってるのかな…。
「俺、そういうの好みなんだよ」
「へ?!」
―――ちょっとっ、何よ。
いきなり…気持ち悪いじゃない。
「しいて言うならば、もう少しスカートが短くてもいいかな」
「はぁ?なんですか、それ。単なる、エロオヤジ発言じゃないですか」
『好みなんだよ〜』とか言って、どうせそんなものよね。
一瞬でも嬉しいとか思って、損したわ。
「エロオヤジとは失礼な。そりゃ、オヤジだけどさ。っていうか、俺が言いたいのは、せっかく綺麗な足してるのにもったいないってこと」
「田村さんって、お世辞がお上手なんですね」
―――今まで誰にも『綺麗な足』なんて、言われたことないわよ?
『立派な足ですね』なら、言われたことがあるけど…。
「あのなぁ。言っとくけど、俺はお世辞なんて言ったことないぞ?」
―――嘘ばっかり。
今、言ってるじゃない。
そうやって、女の人を何人口説いてきたのかしらねぇ?
「その顔は、信じてないな」
「いいえ、田村さんに褒められるなんて。とっても、嬉しいですよ」
「ちっとも、嬉しそうには見えないが」
―――あ〜ん、もうっ!いいじゃない、そんなことっ。
ところで、早くそのお店に着かないの?
そう思った矢先に車が止まったのは、古い洋館の前。
どう見ても、店には見えないが…。
田村はさっさと車を降りてしまい、何も言わずに外から莉麻の側のドアを開ける。
「えっ、ここ…」
「看板はないけど、一応フレンチの店だから」
―――へぇ、フレンチのお店なの?
莉麻はゆっくり車から降りると、もう一度そこに視線を向ける。
赤煉瓦の壁一面に蔦が絡まる、何ともいえない外観に乙女心をくすぐられる。
前回のスィーツ・ショップといい、田村さんって…。
これは彼の趣味なのか、それとも…。
「うわぁっ」
「ほら、もたもたしてないで行くぞ」
「やっ、ちょっ…」
「何するんですかっ」という莉麻の言葉など聞く耳持たずの田村は、腰に腕を回すとかなりの密着度で歩き出す。
彼は背が高いからすぐ側に顔があるというわけではないが、いきなりこんなことをするなんて…。
田村が何を考えているのかさっぱりわからなかったが、なぜかそれが嫌でないことだけは確か。
彼との食事は、きっと楽しいものに違いない。
そう確信した莉麻だった。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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