続 守備範囲
2/E


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「何、何?何の話?」

久実子達が話しているところへ、佳織が割り込むように入る。
あれから一週間になるが、毎晩のように司からの電話があっても一度も出ていない。

「合コンの話。佳織には、関係ないでしょ?」
「何よ、私だけ仲間外れにするなんて。ひど〜い」
「御曹司の彼氏がいる人が、何言ってるのよ」
「彼氏なんていないわよ?だから、私も行ってもいいでしょ?」

御曹司と付き合っている佳織が何を言い出すのか…。
久実子は、冗談だとばかり思っていた。
しかし…。

「ちょっと、上条さんは?」
「あんな男、関係ないし」
「関係ないって…付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってる?そんなわけないじゃない。あの人には、婚約者がいるのよ?」
「婚約者?!」

あの、上条 司に婚約者がいたとは…。
だけど、そんな人が佳織をあんなに誘ったりするだろうか?
何かの間違いじゃ…。
彼を見る限り、とてもそんなふうには思えない。

「そうよ。あの男、真面目でダサい風を装ってるけど、腹の中じゃ何を考えてるのかわからないわね」
「彼がそう言ったの?」
「婚約者だって人が、そう言ったんだもの。側に彼もいたし」
「えっ、そうなの?」
「合コン、行ってもいいでしょ?」
「うっ、うん」

そういう事情なら無理に断ることもできないが、このままでいいとは思えない。
佳織の話では、本人がそう言ったわけではないみたいだし…。
久実子はどうしても、この話を信じることができなかった。

+++

合コン当日、佳織と久実子の他、数人の女性が約束の時間に予約していた店に訪れる。
男性陣は既に来ていたが、久実子は品定めどころではなく、客が入って来る度に入口に目が行ってしまう。

あ〜早く来ないかしらっ。

「久実子、どうしたの?誰か、他に来るの?」
「えっ、ううん。そんなことないけど」
「ねぇ、右端の人なんていい感じじゃない?」
「そっ、そうねぇ」

―――久実子好みなのに、どうしたのかしら?
あんまり、乗らないのかな?

今回の合コンメンバーは、佳織の知っている限り、久実子好みが揃ってる。
なのに、この気のない返事はどうしたのだろうか?

「じゃあ、乾杯しようか」と、男性の合図でみんながそれぞれ前にあったグラスを持つ。

グズグズしていると、始まっちゃう〜。

焦る気持ちと祈る気持ちで久実子もグラスを持つと、その時…。

「佳織さんっ」

良かったぁ〜間に合った…。

「えっ、上条さん。何で、ここへ」
「佳織さんが、ここで合コンをされているというので止めに来ました」

どうしてここに司が来たのか、というか合コンのことを知っているのか、佳織にはさっぱりわからなかったが、さっきから何度も入口に目をやっていた久実子に『あっ』と思う。

「久実子ぉ」
「ほら、行きなさいよ。せっかく、上条さんが来てくれたんだから」
「何で、私が」
「ちゃんと彼の話を聞いてあげなさいよ。言うのは、それから」

みんなの視線を浴びて、佳織は仕方なく席を立つ。
司の後に付いて店を出ると、一台の高級車がそこに止まっていた。
今夜は、電車通勤ではなかったらしい。

「さぁ、乗って下さい」

助手席のドアを開けられ、佳織は黙って乗り込むと運転席に司が回り、ゆっくり走り出す。
どこへ行くのか…。
それさえも聞きづらく、佳織はただ俯いたまま黙り込んでしまう。
そんな雰囲気を破ったのは、司の方だった。

「僕のマンションに来ていただいても、いいですか?安心して下さい。何もしませんから」
「当たり前です」

この言い方は佳織らしいなと、それだけでも司は嬉しさが込み上げてくる。
一週間以上、声すら聞けなかったことを思えば何でもない。

どれくらい走ったのか、着いた先は超高層マンションの前だった。
さすが、上条グループの御曹司のことだけはある。

「着きましたよ」

ドアを開けられて、車を降りるとその豪華さを実感させられた。
エレベーターに乗って何階まで上がったのか、佳織はずっと俯いたままだったからわからない。
司に軽く肩を抱かれて、家の中に案内される。
部屋の中はものすごく広くて階段も付いているところを見ると、メゾネットタイプになっているようだ。

「何か、飲みますか?」
「いいえ、それよりどうして」
「きちんと、お話した方がいいですね」

何人座れるのか?大きなレザーのソファーに二人並んで座る。

「初めに言っておきますが、夏子は婚約者ではありません」
「え?」
「彼女が何と言ったかはわかりませんが、それははっきりした事実です」
「じゃあ、彼女は」
「彼女の父親と僕の父が古い付き合いで、上条グループとも関係が深いんです。彼女とは小さい頃からの知り合いですが、恋愛感情を持ったことは一度もありません。信じて下さい」

―――そうだったの…。
でも、あんなことを言ったということは彼女は上条さんのことを…。

「でも、彼女はそう思っていない」
「残念ながら、そういうことになりますね」
「そうですか…」

―――なんか、かわいそうかも。
好きな人に想ってもらえないなんて…。

「僕が好きなのは、佳織さんだけです。本当です。彼女には、僕の気持ちをきちんと話してわかってもらいます」
「えっ、好き?」

今まで、一度も好きという言葉を言ってくれなかったのに…。
いきなりの告白に佳織の心臓は急に鼓動を速める。

「佳織さんは、僕のこと」
「えっ、いや、その…」

―――何、言葉に詰まってるのよ。
はっきり、好きって言っちゃいなさいよ。
と、心の中で思っていても、なかなか言葉に出せない。

「違うんですか?」

夏子のことで誤解していたのはてっきり自分のことを好きだからだと思っていた司は、ガックリ肩を落とす。

やっぱり、こんなに綺麗な人が、ダサい自分を好きになるはずなんかないよなぁ…。

「違います。じゃなくってっ、違わないですっ」
「え?」
「好きなんです。上条さんのこと」
「佳織さん、それ本当ですか?」

黙って頷く、佳織。

「毎日電話で話すのが楽しみで、でも二日間電話がなくて、何かあったんじゃとか色々考えて」
「ごめんなさい。あの時は、僕の不注意で電話を無くしてしまったんです。すぐに見つかると思ったのですが、結局見つからず、佳織さんの番号も黒木君の番号もわからなかったので掛けられませんでした」
「そうだったんですか。私から掛けたら、彼女が出るし…」

「あっ」という佳織の声と共に司に抱きしめられた。
思ったより、ずっとずっと広い胸に力強い腕…。

「佳織さんからの電話があったとわかって、嬉しかったです。僕の一方通行なんだとばかり思っていて」
「そんなこと…」
「ちゃんと聞かせて下さい。佳織さんの気持ち」

至近距離で言われて、さっきにも増して鼓動が速まる。
今までだって男の人に抱きしめられたことは数え切れないほどあるが、こんなにドキドキしたのは初めて…。

「好きです。上条さんが」
「佳織さん」

ぎゅっと抱きしめられて、息ができない。

「かっ、上条さんっ。くっ、苦し…い」
「ごめんなさい。つい」

慌てて腕を緩めた司だったが、佳織はそんな彼を見てクスクスと笑い出す。
そんな、不器用なところがとっても好き。

「佳織さん、そんなに笑わないで下さい」
「だって、上条さん可愛いんですもの」
「それ、男としてはあんまり嬉しくないですね」
「そんなことないですよ」

まだ、クスクスと笑っている佳織に少し不満顔の司。
でも、そんな彼女の笑顔が大好きだった。

「佳織さんの笑顔は、素敵ですね。僕は、大好きですよ」
「そういう恥ずかしいこと、真顔で言わないで下さいっ」
「あっ、佳織さん赤くなってる」
「もうっ、からかわないで下さい」

反対に司にやり返されて、真っ赤になった佳織。
そんな佳織を司は優しく抱きしめると、そっと唇を重ねた。
初めは触れるだけのものだったが、段々深いものに変わっていって…。
キスだけでイかされてしまうというのは、こういうこと。
唇が離れた後、佳織は全身の力が抜けて彼の肩に凭れかかる。

「今夜は、泊まっていってくれますよね?」
「え…」

―――いきなり、泊まり?!

「ダメですか?」
「ダメっていうか…」
「僕の想いを全身で受け止めて欲しいんです」
「全身でって…あっ、ちょ…」

意外にも、彼は行動派のようで…。
だけど、好きになっちゃったものは仕方ないわよね?
その晩は、ずっと離してもらえなかった佳織でした。


To be continued...


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