プリンな彼女
素敵なお姉さん
2/E


今日は招かれてここに来たけれど、お客様だからって座ってるわけにもいかずあたしはお姉さんのお手伝いをしようとキッチンに入って行った。
熱い遙人くんの歓迎で、うっかり渡すのを忘れていたケーキもあったしね。

「お姉さん。えっと、桃さんとお呼びした方がいいでしょうか?」

さっきは咄嗟にお姉さんと呼んでしまったけれど、まだお姉さんになったわけではないしそう呼ぶのは微妙なところだろう。

「あぁ、祐里香ちゃん。あたしはお姉さんと呼んで欲しいんだけど、それは航貴のお嫁さんになった時に呼んでもらうわ。どうせ、そう遠い話じゃないでしょうしね」

遠い話じゃないなどと言われて、なぜか顔が赤くなってしまう。

「はい。あの、渡すのが遅れてしまってすみません。あと、私も何かお手伝いしますから」
「わっ、ありがとう。ここのケーキ、あたしもはるくんも大好きなのよ。それとえーっとじゃあ、このサラダをそこのテーブルに運んでくれるかしら?」
「はい」

大きなガラスの器に盛られたサラダを大きなダイニングテーブルの上に運ぶ。
そこは綺麗にテーブルセッティングされていて、真ん中にはアレンジメントされたお花が飾ってあった。

「このお花は、桃さんが生けられたんですか?」
「そうよ」
「素敵ですね。桃さんはお宅でフラワーアレンジメントの教室を開いてるって聞いてますが」
「そうなの。これでもロンドンで1年間、勉強してきたのよ?」
「すごい。本格的なんですね」

聞くと桃さんは大学を卒業後銀行に就職したらしいが、そこで同僚の女性が習っていたというフラワーアレンジメントに誘われたという。
初めは乗り気じゃなかったのだが、やっているうちに嵌ってしまい、3年後には銀行を退職してロンドンに留学してしまったということだ。
そこで大学病院から短期留学していた今のご主人である真人さんと出会って、日本に戻るとすぐに結婚したと言っていた。

「祐里香ちゃんは、こういうのやったことある?」
「私はないです。華道はちょっとだけ、学校で習ったことはありますけど」

会社でやはりフラワーアレンジメントを習っている子は何人か聞いたことがあったけれど、あまり興味がわかないというか習うまでには至らなかった。
───だって、料理も航貴に習ったのよ?

「なら、やってみない?」
「私にできるでしょうか」
「できるわよ。アレンジメントは華道と違って堅苦しい決まりもないし、自分の思った通りにやればいんだし、ね?」

できるかできないかはやってみなければわからないし、こんな機会でもなければあたしのことだから絶対やらないだろうしね。

「はい、ではお願いします」
「わぁ、祐里香ちゃんが来てくれるなんて楽しみだわ」

桃さんは嬉しそうに鼻歌なんか歌いながら、出来上がったパスタをテーブルに並べていた。

「あの二人、やけに楽しそうですね」

キッチンで盛り上がっている桃さんとあたしを見て、航貴がぽつりと呟いた。

「桃のあんな楽しそうな顔を見るのは、久しぶりかもしれないな」

いつも笑顔の耐えない桃だったが、あんなに楽しそうに笑っている姿を見るのは真人も久しぶりのことだった。

「祐里香と気が合うみたいですね」
「だな。あれじゃあ、一番が祐里香ちゃんで俺はまた最後だよ」

少し寂しげな表情の真人を見て、航貴はなんだか将来の自分を見ているような気がしていた。
恋人同士の時は一番だったはずなのに、子供ができていつの間にか旦那は最後に追いやられている。

「でも、良かった。祐里香はずっと心配してたんですよ。姉貴に嫌われないかって」
「それはないな。あいつ、この前デパートで祐里香ちゃんのことを見て、可愛い可愛いの連発だったからな。俺さ、からかって聞いてみたんだよ。可愛い顔して、めちゃめちゃ性格悪いかもよってさ」

この前、遙人と3人でデパートに買い物に行った時にたまたま航貴と祐里香が歩いているところを遠くだったけど見つけた。
というか、あまりに祐里香が人目を引くものだから、真人も実は目がいっていたとは桃の前では言えないのだが…。
桃はというと可愛いって年甲斐もなく大騒ぎしていたのだが、あんなに可愛い彼女がいるならどうして自分に言ってくれないのかと今度は怒り出す始末。
家に帰ってからすぐに航貴に電話を掛けて問いただしたようで、彼女だとわかってからは家に呼びなさいとすごかった。
真人は試しに可愛い子だけど、性格はめちゃめちゃ悪いかもしれないじゃないかと聞いてみた。
そうしたら、『そんなこと絶対ない!あるわけないわよっ』て断言したから、それ以上は返す言葉がなかったのだ。

「『あんな顔の航貴、見たことないもの。彼女は可愛いだけじゃなくって、絶対いい子に決まってる』って断言したんだよ。俺もそれは思ったんだ。航貴君はあまり自分を見せるタイプじゃなかったからね」

真人の言うように航貴はあまり自分を表に出すタイプではない。
正確に言えば、今まで出さなかったという方が正しいかもししれない。
それが、祐里香の前だけは違ったのだ。
いつも等身大の自分でいられる。
長い間一緒に暮らしてきた桃には、それは航貴の顔を見ただけで一目瞭然だった。

「飾らない祐里香の前では、いつも自然体の自分でいられるんです。だから、さっきみたいな恥ずかしい言葉も平気で言える」
「航貴君にとって祐里香ちゃんは、運命の人なのかもしれないね」

運命の人…。
まさしく、その通りなのかもしれない。



桃さんの作ってくれたパスタやスープはとても美味しくて、フラワーアレンジメントだけではなくて、こっちの方も教えてもらいたいくらいだわとあたしは思った。
それに桃さんは本当に素敵な人で、あたしの憧れでもあった。
───綺麗で優しくて、それでいて面白くて、あたしもあんな人になれたらなぁ。

「航貴、祐里香ちゃんとは結婚を考えてるんでしょ?」

突然の言葉に航貴は飲んでいたコーヒーを思わず噴出しそうになった。

「なっ、なんだよ。いきなり」
「あら、いきなりなんかじゃないでしょ?これは大事なことだわ」

しれっと言う桃さんに航貴だけではなく、真人さんもあたしもどう言っていいかわからない。

「そんなこと急に言われても、俺達はまだ付き合い始めたばかりなんだから、そこまで考えられないよ」

航貴の言う通り、あたし達は知り合ってから5年が経つが、まだ付き合い初めて数ヶ月しか経っていない。
結婚のことなど考えてもみなかったから、この質問は航貴だけでなくても答えるのは難しいだろう。

「結婚するのに付き合った時間は、関係ないでしょ?」
「そうだけどさ…」

桃さんの言うこともわからないわけでもなく、航貴は言葉に詰まってしまう。

「おいおい、桃もそんなに急かすなよ。いくら祐里香ちゃんを義妹にさせたいからって、それはお互い二人の問題であって、部外者がとやかく言うことじゃないんだから」

さすが、真人さんは説得力があるわって感心してる場合じゃないんだけどね。

「じゃあ、これだけは聞いてもいい?航貴には、全くその気はないの?」

ここは何か明確な答えを出さない限り、納まらないだろう。
航貴は観念したように話し始めた。

「ここで俺が何か言うことで、祐里香に余計な気を使わせたくないっていうのが本音だけど。でも、俺の気持ちを知っていてもらうにはいい機会かもしれないな」

航貴はここで一息吐いた、そして。

「俺は一生を共にする女性は祐里香しかいないって思ってる。まぁ、祐里香はどうかわからないけどさ」

最後はおちゃらけるように言う航貴だったけど、この言葉を聞いてあたしの心の中は一気に熱くなった。
航貴はあたしのこと、こんなふうに思ってたんだ…。

「わっ、私も…航貴と同じ想いですから」

なぜか、勝手に言葉を発していた。
ここで言わないと、いけないと思ったから…。

「そう、良かった。その言葉が聞けただけであたしは嬉しいわ。早く、祐里香ちゃんが義妹になる日を夢見てる」

なんだか告白タイムみたいになっちゃったけど、お互いの思いを伝えられてよかったのかもしれないわね。

食事の片付けをしながら、あたしはさっきの航貴の言葉を思い出していた。
あたしも勢いで言っちゃったけど、本当に航貴はあたしなんかと一生を共にして幸せになれるのだろうか?

「祐里香ちゃん、どうかした?あっ、あんまりあたしが話しかけるから疲れちゃったのかしら?」

桃さんにまでいらぬ心配をかけてしまったことに、あたしは自分で自分の性格が嫌になる。

「いえ、そんなことないです。桃さんと話していると時間を忘れてしまって」
「それならいいんだけど。祐里香ちゃん、あんな弟だけど航貴のことよろしくね」
「え?そっ、そんな…こちらこそ航貴には私なんかでいいのかなって」

桃には祐里香が自分が本当に航貴の相手でいいのだろうかと思っていることが、すぐにわかった。
だけど、こんなに可愛らしくてどうしてそんなに不安になるのだろうか?

「祐里香ちゃんは、航貴にはもったいないくらいだわ」
「そんなことないです。私、お子様だから、からかわれてるってわかってるのにすぐ本気になって、航貴を傷つけちゃうんです」

その言葉に桃も航貴の気持ちがわかるような気がしていた。
祐里香は真っ直ぐで純粋で、からかえば間違いなく真剣に返してくるだろう。
それが可愛く思えない男など、いるわけがない。

「まぁ、航貴ったらこんなに可愛い祐里香ちゃんをからかうわけ?そんな失礼なやつは文句の一つや二つ言い返してもいいのよ?祐里香ちゃんが、そんなことで悩む必要ないんだから」

こんなふうに言えるのは、恐らく姉の桃だけだろう。
思わず、祐里香の顔に笑みがこぼれた。

「そうそう、どんな祐里香ちゃんも可愛いけど笑ってる顔はもっといいわね。航貴もそう言うでしょう?」

やっぱり、姉弟なのだなと思う。
桃は祐里香のことをちゃんとわかっているのだから。

「はい」
「う〜やっぱり祐里香ちゃん可愛い。抱きしめたいところだけど、航貴が睨んでるから今回は諦めるわね」

チラっと見ると、不機嫌そうな顔でこっちを見ている航貴とバッチリ目が合った。
遙人くんにも嫉妬していたけど、桃さんにまで…。

あぁ〜でも、桃さんみたいな素敵な人が、あたしのお義姉さんになってくれたらいいな。
近い将来、そうなれば…そんなふうに願う祐里香だった。


END


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