Mini Mini STORY
ドラマみたいな恋がしたい
9

一台の白い車が、豪華ホテルの前に静かに止まる。

「悪い、迷惑掛けて」
「何、言ってんだ。そんなことより、早く彼女のところへ行ってやれよ」

感謝を込めて深く頷くと友人の「頑張れよ」の言葉を背に受け、階段を駆け上がり、集まっていた大勢の報道陣達を掻い潜って結婚記者会見を行うことになっている会場へ。
そうは思っても、こんなふうにやって来てしまって、彼女の女優としての地位に傷が付いてしまうかもしれない。
でも…。
―――俺以外のヤツなんかに…彼女を渡すもんか。
警備員の制止を振り切って、会場の中に入る。
眩しいほどにたかれたフラッシュのその先には、愛しい彼女の姿…。

絡み合う視線。
一瞬、光も音も全く消え、まるで二人だけしかいない世界に迷い込んだみたいに。

正面を向き、真っ直ぐに彼女の元へ歩みを進める。

「行こう、俺と一緒に」

そう言って手を差し伸べると、彼女は何の躊躇いもなく笑顔でその手を握り返す。
彼女の表情は、かつて誰も見たことがないくらいに輝いていた。

再び動き出した
時間(とき)、しっかりと握った手を二度と離さないように明るい未来へと飛び立つのだった。


END



「・・・・・」
「どうした?桜」

いつもならここで、「いやぁ〜ん」という声が聞こえるはずなのに桜からは言葉がなく、信哉が問い掛ける。

「…いい…話だっ…たぁ…」
「ほら、泣くなって」

目にいっぱい涙を溜めた桜を信哉は自分の胸に抱き寄せた。
韓国ドラマは何度見てもこっぱずかしいという思いに変わりはなかったけど、それをここで言うより彼女を優しく抱きしめてあげることの方がずっといいのだということを知ったから。

「ねぇ、信哉?」
「ん?」
「もしも、事情があってあたしが別の男の人と結婚するようなことになったとしたら、ドラマの中の彼みたいに連れ去ってくれる?」
「あ?当たり前だろ。っつうか、そんなヤツがいるのかよ」

涙を指で拭ってくれた手がピタッと止まり、覗き込むようにして見ているその目が怖い…。
―――ヤダっ、信哉ったら。
冗談に決まってるじゃない。

「いるわけないでしょ?あたしには、信哉しかいないのに」

「俺だって」と、信哉は額をこつんとくっ付ける。
桜が本気で言ってるわけじゃないってわかっていても、ついムキになってしまう自分。
…いつから、こんな男になったのか。

「ありがとう」

『何で?』って顔の信哉に桜から「好き」という言葉と共に不意打ちのキス。
―――だって、嬉しいから。

ドラマはドラマ、あたしはやっぱり信哉が好き。


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