ふたりの夏物語U
-Endless Love-
STORY 8

R-18

「悠(はるか)、俺の名前」
「はるか?」
「女みたいだろ?」
「いえ、素敵な名前ですね。字はどう書くんですか?」

「こう書くんだ」と小西は砂浜に『悠』という字を指で書く。
すっかり陽が沈んで、薄っすらと月明かりに映し出されるそれを二人は寄り添いながら眺めていた。
好きが先で、名前も今知ったなんて…。
こんな恋のスタートは初めてだったけれど、順番なんてこの際関係ない。

「君は?森山何て言うの?」
「私ですか?彩瑛って言います。字はこう書きます」

小西と同じように彩瑛は、砂に指で書いて見せる。
その字を見て思い出したように、小西は『彩』の下に指で一文字追加する。

「何て、読むと思う?」
「あやほ?さいほ…さいぱん」
「そう、サイパン。昔、日本の統治時代に国内では彩帆島と呼称されていたんだよ」

知らなかった。
でも、綺麗な海に温かい人達、この島にぴったりな名前だなと彩瑛は思った。

「そうなんですか?全然、知りませんでした。『瑛』の字は、北海道の美瑛から名付けたと両親からは聞いていたんですけど」

両親がまだ付き合っている頃に北海道旅行の際、美瑛の“親子の木”を見ながらこんな家庭を作りたいねと父が母にプロポーズをしたという話は聞いていた。
その時の思い出を彩瑛の名前に使ったらしい。

「素敵な話だね。俺達もそんなふうになれたらいいな」
「そうですね」

先のことはわからないけど近い将来そうなれば、二人の願いは同じだった。



仲良く手を繋ぎながら小西と彩瑛はホテルの部屋に戻ろうとすると、フロントクラークに呼び止められた。

「どうかしたんですか?」
「俺は今夜、自分の部屋には戻れないらしい」
「え?」

―――戻れないって、どういうこと?
あっ…。
これは、彩瑛が気を利かせて井上に残したメッセージのせい。

『井上さん、今夜は麗香をお願いしますね。   森山』

「どうしよう…」と腕を組んで悩んでいる小西に彩瑛は、どう言ったらいいものか…。
なんだか、誘ってるみたいで嫌なんだけど…。
とはいっても、結果、井上と麗香は上手くいったということなのだから、それはそれで喜ばしいこと。

「悠(はるか)さん?えっと、私の部屋に…」
「えっ、いいの?俺、自信ないんだけど。彩瑛を襲わないっていう」
「おっ、襲わないって…」

彼は、はっきり言い過ぎる。
彩瑛だって、それを覚悟で言ってる…けど、男なんだからもう少し耐えてくれてもいいのに…。

「これって、彩瑛が悪いんだよな?井上にあんなメッセージを残すから」
「げっ…悠(はるか)さんは、知っててそういうこと言うんですか?」
「確信犯だから」

―――うわぁっ、こういう人だったの?
井上さんに残したメッセージの内容を知ってて、わざとあんな困った顔してたなんて…。
今更、後悔してももう遅い。
サイパン旅行最後の夜を好きな人と過ごせるなら、それはとっても幸せなことだから。

部屋に入るとデスクの上にメモが一枚。

「麗香ったらぁ」
「ん?どれどれ」
「やぁっ、ちょっ!返して下さいっ」
「えっと、『彩瑛、小西さんと甘〜い夜を過ごすのよ。明日、機内でたっぷり聞かせてもらうから。  麗香』」
「そんなっ、声に出して全部読まなくたってぇ」

小西がメモを持った手を思いっきり上げると、彩瑛は到底届かない。
―――もうっ、悠(はるか)さんって、すっごい意地悪。
だいたい、麗香もこんなメモを残さなくていいのよ。

「斉藤さんの言うように甘〜い夜を過ごそうか」
「え…やぁっ…っ…」

『何が甘〜い夜よっ』と思ったけど、抱き上げられてベッドに二人横たわるとすかさず唇を塞がれた。
時間稼ぎに「お腹空いたでしょ?」と言ってみたところで、あっさり「後でルームサービスを頼めばいい」と返され、最後にはやけっぱちで「シャワー」と言えば、「どうせ、汗かくし」なんて…どうなの?
そりゃぁ、エステに行ったからお肌もツルツルにはなったと思うけど…。

先にTシャツを脱いだ彼の体は想像以上に筋肉質で、今まで付き合ったどの男性よりも鍛え上げられていて見惚れてしまう。
しかし、その間に彩瑛はタンクトップを首から抜かれ、あっという間にブラまで…。
なんという早業なのか、抱きしめられて肌と肌が触れ合うとお互いの熱が一瞬にして溶け込んでいく。

「慣れてるんですね」
「それは褒められてるのかな?それとも」
「さぁ、悠(はるか)さんのご想像にお任せします」
「そんな顔するなって。俺はこれでも30過ぎてるんだから、それなりに経験だってあるさ」

―――だって…。
わかってても、つい憎まれ口をたたいてしまう。
さっき、年齢を聞いたらちょうど10歳違う。
その間に恋愛していない方がおかしいのに…今は、自分だけを見て欲しい。
我侭だってわかってるんだけど…。

「ごめんなさい」
「今は彩瑛だけだから。ううん、今だけじゃない。これからもずっと」
「ほんと?本当に私だけを見ていてくれますか?」
「あぁ」

確信なんてないけど、その言葉だけは信じたい。
約束のくちづけは、どこまでも深くて甘かった。

「…っぁ…んっ…っ…」

洋服越しにもふくよかな胸に目が行ってしまうことがあったが、実際は小西の大きな手も余るほど。
これも大人の男の余裕なのか、わざと焦らすようにターゲットを外す。

「…悠(はるか)…さん…」
「ん?どうして欲しいの?」

―――意地悪…。
そんなこと、言えないわよ…。

「ほら、ちゃんと言ってくれないと」
「…やぁっ…そんな…意地悪…」
「だったら、ちゃんと教えて。どこが、気持ちいいの?」

「ん?」と言われても…。
でも、言わなければ彼はずっとこのままに違いない。
仕方なく小さな声で…。

「いい子だ」
「子供扱いしてません?」

「そんなことないよ」って、膨れっ面の彩瑛の鼻のてっぺんにチュッてキスすると恥ずかしそうにほんのり頬を染める。
それがまた、たまらなくソソラレル。
小西を喜ばせていることに本人は全然気付いていないから厄介だ。

「…んぁ…っ…あ…っ…」

わざと外していた場所を今度は集中的に攻める。
彩瑛の甘美な声がより一層、小西を欲情させた。
いくらカッコ付けていたって大人の男を装っていても、本気で好きな女性の前ではもろいものだということ。
お互いの身に着けていたものを全て脱ぎ去ると、既に彼自身もいっぱいいっぱいだということが彩瑛にもわかる。
しかし、今回の旅行にはそういう想定をしていなかった小西は、生憎ゴムを持ち合わせていない。
そのまま入れれば、妊娠させてしまうことだって…。

「俺、今日は持ってないんだ。だから」
「私、薬を飲んでるんです」
「でも…わかった。中で出さないようにする」

彩瑛は生理不順で数年前から薬を服用していたが、それで完全な避妊になるとは言えないし、こんな形で体を合わせるとは思わなかったから。
男としてきちんとしなければならないこともわかっているが、責任もケジメも全て受け止めて今は彼女と一つになりたい。
そっと秘部に触れると、そこは自分を受け入れる準備が整っていた。

「入れるよ」

黙って頷く彼女の中にゆっくりと自身を埋める。
出さないようにと言っておきながら、あまりの心地良さにそれも長くは持ちそうにない。

「…んっ…あぁぁぁ…っ…っ…」

しっかりと小西にしがみ付いている彩瑛の爪が背に痛みを感じながらも、快楽の方がそれをも勝っていく。

「彩瑛っ…そんなに締めるな…」
「そんなこと…言われても…んぁっ…あぁぁぁぁ…っ…」

どんどん律動が早くなって、二人の限界は近い。

「…あぁぁぁぁ…っ…悠(はるか)…さ…ん…っ…イっちゃ…う…」
「…っ…彩瑛…愛してる」
「私…も…あぁぁ…っん…っ…」

寸でのところで彩瑛から自身を抜き、白いものを彼女のお腹の上に吐き出しすと、二人の荒い吐息だけが静かな部屋に聞こえていた。



ピピピピッ―――
  ピピピピッ―――
ピピピピッ―――

電子音が鳴り響く。
昨晩はあの後、一緒にシャワーを浴びてからルームサービスで食事を取った。
夜中になって麗香から電話が掛かってきたが、口に出さずともお互い幸福な時間を過ごしたことはわかる。

「悠(はるか)さん、おはようございます」
「おはよう、彩瑛」

抱き合って眠っていた小西と彩瑛は初めて迎えた朝、幸せと共に目覚めると彩瑛が先にベッドから起きてカーテンを開ける。
帰る準備をしなければならなかったから、少し早めに目覚ましをセットしておいたのだが、ちょうど日の出の時間と重なった。
バルコニーに出ると今日もいいお天気のようで、地平線に陽が重なって眩しいくらい。

「わぁ、綺麗」
「そうだな」

背後から小西に抱きしめられて、キスされた。
夏の日に始まった恋、この太陽のようにいつまでも明るい光に満ちていたい。
-Endless Love- 願いを込めて、二人はライジングサンを見つめていた。


END


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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