チーフの腕に抱かれていると心地よくて、いつまでもこうしていたくなる。
あの制服姿の下には、こんなに鍛え上げられた身体が―――。
「はっ?!」
―――私、今なんて?
制服姿の下とか、何とか…。
がばっ。
寿珠(すず)は腕を振り解くと勢いよくその場に跳ね起きたが、隣にはうつ伏せに眠っている角田の盛り上がった背中の筋肉が露になっていた。
―――あっ、そうだった。
チーフからドライブに誘われて、私が空港に行きたいと…その時、告白されたんだっけ。
何だか、まだ夢を見ているみたいで現実には受け止められないでいる。
だって、あのチーフよ?
私みたいな女が一番嫌いだって顔して見てたクセに、こんなの反則じゃない。
「どうした?」
「えっ、いえ…何でも…。起こしてすみません」
「いや。しかし、目が覚めてこれって…いい眺めだな」
「はっ?!」
寿珠は慌てて自分の姿に目をやると、見事に何も身に付けていない。
スタイルはそう悪くないと自分でも思ってはいるものの、だからといって堂々と人に見せられる代物ではないのだ。
ボスっ。
咄嗟に枕を取り上げて、チーフの頭目掛けて投げつけた。
「何するんだよ。せっかく、いいところだったのに」
「いいところじゃないですよ。恥ずかしい」
ここは角田の部屋だったが、ナチュラルなベージュで統一されていて、とても居心地が良い。
ベッドの下に脱ぎ散らかされた服や下着から、お互いどれだけ求め合っていたかが想像できるだろう。
思い出すだけで、体の奥底がカァーっと熱くなってくる。
「わぁっ、ちょっ」
ベッドから抜け出ようとしていた寿珠を角田の力強い腕が抱き寄せた。
「こらっ、逃げるな」
「逃げるわけじゃなくって、私は服を着ようと」
「もったいないだろう?服なんか着たら」
「こんなに綺麗なのに」とか何とか言っているが、綺麗なのは彼の方だと寿珠は思った。
素裸が触れ合うと、より一層、寿珠の心臓の鼓動が加速を速めるというのに角田は、寿珠の肩や背中にチュっと音を立てながらキスを落としていく。
―――あぁ〜なんて、体に悪いのっ。
「チーフっ」
「その、チーフって呼ぶのは止めてくれと言っただろう?」
「だってぇ。チーフはチーフです」
「仕事の時はの話だろ。今は恋人同士なんだから、名前で呼んでくれないと」
「なぁ、寿珠」と耳元で囁くように言われただけで、全身に電気が走った。
機内に居る時の彼は余裕タップリで、恋愛もきっと大人の付き合いをしているんだとばかり思っていたのに…。
どうやら、ちょっと様子が違う?
「待ってっ、チ…りょ…すけ…あっ…」
ヒップのラインに沿って角田の大きな手が大腿を行ったり来たり、流れるようにして秘部に触れると寿珠のあの部分は既に彼を受け入れる体制は整っていたが、それは角田も同じだったのだろう。
熱く硬いものを感じて、彼も自分を欲しがっているのだと。
「…っぁん…っ…」
そのまま、脚に手を掛けて、ゆっくりと角田が入ってくる。
顔にかかっていた緩いウェーブの長い髪を指で流すようにしてそっと耳に掛けると、首筋に唇を這わせた。
寿珠はキャビンアテンダントという仕事柄、薬を飲むようにしていたから避妊をしていなくても、まず心配はないとは思う。
―――でも、彼の子供だったら…。
もう、薬は止めてもいいのかもしれない。
「…ぁっ遼介…」
「可愛い声だな」
「何、言って…っ…」
強がっているが、空港で角田に抱きしめられた時、寿珠は彼の大きな胸の中で迂闊にも泣いてしまったのだ。
今まで張り詰めていたものがプッツリと切れたというか、彼の優しさが本当に嬉しかったから。
こんなふうに受け止めてくれる男性など、寿珠の周りには誰もいなかったし、この先巡り逢えないと思っていたのに。
「そういうところも、可愛くて好きだけど」
「さっきから、恥ずかしいことばっかりっ…」
クスクスと笑っている角田には、悔しいけど一生敵わないだろう。
私としたことが、空の上で恋に堕ちるなんて…。
「俺は、寿珠に惚れてるからな。いくらでも、恥ずかしい言葉を言えるぞ?」
「じゃあ、好きって言って?私がいいって言うまで、何度もよ?」
「あぁ、いいよ。その代わり、今夜は寝かさないから覚悟しろよ」
―――えっ、そんなぁ…。
約束通り、角田は何度も寿珠のことを『好きだ』と言ってくれたけれど、それ以上に激しく求められて、心も体もどうにかなってしまいそうだった。
+++
皆様、当機は新東京国際空港を定刻通り離陸いたしまして、ただ今、水平飛行に入っております。
ローマ・フィウミチーノ空港到着時刻は、現地時間でX月XX日、午後5時40分の予定でございます。
現地の天候は、晴れ、気温は摂氏XX度の見込みでございます―――。
情熱の国、イタリアはローマに向けて出発したジャパン・スカイエアー006便の機内はいつもと変わらない。
本日のファーストクラス席の乗客リストの中には有名な若手俳優の名があったが、今の寿珠にはどんなイケメン俳優であろうと、大金持ちであろうと関係なかった。
「今日は、すごい人が乗ってるわね。あの、イケメン俳優の高橋 歩(たかはし あゆむ)よ?撮影か何かかしら?気合い入れなきゃ」
絵里子は、かなり興奮気味だ。
以前の寿珠だったら、彼女以上に気合を入れていたかもしれないが、彼の前には高橋 歩すら、霞んで見えるのは本気の恋というものの、成せる業なのか。
「そうね」
「何よぉ、その気のない返事は。高橋 歩なのよ?寿珠の大好物じゃない」
「はっ、そういうことをここで言わないでっ!!」
無常にも、角田の視線が突き刺さる。
―――あぁ…聞かれちゃったわよね。
あの人、案外嫉妬深くって、後で何を言われるかわからないわよ。
「高橋 歩は、絵里子に任せるから」
「えっ、いいの?」
「どうぞ、ご自由に」
…寿珠が私に譲るなんて珍しい。
はは〜ん、誰かいい男でもできたのね?
まさか、チーフだったりして。
クックック。
勘の鋭い絵里子がそこまでチェックしていたとは知らず、寿珠は角田の下へと急ぐ。
「高橋 歩が、大好物なのか?」
「あっ、前はね」
「今は?」
「わかってるでしょ?」
「ほら、ネクタイ曲がってるわよ」と話を逸らすように寿珠は、角田のネクタイに両手を添えた。
狭い機内で誰にも気付かれずに会話をするのは大変だったけれど、それがまた快感だったりもして…。
―――だって、制服姿の遼介って、特にカッコいいんだもん。
今度、写真撮らせてもらわなきゃ。
「お客様が呼んでるな。あいつじゃないのか?」
「大丈夫、絵里子に任せたから」
だから、ほんの少しの間だけ。
寿珠は角田の首に両腕を回すと、くちづけた。
ひとまず、END
お名前提供:高橋 歩(Ayumu Takahashi) … nana さま
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※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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