Actor2
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記者会見などというものをまさか自分がやる羽目になろうとは…。
扉の向こうには一体、どれだけのカメラやレポーター達が向かえるのやら。
突然、降って沸いたように現れた新人女優を面白おかしく書き立てるために集まっているに違いないが、ここはきっちりこなさないとS企画の信用問題にも関わる一大事。
とはいっても、気が重いのは確かであって、こんなのを家族が見たら…八丈島の叔父夫婦は大騒ぎだろうし、父は恐らく腰を抜かすに違いない。
いや、その前に娘だと気付かないかもしれないが…。
あぁ、いくら頼まれたとはいっても、こんな大それた事を引き受けるんじゃなかった。

「さぁ、はるか。準備はいい?」

当人よりも妙に張り切っている米澤さんだが、いいも悪いもここまで来てしまった以上引き返すのなんて無理に決まっている。
覚悟を決めなければならないのは山々なんだけど…。

「ほら、はるか。俺がいるんだから、大丈夫だって」

本当なら抱きしめてキスしたいところを我慢して背中をポンと叩く大和の大きな手が、少しだけ力を与えてくれたような気がした。
そうなんだ。自分は今、遥 未来ではなく、女優の“はるか”なんだ。
学芸会で演じたのと同じ、役になりきればいい、ただ座っていればいいという二人を信じて。
ホテルのベテランスタッフが勢い良く扉を開け3人を先導して会見場へと入って行く、一斉にフラッシュが焚かれ、光のシャワーに眩しさのあまり目も開けていられない。
未来一人の会見ではここまで大げさなものにはならなかったはず、隣にはあの国民的俳優 吉原大和がいるのだから。

「それでは、これより映画『Shadow city』に出演することになりましたはるかさんの会見を行いたいと思います」

司会は映画に協賛しているテレビ局の誰もが知っている人気の女子アナだ。
少し冷静になると良く見るベテランレポーターの姿もちらほら目に入ってきたが、彼女が司会に選ばれたのはそんな彼らの暴走を食い止めるためらしい。
そこはS企画、抜け目ない。

「初めにはるかさんのプロフィールと映画出演の経緯につきまして、マネージャーの米澤さんよりご紹介させていただきます。では、お願いします」

美人でアイドル並みの人気を誇る女子アナだったが有無も言わさぬ歯切れの良さ、単に顔がいいだけではない。頭もキレるということだ。

「はるかはみなさんご存知のように某自動車のCMでデビュー、化粧品と続き人気ブランドK's-1のファッションショーにも出演しております」

「名前を明かさなかったのは、事務所の戦略があったからですか?」待ってましたとばかりに割って入るようにレポーターの質問が飛んだが、米澤の咳払い一つで呆気なく鎮圧された。

「ちなみに本日の彼女が身に着けている衣装もデザイナーである景氏が特別に作ってくれたものですので、そちらも是非ご覧になって下さい」

K’s-1のデザインであることまでさり気なく宣伝するあたり、米澤さんにしかできないワザだと関心している場合ではないのだが、目がそちらへ行ったのは間違いない。

「期待されていた方も多い『Shadow city』がクランク・インしてからの降板につきましては、まことに残念な結果となってしまいましたが、監督さんからの熱い要望により、代役としてはるかが出演することは同じ事務所の吉原大和にとってもプラスになることではないかと思っています」

一斉に大和に向けてフラッシュが焚かれた。

「以前から、はるかさんと吉原さんの共演が多いように思いますが、本当のところ、お二人の関係は」

レポーターの鋭いツッコミに表情を変えそうになった、はるかこと未来。
言われた通り、笑顔を振りまくことなくただ前を見つめていたが、心の奥までも隠して演技するのは大女優でも至難の技。
同じ事務所だったのかとわかれば二人が共演していたのも頷けるが、レポーターでなくても疑いたくなる気持ちはわからなくもない。
米澤さんは何と言って、この境地を乗り切るつもりなのだろうか。

「彼女との関係ですか?それは」

割って入った大和、何を言い出すのかレポーター達の視線は一瞬で米澤から彼に移動し、固唾を飲んでじっと見つめる。
言い付けを守って顔色一つ変えず、とは言いがたい表情の未来をチラっと横目に見つつ、際どい質問にまともに答えれば余計に彼らの思う壷。

「俺だけの永遠の彼女に決まってるじゃないですか」

とうとう吉原 大和の本命登場か!!
明日のスポーツ紙朝刊の一面を飾るのは間違いなし。
驚きの声と共にフラッシュが二人を包み、あまりの眩しさに目も開けていられない。
『なんてことを言ってくれるの!!』米澤は中腰になりかけ、さすがの未来もぎょっとした顔に目を瞬かせて彼を見つめる。

「はるかは吉原 大和、専属って決まってるんです。他の男との共演なんてダメですから。ねぇ、米澤さん」米澤に同意を求め「今回の『Shadow city』でもバツイチ男を影で支える彼女とのラブロマンスも是非お願いしますよ?監督」

人差し指と親指を立てながら、ウインクしてカメラの向こうに訴え掛ける大和。

「役の中でなきゃ、俺は相手にされませんから」
「国民的俳優の吉原 大和さんでも?」

これだけの男を相手にしない女性がこの世の中にいるのかという驚きの眼差しを受ける未来は、心の中で『何、勝手なことを言ってるのよ』とツッコミを入れた。

「そうですよ。年下はダメとか、俳優は嫌だとか。もう言いたい放題」

へぇ〜とまるでおばちゃん達の会話のような声が上がったが、どっちが言いたい放題よ。
しかし、さすが年上キラーの大和。
そのおかげで話題が逸れ、矛先が未来に向かうどころか、すっかり彼の話に引きこまれているではないか。
謎の新人女優はるかのことももちろん聞きたいのは山々だったが、普段、なかなかプライベートに関することなど知ることのできない彼の話はそれ以上に魅力的だったということだろう。
誰一人、はるかが言葉を発しなくても不思議に思う者はいなかった。
そして、ナイスフォローも忘れない。

「撮影も進んでいたので残念ではありましたが、はるかさんは新人とは思えない物怖じしない性格と眼がとても素晴らしいので、より一層いいものができると思います。みなさんには、期待して待っていて欲しいですね」

「少しは俺のことも見て欲しいんですけど」おチャらけた言い方に会場内が一気に和む。
一時はどうなることか、米澤も体に悪いと思いつつ、ホっと胸を撫で下ろす。
何より、未来が一番安堵していることだろう。

翌朝のスポーツ紙の一面を飾ったのは、“俺だけの永遠の彼女 ― 吉原 大和の心を掴んだ女性”。

「“一途な男の想いは届くのか、映画『Shadow city』ではるかとのラブロマンス!?監督に熱烈ラブコール”って」

スポーツ紙もそうだが、余程ネタがなかったのかワイドショーもこぞってこの話題を取り上げた。
まぁ、二人の関係を疑うような記事はどこにもなかったのだからヨシとしなければならないのだが、未来にしてみれば、これでは益々、世の女性に恨まれそうで…。

「映画の宣伝効果はバッチリだな」
「これじゃあまるで、吉原 大和ははるかを追い掛け回してるみたいじゃない?」
「実際、そうなんだから」
「え?」

そうなの?
言われてみれば、そうなのかもしれないけど…。
本人にその意識は全くないが。

「監督も映画の中で俺と未来のラブロマンスを入れてくれるかも」
「そんなの入れなくていいの」
「な〜に言ってんだ。本当は入れて欲しいクセに」

そんなことになったら、ただでさえまともな演技ができるかどうかもわからないのに余計に変なプレッシャーが掛かるじゃない。
しかし、米澤さんが喜んでいたのも無理はない。
大和の言う通り、下降気味だった映画の評判が一気に上昇したのは間違いないし、そして彼の好感度も。


To be continued...


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