Actor2
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「おはようございます、米澤さん」
「おはよう、未来(みく)ちゃん」

「あら、大和君も」、一週間振りに顔を合わせた米澤だったが、その後ろから「おはようございます」と珍しく一緒に事務所に現れた大和(やまと)共々、何だか少し肌が日に焼けているように見えるのは気のせいだろうか?

「どうだった?二人ともバカンスは。ゆっくりできた?」

「聞く必要もないか。でも、未来ちゃん紫外線はお肌にとって大敵よ?私の歳になってからじゃ遅いんだから」と言われて、やっぱり…と心の中で反省する未来。
―――だから、私はっ。

「はい。お蔭様でリフレッシュさせていただきました。あの、これはお土産なんですけど」
「私に気を使うことなんてないのに」

それでも、「ありがとう。遠慮なく頂くわ」と未来からビニール製の袋を受け取った米澤は、中身を見て首を傾げる。

「ねぇ。あなた達、一体どこに行ったの?」

お土産についてのツッコミもさることながら、”あなた達”と前置きされて、何だか妙に意識してしまう。
彼女には既に二人のことについては報告済みだけど、こうして彼と一緒にいる時にそういう話をすることはなかったから。

「そのお話は、後ほど」
「そうね。大和君のいないところで、ゆっくり聞かせてもらうわ」

…それは一体、どういう意味なんだ?
理解できない大和を置いて、「仕事の話をしましょう」と米澤は事務担当の女性にコーヒーを3つ持って来るように伝えると一番奥にある会議室へと移動する。

「大和君にはうんっと頑張ってもらったから、次の仕事依頼もガンガンきてるのよ?CMもドラマも映画も」

ドラマ、『LOVEヘルパー −あなたの恋、成就させます−』が記録を打ち破り絶好調だったことで、次回主演ドラマや映画のオファーも既に来ているし、未来と出演したCMの続編も。
晴れて恋人同士になった二人が演じれば、きっともっといいものが撮れると思うが、現段階で未来を表に出すことについては米澤も慎重にならざるを得なかった。
単なる俳優とマネージャーという関係であれば押したことも、それ以上の関係になってしまった今では彼女に対するリスクが大き過ぎる。

「当分はハードスケジュールになると思うけど、未来ちゃんは大和君の体調管理をしっかりお願いね」
「はい、わかりました」

愛する人が側にいれば、まず心配ないだろうけど。

「米澤さん」

真剣な表情の大和。
…そう言えば、ずっと黙ったままだったけど、どうかしたのかしら?

「ん?どうしたの、大和君」
「彼女との交際を許して下さって、ありがとうございます」
「そのことは、私から社長にも話をしておいたわ。初めは驚いていたけど、CMも見てたからお似合いだって。ただ、他の人達はまだ誰も知らないの。だから、できるだけ今まで通り行動は控えてね。未来ちゃんは、一応一般人なんだし」

未来から話を聞いた直後に米澤は事務所の社長のところへ報告に出向いていたが、実際のところ、事務所にとって稼ぎ頭でもある大和のロマンスについては、この時期になぜ?と社長が簡単に了承するはずなどなかった。
ましてや、相手がマネージャーとなれば尚更。
加えて二人の交際を米澤が勝手に許したことに対しても社長は不快感を示していたが、あのCMが役に立つとは。
社長は、出演していた女性が大和のマネージャーである未来だということに全く気付いていなかったのだ。
その件を持ち出したことで最後は快く受け入れてくれたが、米澤だってそうなる自信があったわけではない。
それでも二人を別れさせるようなことだけは絶対にしないという思いだけが、彼女を支えていたことだけは確かだった。

「未来のことは、俺が必ず守りますから。でも、俺の気付かないところで彼女が泣いたり悩んだりすることもあるかもしれません。その時は、力になってあげて欲しいんです」

「勝手なことばかり言って、申し訳ありません」と話す大和はまだ23歳と思っていたが、すっかり大人の男に成長していた。
年上の彼女を守ろうとする彼の想いが、胸の奥深く響いてくる。

「さすが、抱かれたい男No.1ね」
「は?!」

…抱かれたい男って、何だ?

「見てないの?バカンス中だったから、それどころじゃなかったかもしれないわね」

米澤は、「これ見て」と資料と共に持っていた女性誌をペラペラと捲って該当ページを開いて見せる。

【抱かれたい男 第1位 吉原 大和】

その記事を覗き込むようにして見ている未来と大和。
他にも、【恋人にしたい男 第1位 吉原 大和】【洗練されていると思う男 第1位 吉原 大和】部門でも大和は第1位を獲得していた。
毎年恒例となっているこのアンケートは、約1万5000人の女性を対象に行われるもので、テレビの芸能ニュースでもトップで紹介される、いい男の象徴であり最も権威ある?!ものだ。
未来も御多分に漏れず、この号の雑誌は必ず手に入れてチェックしていたし…。
―――内緒だけど。

「最高の男に抱かれるって、どうなのかしら?ねぇ、未来ちゃん」
「えっ…」

―――米澤さんったら、そんなとんでもない質問を私に振らないでっ!!
やだぁ、もう恥ずかしい…。
真っ赤に頬を染める未来が可愛くて、米澤と大和は顔を見合わせて微笑む、いやニヤツク?

考えてみれば、彼は超人気俳優で、そんな男性(ひと)と付き合うということがどういうことなのか。

「その話もジ〜っくり、後で聞かせてね」
「いえ、それは…」

「ナニヨォ、教えなさいよ。それくらい聞いても、バチは当たらないわよねぇ」と、米澤に言われてしまうとこれ以上何も言えなくなってしまう。
―――あぁ、米澤さん。こういうの好きそうだものね。
今まで、浮いた話のなかった未来にはこっちの方が辛いかも?!

「これから大和君は、アルバムの打ち合わせよね。これも間違いなく売れると思うけど、恋に浮かれずにしっかりやってね」
「はい。任せて下さい」



「なぁ、米澤さんじゃないけど、抱かれたい男1位の俺に抱かれた感想を聞かせて欲しいな」
「えっ?!そういうこと、こんなところで言わないでよっ」

周りをキョロキョロ見ている未来
―――運良く、誰もいない…ふう、良かったぁ。

「いいじゃん、減るもんじゃあるまいし」

「減るんですっ」とまたまた、未来は真っ赤に頬を染めながら、この話題を回避するために足早に大和を追い越してスタスタと行ってしまう。
―――そんな感想を面と向かって言えるわけないでしょ?
せっかく、お礼を言おうと思ったのに。

最高の男は、抱かれたいだけじゃない。
自分のことを大切に思ってくれて、守ってくれる。

「なぁ、怒ったのか?」

彼のコンパスでは、未来が早足で歩いてもすぐに追い付かれてしまう。

「ううん、怒ってなんかない。さっきは、ありがとう。すごくカッコ良かった」

「うわっ、ちょっ、何?!」、正直に自分の気持ちを伝えたかっただけなのに大和は未来の腕を引っ張ると事務所ビル内非常階段入口のドアを開ける。

「そういうこと言われると、我慢できないんだけど」
「我慢って…」

強く抱きしめられて、でも、とっても優しいくちづけに酔いしれながら、あの記事のことを思い出して体の奥がカッと熱くなる未来だった。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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